『税金の抜け穴』大村大次郎・著/角川oneテーマ21 『税務署の正体』大村大次郎・著/光文社新書
日本国憲法第30条に明記されているように、国民には納税の義務がある。『税金の抜け穴』はキチンと税金を納める前に、キチンと税制度の仕組みを知りましょうという新書。本書で紹介される「節税」テクニックの数々は、それだけ日本の税制にアヤシイ部分があるという証拠だ。『税務署の正体』は映画「マルサの女」でおなじみ税務署員らの「強きを助け弱きを挫く」実態を記した新書。2冊ともに著者は元国税局調査官の大村大次郎。確定申告の前に一読されたし!

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文章でお金を貰えるようになって約1年。税金のことなんて全く考えてこなかった僕は、言わば納税童貞。「確定申告って何のためにやるの?」というレベルのへっぽこ野郎です。困ったね。

そんなとき、書店で手に取ったのが『税金の抜け穴』という新書。著者の大村大次郎は国税局に10年間勤務していた元法人税担当調査官だ。

「あらゆる税金にはグレーゾーンがある」
「正しい知識を持てば、自分の力で“減税”できます」

こんなオビの文句に釣られたわけである。

第一章を読むと、自営業の僕が払うべき所得税の金額は、所得額に所得税率を掛けたものになるらしい。所得とは、収入から経費を引いたものを指す。
税金をあまり払いたくない、と思えば、経費をたくさん使うことで、税金を減らすことができるのだ」

調べてみると、これが「節税」の基本中の基本みたい。例えば僕の場合、取材のための交通費や資料の購入費などが経費にあたる。
レビューのために購入した本のレシート、とっておいてよかった! 少しだけレベルアップした気がしたな。

一方、会社から源泉徴収税を天引きされるサラリーマンはどうなるのか。
実は、この源泉徴収にすら「抜け穴」がある、らしい。

もちろん、金銭として支払われる基本給など正規の給料には税金がかかる。
しかし「福利厚生として受ける経済的恩恵、業務のために会社から支給されるモノ」などは話が別だ。たとえば、
「会社がアパートやマンションを借り上げて社員がそこに住んでいる場合、会社が肩代わりしている家賃は給料とはみなされない」
つまり現金の給料をもらわずに、課税対象とならない「その代わり」をいただくってところがミソ。
「給料に代えて『現物支給』を増やせば、社員は給料をもらっているのと同じメリットを享受できる上に、税金や社会保険料の大幅な節減になるわけだ」
個人的に新型のパソコンが欲しいとする。多くのサラリーマンはパソコンを仕事で使う。だから、個人用パソコンでメールのやり取りなどをすれば、会社の業務に関係すると言える。そこで会社の経費で落とすのである。引用しよう。

「20万円のパソコンを買う場合、それを自分の給料から払えば、税金、社会保険料で8万円程度かかる。しかしその分を給料としてはもらわず、会社が直接パソコンを買ってやれば、税金、社会保険料はかからない」

これが「現物支給」のカラクリだ。細かい計算までは解説されていないものの、僕は精々10%から20%くらいかなと思っていたので、これを活用できるとしたらエラい「節税」になる。
ただし、この方法で手にしたパソコンは、あくまで会社の持ち物だということは忘れてはならない。会社はパソコンの状況を把握しておかねばならないし、個人で勝手に処分してはいけない。また、税務署から問い合わせなどがあったときは、会社に持って来られるようにしておいたほうがいい、とは著者による忠告。

本書では上のような個人向けのものから「ペーパーカンパニー」のような企業向けのものまで、多種多様な「節税」の方法が紹介されている。なかには「グレーゾーン」に踏み込んでいるものもあるから、熟読し注意点を理解した上での利用をオススメしたい。

僕が気になったのは「税金の『制度的な抜け穴』を知る人々」と題された第二章だ。
税務署の世界には十五三一(とおごおさんぴん)という俗称がある。
これは、各業界が税務当局に収入を正確に把握されている割合を示すものだ。サラリーマンは所得を10割把握されているが、自営業者は5割しか把握されていない。農業は3割で、政治家に至っては1割しか把握されていないという意味だ」

政治家は、税金のかかる給料(歳費)の他に、支持者や団体から寄付金をもらうことができる。有力政治家になるとその額は莫大になることは周知の事実。建前では政治家個人ではなく政治団体になされ、政治資金となる寄付金は事実上「税制上の収入」にはならない。政治団体は非課税なので、税務当局はチェックする権限がないのである。

「政治とカネ」の問題で逮捕や辞職に追い込まれる政治家は後を断たない。表立たないところで、社会通念上イカンだろと思える「節税」が頻繁に行われているはずだ。

また、著者は「税金の抜け穴を持っている業界」として富裕層を挙げている。
「日本医師会の例からもわかるように、富裕層はその資金力を生かして、政治に様々な圧力をかけている。だから、税金に関しても、金持ちの意見が通ることになるのだ。
富裕層は、税金は惜しむけれど、政治献金は惜しまない。そして政治家は、金持ちの支援なしではやっていけない状態になっている。つまり政治家は、金持ちに『金玉を握られている』状態になっているのだ」

2014年4月から2015年10月にかけて、段階的に消費税を10%まで挙げることが決まっている昨今。「消費税というのは、実はその存在自体が富裕層や大企業にとっての税金の抜け穴だ」と著者は強調する。

少し考えれば、収入が少なければ少ないほど消費税増税の負担が増すということは理解できる。累進課税制度は主に格差を是正し、社会福祉の充実を目指すものだと僕は思っていた。だが本書を読むと、実は所得と政治への影響力の比例関係は税制度そのものにまで見られるということが分かるのである。
「はっきり言うと、現在の税制は、公平か不公平かなどは考慮されずに、『取りやすいところから取る』という状況にある」

実際、税務署の体制にも問題は山積みのようだ。
著者が同時期に出版した『税務署の正体』は、暗黙のノルマ達成にいそしむ国税調査官の仕事内容や、税務署というクローズドな組織の実態を暴く新書だ。

国税局調査査察部(通称マルサ)ですら、脱税というズルを告発する「正義の味方」ではなく、ただ追徴税を目先で追っているに過ぎない、と著者は言う。税務署員には暗黙のノルマが課せられており、出世に大きく影響する。かつて国税局の内部にいた著者の「告発」は、政治家への追従や、キャリアの天下りなどの問題を浮き彫りにしている。

もとより、堅苦しく考えずに、エンターテイメントとして読んでもいい。
税務署の正体』は国税調査官の日常を描いたルポルタージュでもあるし、『税金の抜け穴』には一種の「ゲーム攻略本」みたいな面白さがある。
オビの文句とは裏腹に、脱税を推奨している本ではない。むしろ、税制度の欠陥や国税庁の悪習を示すことで、税金を取り巻く社会についての関心を深めようとする明確な目的のある良書だ。

さて読了後、税務署に向かった僕。
税務署員のおじさんは、丁寧に税金について教えてくれました。
で、結局僕の初めての確定申告はどうなったのかっていうと……
「多分ですけど、このくらいの収入なら全然問題ないです。ちゃんと経費を計上してもらえれば、源泉徴収されている分は全て還付されますよ〜」

青色申告書を片手に、嬉しいような、情けないような。
いつか高額納税者になってやるぞ!と、妙にやる気が出た納税童貞卒業式でした。
(HK 吉岡命・遠藤譲)