ギリシャを救う聖闘士は現れるのか?

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 まさかの「NO」--。

 欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)の要求する緊縮財政案を受けいれるか否かについて行われたギリシャの国民投票。世界の予想を裏切って、答えは拒絶。 2010年の金融危機発覚以来、噂に上ってきたギリシャの<デフォルト(債務不履行)>や<EU離脱>が現実的になってきた。

 公務員人口が全国民の10%、総労働人口の25%となる100万人。社会保障給付費と人件費が利払い後歳出の70%を占め、年金額も現役時代と変わらないほど高く、しかも受給開始が55歳。財源も無いのに大きな政府から手厚すぎる社会保障を貪るギリシャ国民は、すっかり世界中から<怠け者><厚顔無恥>というイメージがついてしまった。

 そもそもギリシャといえば西洋文明発祥の地。数々の哲人や歴史家、科学者が古代にして既に知や文明の体系を築き上げていた。そしてオリンポスの神々に代表される豊穣なギリシャ神話の世界……これまで我々のギリシャに対するイメージも、そんなものだったはず。ある年代にとっては、人気漫画・アニメ『聖闘士星矢』<セイントセイヤ>の世界である。

 <『聖闘士星矢』は、1985年末から車田正美(注1)が週刊少年ジャンプで連載を開始した人気漫画。主人公の星矢はギリシャの聖域<サンクチュアリ>で女神<アテナ>を守護する聖闘士<セイント>となる修行を積み、その証である星座をかたどった聖衣<クロス>を手に入れる。そして仲間の青銅聖闘士<ブロンズセイント>たちと共に、神々の闘いに加わっていく--。

 1986年にはアニメ化され、聖衣の玩具などが爆発的ヒット。欧州など海外でも大人気を呼んで、今も続編やスピンオフが作られ続ける歴史に残る作品だ>

 やや強引だが、ギリシャ繋がりで原作「聖闘士星矢」最大の人気シリーズである<十二宮編>に喩えてみると…。

「聖闘士星矢」にあてはめると

 まずギリシャ人にとっての聖域は<手厚い社会保障>。それを死守しようとする聖闘士の最高位、黄金聖闘士<ゴールドセイント>たちはギリシャの歴代政権だろう。そこへ挑む星矢たち青銅聖闘士は、財政再建を求める欧州各国だ。天馬星座<ペガサス>の聖衣をまとう星矢は、最大の債権国ドイツ。何だかんだありながら、いつも行動を共にする龍星座<ドラゴン>の紫龍はフランス。そこから距離を置いて立場を明確にしない鳳凰星座<フェニックス>の一輝は、まさにイギリスだ(注2)。

 十二宮最初の白羊宮には、星矢たちに理解を示す牡羊座<アリエス>のムウが居た。さしずめ一度は緊縮財政案を受け入れようとしたパパデモス元首相にあたる。次の金牛宮は牡牛座<タウラス>のアルデバランが一悶着のすえ星矢たちを通すので、反緊縮財政派ながら穏健なサマラス元首相に重なる。問題は次の双児宮……入ると主が不在で、青銅聖闘士たちは異空間に飛ばされる。本来は双子座<ジェミニ>のサガの支配する宮だが、この不在と混乱は、国民投票に逃げた現チプラス政権の無責任体質とよく似ている。

 かくして「聖闘士星矢」十二宮編にあてはめると、いまここ。漫画はこの後、次々と強大な黄金聖闘士が登場して星矢たちの行く手を阻む(注3)。そして、すべての黒幕の教皇が、実は二重人格であるサガのもう一つの顔だった…というクライマックスを迎える。

 今回、チプラス首相をサガに擬したが、無責任を許したもう一つの顔(教皇)とは、ギリシャの国民性そのものだ。まさしく<双子の悲劇>を迎えたギリシャを救う聖闘士は、現れるのだろうか?

(注1)車田正美…ギリシャ神話が大好きな車田先生。ファンタジー・ボクシング漫画『リングにかけろ』でも、ギリシャを強豪国として描いた。
(注2)青銅聖闘士…他に白鳥座<キグナス>氷河とアンドロメダ座の瞬がいる。
(注3)黄金聖闘士…獅子座<レオ>のアイオリア、乙女座<バルゴ>のシャカなど、強烈に魅力的なキャラクターが続々登場。未読の方はぜひご一読を。

著者プロフィール

コンテンツプロデューサー

田中ねぃ

東京都出身。早大卒後、新潮社入社。『週刊新潮』『FOCUS』を経て、現在『コミック&プロデュース事業部』部長。本業以外にプロレス、アニメ、アイドル、特撮、TV、映画などサブカルチャーに造詣が深い。DMMニュースではニュースとカルチャーを絡めたコラムを連載中。愛称は田中‟ダスティ”ねぃ