『レバレッジ時間術―ノーリスク・ハイリターンの成功原則』本田直之/幻冬舎

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連続ドラマ「弱くても勝てます〜青志先生とへっぽこ高校球児の野望〜」(日本テレビ土曜9時〜)が4月26日放送の第3話で、視聴率が9.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)まで落ちてしまい、5月4日放送の4話では、7.6%になってしまいました。
なぜ注目度が上がらないのか、よけいなお世話ですが考えてみました。
過去、映画化もされ大ヒットした「ROOKIES」(08年TBS)のような、ダメダメな野球部が、ひとりの指導者によって成長していくという構造に食傷気味なヒトが多いという見方もあるようですが、いや、むしろ、その構造をしっかり守った作品だったら、まだ見るヒトはいたのかもしれません。
日テレには、60年代の「青春とはなんだ」からはじまり「飛び出せ!青春!」「われら青春」と落ちこぼれ生徒たちが、サッカーやラグビーに生き甲斐を見出す名作ドラマがありますから、ノウハウはもっているはずです。が、「弱くても〜」は従来のスポーツ青春ドラマに比べて、登場人物の欠落感が、決定的に足りません。
弱くても勝てます」というタイトルに、リアルにあらゆる面で弱い人たちが活路を求めて見ても、残念ながら、なんの参考にもならないのです。
嵐の二宮和也(ニノ)演じる主人公・青志は東大出身。彼が野球部の監督をつとめることになった出身校は有名進学校。彼らは勉強もできて、顔もいいし、スタイルもおおむねいい。恵まれ過ぎているんです。しょぼん。

かろうじて、3話は、貧乏な少年(本郷奏多)が、バイトしながら勉強と野球をがんばっているというエピソードでしたが、4話は、野球部のエース・赤岩(福士蒼太)は、生まれて18年間、恵まれまくりな人生を送ってきたけれど、「早いうちにつまずいておきたい それが野球なんです」と言い放ち、あまり上手ではない野球を続けるというエピソードです。

赤岩はお金持ちの息子で、試験の成績は常に一番、そしてイケメン。有村架純演じる、かわいい野球部マネージャー柚子にも思いを寄せられている。いいことばっかり。でも、彼にはそれが悩みなのです。
つまずいてばかりの人生を送る者のほうが多い世の中、赤岩の言動は恵まれた者の道楽にしか思えませんが、それって凡人の嫉妬でしかないのでしょーか。

話の途中で、超エリートだって凡人と同じように悩むんです、という人間は悩む点において公平である、なんてことを描いているのかも? と思わせるところがでて来ますが、すぐさま青志は「同じ悩むにしてもおれたちは賢い」「あなたたち(麻生久美子演じる女スポーツ記者・璃子)みたいに時間が解決してくれるなんてのんびりしてない」と凡人とエリートの差を明確にします。あらら。
ニノや福士蒼太だから、かろうじて許せるけれど、そうでなかったら、きっと給湯室やトイレやカフェや居酒屋で悪口言っちゃいそうです。

野球が下手な子たちの話だから、「ルーズヴェルト・ゲーム」(TBS日曜ドラマ)のように、野球好きが楽しめる見応えのあるリアルな野球シーンもありません。
だからといって、このドラマががっかりドラマなのか? というと、そうではありません。
そもそも、このドラマ、野球ものと思って見たら負けなのです。
そこで提案です。
これは、リア充ドラマなんだと思ってみたら、どうでしょうか。
例えば、頭のいい登場人物たちのことを、ふふふと笑って見ればいいのです。

4話も、おもしろエピソードがたくさんありました。
中間試験のために野球を休んで勉強に励む部員たちに、青志は、2週間勉強しなくても東大は逃げないと言うと、彼らは「2週間も勉強しないなんて殺す気か!」「ひとの形をした鬼だ!」とまで激昂するのです。そこまで勉強したいなんて、面白すぎます。

テストで一番だった人に頭をなでてもらうとご利益がある的なジンクスを守り続けていることも、ものすごく頭のよい理系のはずなのに迷信に頼るなんて、とその矛盾が微笑ましいです。

それから、バッティングのテストのとき、青志が、右に打ったら何点、左が何点というルールを早口で語りますが、凡人代表・スポーツジャーナリストの璃子(麻生久美子)は、青志の話し方が速すぎて言っている事についていけていないのに、部員たちはすぐさま聞き取っています。頭いい人たちって違うなあー。なにより頭の体操みたいなセリフをテキパキ語るニノもすごいし、淡々としゃべることで面白さが際立ちます。

