勝者は霞ヶ関だった photo via flickr by JUN FULL

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 今年6月、東京証券取引所1部、2部の上場企業に、新たに3000人の雇用が生まれたのをご存知だろうか。

 傘下に東証1部と2部を抱える日本取引所グループが、「2名以上の独立社外取締役の選任」を義務付けた。

 1部と2部の企業数は約2400社。社外取締役を選任している企業はあるものの、「ゼロ、もしくは1人」というケースが多く、「2人義務付け」で、約3000人の「社外取締役マーケット」が誕生した。

 月に1度か2度の取締役会出席で、大手になると平均年収は1000万円を超える。

 今年2月、日本取引所グループが、「社外取締役が半数を占める欧米型企業統治をモデルに、社外の視点を取り入れて企業経営の規律を高める」ことを目的に、この指針を打ち出してから、「マーケットの勝者が誰か」に注目が集まった。

 株主総会集中日の6月26日を経て、結論が出た。「勝者は官僚OB」だった。

『朝日新聞』(6月27日付)が、日経平均株価算出対象企業(225社)の公開資料をもとに調査したところ、約2割が官公庁出身者だった。

新たな天下り先が増えただけ

 最も多いのは5割超の「企業に利害関係のない経営者や経営幹部」だったが、これは社長・会長が、学閥や地縁血縁、異業種交流における友人知人で選ぶから想定内だ。

「新しい血」がどこから来るかを注目していたら官僚OBだったわけで、「新たな天下り先」を増やしたようなものである。

 他には、宇宙飛行士の向井千秋(富士通)、ノーベル化学賞受賞者の野依良治(東レ)、作家の幸田真音(JT)、元サッカー日本代表監督の岡田武史(日本エンタープライズ)といった著名人を受け入れた企業があった。

 官僚OBの次に多かったのは、大学教授などの学識経験者と、弁護士・公認会計士などの士族、報道記者、ジャーナリストなどマスコミ関係者だった。

 本来、社外取締役に求められる機能は、経営者の暴走、開き直り、居座りに対して、反省を求めて直言、株主の側に立って、会社を守ることだろう。

 しかし、社外取締役がこれまで機能しなかったのは、過去の不祥事が物語る。

 発覚すれば、経営陣は隠蔽で対応、バレたら慌てて陳謝、記者会見を開いて深々と頭は下げるが、反省はしておらず、だから責任を取らない。それに対して、社外取締役がキツく迫ることもない。

 その反省のもと、企業経営に規律を持たせようと、今回、マーケートが創出されるぐらいの人員を求めたら、企業側が求めたのは、リスクを取らない官僚OBが中心だった。

 これでは、多くを望めそうにない。

伊藤博敏ジャーナリスト。1955年福岡県生まれ。東洋大学文学部哲学科卒業。編集プロダクション勤務を経て、1984年よりフリーに。経済事件などの圧倒的な取材力では定評がある。『黒幕』(小学館)、『「欲望資本主義」に憑かれた男たち 「モラルなき利益至上主義」に蝕まれる日本』(講談社)、『許永中「追跡15年」全データ』(小学館)、『鳩山一族 誰も書かなかったその内幕』(彩図社)など著書多数