給料異変!? なぜファナックの年収は元親会社の富士通より高いのか
■儲けよりも親子の論理が勝る世界
親会社と子会社の給料水準について、考えてみましょう。
通常、企業ごとの賃金水準は、「企業規模」「業種」「収益力」に沿って決まってきます。
大企業>中企業>小企業
マスコミ、商社、金融>製造業>小売業、ホテル・飲食業
高業績企業>低業績企業
しかし、ここに親会社・子会社という関係を加えると、全く異なった景色が見えてきます。
表は、金融機関を子会社にもつ親子企業間の平均年収(2014年決算時。以下同じ)比較です。一方が持ち株会社(ホールディングス)組織のケースもあり、正確な比較はできませんが、一様に親会社側の平均年収が上回っています。子会社側が、通常賃金水準の高い金融機関であるにもかかわらずです。
大企業であれば、何十、何百といった子会社、関連会社を有しています。このような子会社、関連会社は通常、親会社よりも低い給料となっています。従業員の賃金水準を抑制することも、グループ会社設立の目的の一つだからです。
たとえば、親会社が自ら工場を建ててつくるよりも、賃金水準の低い子会社を設立し、製造を委託する方がコスト面でのメリットが大きい。そのため、子会社の方が社員数は多かったとしても、規模の論理は成り立たず、親会社よりも低い賃金水準となるのです。
また、上記のように親会社との取引関係で成り立っている会社の場合には、生産性や収益性の論理も成り立ちづらいといえます。親会社からの発注価格1つで、収益はいかようにも変化してしまうからです。1個100円で発注している部品を90円に引き下げただけで、子会社の売上高は10%低下し、利益はそれ以上に吹き飛んでしまいます。そのため、子会社側がいくら高収益であっても、親会社より高い賃金水準になることは難しいのです。
■子会社政策は、ファナックに学べ
業種間のセオリーも、ここでは成り立ちません。大手百貨店が仕入れを集約するための専門商社を子会社として設立したとします。業種的には、小売業よりも商社の方が平均賃金は高いのですが、このケースでは、おそらく親会社である百貨店の賃金水準を上回る設定にはならないでしょう。すなわち、規模の論理、業種の論理、収益性の論理を超えて、グループ企業の論理が勝るということです。
また、給与面以外でも、子会社・関連会社によっては、役員や幹部層の大半を、親会社からの出向者や転籍者が占めているケースもあります。ここでも、親会社の中高齢社員の受け皿としての、グループ企業の論理が優先されるのです。設立からの年数が浅い会社は人材不足なので仕方ありませんが、何年経ってもこのような状況が続けば、子会社のプロパー社員のモチベーションは下がってしまいます。
ところが、まれに「親会社>子会社」の法則を打ち破る会社もあります。ファナックという山梨県に本社を置く、東証一部上場の産業用ロボットなどを製造している超優良メーカーがあります。この会社は、もともとは富士通の子会社でした。その富士通も、もともとは富士電機の子会社でした。すなわち、ファナックは富士電機から見れば孫に当たります。
しかしながら、社員の平均年収は、富士電機712万円、富士通770万円に対して、ファナックは981万円と、見事に逆転しています。
もちろん、高い年収には、その裏付けとなる収益力があります。正社員1人当たりの経常利益では、約5000万円と、極めて高い生産性・収益性を誇っています。
このように、取引関係、資本関係において親会社から独立し、高い生産性、収益性を実現することができれば、賃金逆転は不可能ではありません。しかも、このことは親会社にとっても、大きなメリットをもたらしました。ファナックが上場し、高い株価をつけたことで、大株主であった富士通や富士電機は、株式を売却することで多大な利益を享受できたのです。
ただし、ファナックなどのケースは例外中の例外で、たいていの企業グループにおいては、今でもグループ内の論理が優先しているのです。
(新経営サービス 常務取締役 人事戦略研究所所長 山口俊一=文)