なんといっても、「勝つために守備を捨てる」と青志が言い出すエピソード。
むずかしい球が飛んでくるのは、一試合中、一回くらいだから、守備の練習をする時間を、攻撃の練習に費やすと青志が提案します。
大量に点をとられたら、それ以上取り返したり、最初に大量得点をしてコールドゲームに持ち込んだりしようという戦略は「ギャンブル」だと言われると、
「ギャンブルをしかけなければ、われわれに活路はないんですよ」と言い張り、
「ハイリターン、ノーリスク」という夢のような目標を掲げます。

この言葉に、江頭2:50か!(この人の場合は、ハイリスク、ノーリターン)を思い出す人もいれば、ビジネス書「レバレッジ時間術―ノーリスク・ハイリターンの成功原則」を思い出す人もいるでしょう。
レバレッジ時間術は、時間を効率よく使って成果をあげるノウハウが書かれた本で、「弱くても勝てます」4話は、さながら、「もし進学校の野球部員が、『レバレッジ時間術』を読んだら」でありました。

青志は「理系はひらめかなければ文系より時間をくうんだよ」「ひらめきを信じて理系をとるのかそれとも文系で堅実にいくのか」それを「決断する勇気と時間に対するセンス」が必要だと部員たちに言います。
さらに、部員たちが勉強と野球の両立に苦しんでいることに対して、「時間のあるないはセンスの差にほかならない」「時間のないおれたちにとってもっとも必要なのはセンス」「素振りは筋トレじゃない。センスを磨くこと」という考えに行き着くのです。

センスを磨いて、時間の使い方が巧くなる→勉強の合間に練習時間もある程度取れる→限られた時間の中で、打撃のコツをつかむ→試合に勝つ

文句のつけようのない、非常に理にかなった方法論です。
ですが、こんなふうに実用書のノウハウのようなものを、ドラマに取り込んでいくと、そのノウハウに沿って行動していく登場人物たちが、なんだか面白いヒトたちに見えてきます。

二宮和也は、青志をどこまでも真面目に演じています。その徹底した真剣さが面白いです。
ドラマ中盤の、「バッティングは理系。コツさえつかんだら飛躍的にのびそう。
守備は文系。日々の地道な努力が生かされる」。つまり野球は「文系で守って、理系で打つ」ものであると青志が語るところも笑えました。
理屈ではそうなのだろうけれど、なんだかおかしくなってしまって。

頭いいヒトたちは、こんなふうにふつうはしないことや、前例のないことをあえてやるからこそ、抜きん出るものなのだなあ、と痛感。
笑っちゃうほどすごい、と言う事がありますが、ふつうと違うことは、面白いことなんですね。なにしろ、江頭のネタとまじめな実用書の目的とのネーミングが近しいのですから。

弱くても勝てます」は、従来の野球ドラマではないし、成功のためのノウハウドラマでもなく、従来の発想から視点を変えてみようという、提案をしているのではないでしょうか。
見ていると、従来のルールに疑いなく従うのではなく、検証した上で、発想の転換をはかってみることこそが大事だと思わされるのです。

そしてそれは、かつて、この土曜ドラマの枠で放送され愛された「Q10」や「泣くな、はらちゃん」のようなSFファンタジーの世界の精神とも実は近い気がします。プロデューサーは同じ河野英裕で、彼の作るドラマは、今、見えている風景を覆っている、極めて繊細な薄紙をそっと一枚はがす行為にも似ています。
この作業はまったく大変で、まさしく、「理系はひらめかなければ文系より時間をくうんだよ」という青志のセリフが、野球だけでなくドラマ制作および、視聴者へ浸透させる方法にも当てはまりそうです。

なんていって、「もしドラ」みたいなドラマを目指していたら、どうしたらいいかよくわかりませんが、今後の展開に注目していきたいと思います。

青志たちの野球部の記事を書こうとしている記者・璃子などは、抜きん出られない凡人代表で、従来の方法論に縛られています。足むきだしのミニスカートで取材に来るというテッパンの女子力を使ってみたり、パターン化された記事構成をしたり、青志のちょっとキャッチーなセリフを、せっせとメモったり、平凡なことばかりしています。その彼女が、青志たち、ちょっとおかしな頭のいいヒトたちと触れ合って、少し、頭がよくなっていくのでしょうか。
(木俣冬)

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