ピース又吉だけじゃない! 芸人と作家の意外な親和性
50万部突破のベストセラーとなった、ピース・又吉の処女小説『火花』(文藝春秋社)。この作品が生まれるまでを、作品のモデルといわれている芸人・烏龍パークの橋本武志(38)や、最初の読者パンサー・向井慧(29)などの証言を得て、7月7日発売の「FLASH」(光文社)が掲載している。
芥川賞候補にもなったピース又吉の『火花』。だが、芸人が小説を出版することは珍しいことではない。
劇団ひとり(38)の『陰日向に咲く』(幻冬舎・2006年)は100万部、品川庄司・品川祐(43)の『ドロップ』(リトルモア・2006年)は80万部以上で、共に映画化された。
他にも、爆笑問題・太田光 (50)の『マボロシの鳥』(新潮社・2010年)は15万部。インパルス・板倉俊之の『トリガー』(リトルモア・2009年)はコミックス化。5万部も売れたらヒットといわれる一般小説の世界で、芸人小説はかなり猛威を振るっているのだ。
不況といわれている出版業界で、こういった流れは歓迎されてはいる。ところで、なぜ芸人は小説を書くのか? そこには意外な親和性があると、出版関係者が語ってくれた。
小説を書く下地ができている、芸人という職業まず、芸人が小説を書く動機として、業界の厳しさがあるという。
「芸人は浮き沈みが激しく、生き残りに必死です。その中で、小説という選択肢が生まれる。芸人はコントや漫才を演じていて、面白い話を作る基本はすでにできています。しかも、書くだけなら元手はかかりませんから、手を付けやすい」
そして、売上げが立ちやすい環境にもある。
「知名度があり、メディア露出も多く、フリートークの場も多い。そのため自分の本を宣伝することも簡単です。さらに芸人の間で話題にしてくれれば、さらに高い宣伝効果になります。爆笑問題・太田などは本をよく読み、テレビでも発言しますから、その影響力はかなり高いですね」
芸人が書いたということで読者も手に取るハードルが低くなり、本人と作品のギャップを面白くとらえる。これも芸人と小説の相性のよさにつながるのだそうだ。
「芸人だからこそ、知的な出版という分野に惹かれるのでしょう。ストーリーテリングに長けている芸人は、どんどん出版や脚本などの分野に進出するといいと思います」
今後、「芸人小説」はさらに増えていくことだろう。
(取材・文/タナカアツシ)