By Mike Deerkoski

現在53歳のティム・クックCEOは、約3年前にスティーブ・ジョブズ氏からAplleのCEOの座を引き継ぎましたウォルト・ディズニーやヘンリー・フォードのように、ジョブズ氏はAppleという企業と密接に関わっており、「ジョブズこそAppleであり、Appleこそジョブズ」と言っても過言ではない程にAppleにとって大きな存在である、と誰しもが考えています。それに比べてクックCEOは「舞台裏の工作員」という地味なイメージを持たれることが多いのですが、実際にはApple全体のイメージを一新すべくいろいろ仕掛けているようです。

Tim Cook, Making Apple His Own - NYTimes.com

http://www.nytimes.com/2014/06/15/technology/tim-cook-making-apple-his-own.html



◆人種問題への強い意識

AppleのCEOであるティム・クックCEOは、1970年代初頭のアラバマにて忘れられないものを見たそうです。幼いクック少年は買ってもらったばかりの10段変速の自転車に乗って帰路についていた際、とある家の前で大きな十字架が燃やされている所に遭遇し、この十字架はある黒人家族の持ち物であることを思い出します。十字架の周りには白人至上主義団体のクー・クラックス・クランが、白色のコートとフードをかぶって人種差別的な歌を歌っていました。

クック少年が「やめてください!」と大声で叫ぶと、ひとりの男がフードを取ります。その男は、地域の教会で助祭を務める人物で、そんな人が人種差別を行っていたことに心底震えた、とのこと。

この出来事についてクックCEOは、「このイメージは永久に私の脳に焼き付けられています。そして、これが私の人生を常に改めてくれるでしょう」と、2013年12月に行ったスピーチの中で発言しています。他にもこのスピーチの中で、人生の中でどんなことをしたとしても、人権と尊厳は正当に扱われるべきである、という新しい認識が生まれた、ともコメント。そして、クックCEOはAppleでも「人間らしさを尊重していく」と述べています。

Tim Cook receiving the IQLA Lifetime Achievement Award - YouTube

このようにクックCEOは定期的にチャリティオークションを開催して収益を人権団体に寄付していることからも、人権問題に強い関心を抱いていることが分かるわけですが、その他にも彼の人物像が徐々に明らかになってきています。

例えば、「十字架が燃やされていた」というエピソードにおける、クック少年の反応だとか助祭の見た目などに関する詳細部分を公に明かすことはありませんでしたが、このストーリーを公の場で話すことで、クックCEOは徐々に自分の個性とスタイルを表してきており、Appleにおける自分自身のリーダーシップのイメージを特徴付け始めている、とThe New York Timesは指摘。



By Andy Ihnatko

◆財政面での取り組み

現在のAppleの売上はかなり大きな額ですが、売上を2010年の650億ドル(6兆6400億円)から2013年の1710億ドル(17兆4700億円)まで伸ばした際の成長率が今後も続くとは多くの投資家たちは思っていない、とのこと。2013年の決算報告によると、この年の売上成長率は前年比で9%と、2004年から2013年まで9年間の平均売上成長率である40%を大きく下回っていることが判明しています。また、Appleの株価は2012年のピーク時から約半分程度の金額にまで落ち込んでいることもあり、多くの投資家はAppleがこれまでに発表してきた「魔法」のような新製品を期待し、iWatchやiTVといったプロダクトのリリースを心待ちにしているわけです。

Oracle Investment Researchのチーフ・マーケット・ストラテジストであるLaurence I. Balter氏は、クックCEOは事業部門やサプライ・チェーンのマネジメント、原材料の確保などにおける熟練の技術は持っていますが、デザイン面での先見性は持ち合わせていないだろう、と指摘。しかし、その上でクックCEOは「信用に足る人物だ」とコメントしています。また、Balter氏はAppleを金融界の「ロックオブジブラルタル」と称賛していますが、これからも著しい成長を続けていく企業であるかどうかが大きな問題となる、とも言います。

そんな状況の中、クックCEOは株主からの信頼を取り戻すために株を分割し、配当金を増やして900億ドルの買い戻しを巧みに実行しました。他にもクックCEOはシェアを高めるために巨大な中国市場への参入を決めたり、30億ドルかけて音楽業界で大きな影響力を持つDr. Dre氏とJimmy Iovine氏のBeatsを買収したりと、ジョブズ氏の率いてきたAppleよりもかなりアクティブに動き回っていることは確かです。



By Kārlis Dambrāns

◆プロダクト関連への取り組み

Appleのインダストリアルデザイングループ担当上級副社長を務めるジョナサン・アイブ氏は、クックCEOはAppleのメインミッションである「イノベーション」を怠ってはいない、と言います。

ジョブズ氏がデザインに関して熱心であったことは「Safari」の開発者へのインタビューからも分かりますが、クックCEOは「静かに考察する」とアイブ氏は言います。下級従業員はクックCEOの気さくさと知性を称賛しますが、ジョブズ氏よりもプロダクトを製品化するにあたっては実践向きではないという人もおり、Appleが開発中であると噂されているiWatchの出来映えがこれを測る絶好の機会だと考えられています。しかし、クックCEOはiWatchにはあまり深く関与しているわけではないようで、プロジェクトはアイブ氏に一任している、とある関係者は言います。



By SimonQ錫濛譙

しかし、クックCEOがプロダクト・デザインを重視していないというわけではありません。クックCEOがAppleのCEOに就任して以来、Appleは数多くのプロダクトをリリースしてきました。ソフトウェアで言えばフラットデザインになりiOSの見た目が一新された「iOS 7」や、Appleが「これまでで最も大規模なバージョンアップ」と明言する「iOS 8」、ハードウェアならば待望されていたiPadよりもディスプレイの小さな「iPad mini」や大胆に軽量化した「iPad Air」などなどは、クックCEOの任期中に生み出された製品群です。

また、Appleの役員会の一員であり、ディズニーのCEOでもあるRobert A. Iger氏は「クックCEOは、世界中がより小さくて安価なタブレットを愛するだろうと考えている」と発言しており、iPad miniがクックCEO主導で生み出されたものであることもうかがい知れます。また、アナリストによればiPad miniの売上は通常サイズのiPadを超えているとのことで、iPad全体の売上の約60%を占めているとのことです。



By Scott Hill

また、クックCEOは元バーバリーCEOのAngela Ahrendts氏や、イヴ・サンローランの元CEOであるPaul Deneve氏、Adobeの元CTOであるKevin Lynch氏、医療機器大手Masimo Corporationの元医学担当最高役員であるMichael O'Reilly氏、さらにはBeatsのDr. Dre氏とJimmy Iovine氏など、さまざまな方面から優れた人材を採用しており、自身に足りない部分をさまざざな方法で補おうとしていることも分かります。