草食化よりも経済的な不安のほうが大きい!

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 7月1日に総務省から人口動態調査(2015年1月時点)が発表され、国内の人口は1億2616万3576人で前年比で約27万人減少していたことがわかった。年間減少幅は調査を始めた1968年以降、最大で出生数も1979年の調査開始以降で最少の100万3554人。これに危機感を募らせた人は多く、新たな“国難”ともいえる状況に政府も対策に本腰を入れ始めている。

 これにメディア上では「若者の草食化」という言葉が飛び交い、さらには「彼女諦め男子」なる造語まで生まれている。だが、本当に若者世代は「恋人いらない」「結婚したくない」という、今までの若者とは異なるニュータイプに突然変異してしまったのだろうか。

少子化の原因は「草食化」ではない

 当然、人口減少の最大の要因となっているのは「少子化」だ。6月に発表された2015年版「少子化社会対策白書」では、20〜30代の7000人の恋人がいない男女に「恋人が欲しいか」を質問。「欲しい」が約60.8%で「欲しくない」は37.6%だった。これでは人口が上向くわけがない。

 この調査結果に対する大手紙の論調は似通っている。朝日新聞は「若者たちの『草食』ぶりが示された」と論じ、毎日新聞は「男女ともに“草食化”“絶食化”をうかがわせる結果」と記した。産経新聞の関西版は「異性のことばかり考えていた世代には信じられない」という言葉で若者世代を異端視している。

 これは同調査で「恋人を欲しいと思わない理由」として「恋愛が面倒」「自分の趣味に力を入れたい」が上位だったことに影響された面があるだろう。しかし、それよりも重要視すべきは男女とも所得が低い人ほど恋人を求めていない傾向が強かったことだ。実際、ある男性向け調査では「彼女を諦めている理由」として「金銭的な余裕がない」が45.0%でトップになっている。

「結婚」をテーマにした調査ではさらに顕著になる。内閣府の「家族と地域における子育てに関する意識調査」では、結婚を決意する状況について未婚の男女ともに「経済的に余裕ができること」との回答がトップになった。また、未婚男女の約7割が「結婚したい」と答えており、20代女性では95.8%が結婚を希望。結婚意欲は決して大きく下がっているわけではない。

 結婚意欲は下がっていないのに「恋愛離れ」が叫ばれるというのはおかしな話にも思えるが、これも経済的な理由から考えれば納得がいく。余裕がなくなるほど無駄ダマは撃てなくなる。つまりはゴールインにつながらない恋愛はしにくくなる。特に女性は「恋愛=結婚=子供」という図式が強まっているといわれ、気軽に恋人をつくるわけにはいかない。

 これに生活の多様化や趣味の多彩化、独り身でも寂しさが紛れるSNSの普及なども加われば未婚化は必然だろう。だが、それらはあくまで二次的な要因であり、最大の理由は「経済的・将来的な不安」に尽きるのではないだろうか。

「若者イジメ」が招いた結果…政府・自治体のズレた感覚

 これは恋愛や結婚だけでなく、近年メディアで騒がれた「若者のマイホーム離れ」「若者のクルマ離れ」などといった事象でも最大の要因であると考えられる。「さとり世代」という言葉で表現されることもあるが、若者が持ち家や自動車を欲しがらなくなったわけではなく、経済的余裕も将来的な希望もない時代に静かに適応しただけ。それなのに家や車を無計画に買えというのは無理な話だ。

 それと同じように結婚や恋愛から遠ざかってしまうのは仕方ない。今の若者世代もお金と将来の余裕があれば「恋人を作って結婚して子作りもしたい」「家も車も欲しい」となるだろうが、先立つものがないのだ。政府が繰り返してきた「若者イジメ」の結果ともいえるだろう。

 だが国は「各自治体を通じて出会いの場を提供する」「出生率の高い地方への移住を促す」などとズレた対策ばかり打ち出している。もちろん出会いの場は求められているだろうが、それより若者たちの不安を解消する方が先だ。だが、政府は問題の本質から目をそらし続けている。

 それどころか2013・2014年度補正予算で「地域における少子化対策の強化」として計60億円超が地方にバラ撒かれ、婚活イベントなどを開催させている始末。子育て支援の拡充や若者の雇用安定が何よりもの特効薬となるが、根本的な原因は見えていないのか、見ようとしていないのか、手を付けようとしない。

 海外に目を向けると、フランスでは学費や出産費用の無料化、子育て世代への減税などといった施策を打ち出し、スウェーデンは教育費・出産費用を国が負担することに加えて児童手当の強化や夫婦合わせて計480日分の育児休暇(390日間は給与の8割を補償)などを制定。かつては両国とも深刻な人口減少に悩んでいたが、近年は出生率が急激に回復してきている。婚活パーティーで尻を叩いてやればいいという、日本政府の考え方が幼稚すぎて恥ずかしくなるほどの充実ぶりだ。

 政府やマスコミが「若者の草食化」という都合のいい言葉で問題をゴマかしているうちは、日本が傾きかねない人口減少は止まらないだろう。

(文/佐藤勇馬)