フィジカルに焦点を合わせ、武藤の凄さに迫る。 (C) SOCCER DIGEST

写真拡大 (全2枚)

 イングランドの強豪チェルシーから正式オファーを受けた武藤嘉紀は、いま日本サッカー界でもっとも注目を集める選手のひとりだ。FC東京では開幕から7試合でリーグ2位タイの5ゴールを挙げ、チェルシーのオファーが公になってから2戦連続ゴールと、ピッチの上でも文句なしのパフォーマンスを続けている。
 
 欧州のトップクラブも認めた武藤は、なにが優れているのか。ここでは「フィジカル」に焦点を合わせ、その凄さを解明する。アスリートのフィジカル・コンサルティングを専門とする『フィジカリズム』のランニングコーチ、横原和真氏の分析でお届けしよう。
 
――◆――◆――
 
 武藤選手のフィジカル分析をさせていただきますが、主に走り方に着目して解説を進めたいと思います。
 
 プレーを見ての第一印象は、とにかく動き方がうまいということです。とても効率がよく、身体のさばきが本当にうまい。
 
 上半身は基本的に崩れず、脊柱起立筋(背骨に沿って縦に走る筋肉)にほどよく緊張を入れ、股関節筋群も自然と締まっていて、小刻みに足を置くスタイル。脚が後ろに流れるところが全くない。いわゆる、後ろに蹴りあげる姿がない。意識的してやっているのか、あるいは無意識にやっているのか知りたいところですね。
 
 このバランスの良さは、体幹の強さでは測れないところです。例えば、長友佑都選手と比較しても、その走り方は異質に感じます。
 
 長友選手の場合は、かなり重心が低いですね。膝が曲がった状態で、姿勢が低く、地に足をつけて動いている印象です。かなり一生懸命に走っていると思います。この走り方で90分間持つのは、心肺機能の高さと身体能力の高さゆえでしょう。
 
 武藤選手は、長友選手とは全く違う走り方をしています。まず、ものすごく歩幅が狭い。人が3歩で行く距離を、武藤選手は4歩ぐらいで行っています。これが意味するところはなにか。他の選手よりも、脚の回転数が高いということです。
 
 武藤選手の上体にも注目したいですね。走っている方向にきちんと身体が向いていて、横を向いたりしない。つまり、捻りの動作が加わっていないのです。この走り方はいわゆる「二軸走法」と呼ばれるもので、詳しくは割愛しますが、非常にエネルギー効率の高い走り方です。
 
 頭は空間認知をするために振ったりしていますが、身体は常に行きたい方向に向かっている。脚の回転数が高く、攻守を素早く切り替え状況に対応できる能力がある。アタッカーとしてだけでなく、ファーストディフェンスが評価されているのもそういう部分にあるのではないでしょうか。
 
 武藤選手のプレスは、まさに前述したような身体の動かし方の特性が生きています。歩幅が狭く、相手からすれば想像よりも速い回転で迫ってくる。実測云々ではなく、物凄いスピードで迫ってきているように感じるのではないでしょうか。
 
 そのプレスをかわそうとタイミングを外そうにも、脚の回転数が高いため、ボールを持ったディフェンダーが武藤選手のプレスにペースを乱されるというシーンは何度か見受けられました。
 他の選手と比較して、トップスピードに乗るまでの時間が非常に短いという点も、武藤選手の特長として挙げられます。
 
 武藤選手はゼロから一気にエンジンをかけ、すぐにトップスピードに到達するのです。短距離走のランナーに非常に近いものがありますね。小刻みに脚を動かすため、20メートルや30メートルのダッシュエリアだと武藤選手は極めて速いと思います。
 
 サッカー選手で似たタイプと言えば、これはもう文句なしにクリスチアーノ・ロナウドです。彼も基本的に重心が高く、胸を張っている。腕の振り方も特徴的で、ペンギンのように腕を上げないで振っています。