コーヒーをこぼして多額の賠償金を得た「マクドナルド・コーヒー事件」の真実
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「マクドナルド・コーヒー事件」とは、アメリカのニューメキシコ州のマクドナルドで、ステラ・リーベックさんがドライブ・スルーで購入したホットコーヒーを膝の上にこぼしてしまい、やけどを生ったという事件と、その事件をめぐる裁判のことです。事件は、「おばあさんがマクドナルドで買ったコーヒーをこぼしてやけどを負い、訴訟を起こした結果数億円の賠償金を得て大金持ちになった」と一般的に認知されているようですが、事実は全く異なるようで、The New York Timesが「Burned by McDonald's Hot Coffee, Then the News Media」というマクドナルド・コーヒー事件の真実を伝えるムービーを公開しています。
1992年の2月、当時79歳であったリーベックさんは、ニューメキシコ州のマクドナルドのドライブ・スルーで孫と一緒に朝食を購入しました。
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マクドナルドの駐車場に自動車を止めて、車内で購入したばかりの朝食を食べることにしたリーベックさんは、車内にホットコーヒーを置く場所がなかったため、自分の膝の間に挟むことに。
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ホットコーヒーを飲もうとフタを外したところ、誤ってカップが傾いてしまい、コーヒーがすべてステラさんの膝にこぼれてしまいます。
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ステラさんは当時のことを「覚えていることはあまりの熱さに叫びながら自動車のドアから外に出たことだけです」と語ります。
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同乗していたステラさんの孫は、急いでステラさんを近くの病院へ運びました。
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ステラさんのけがの状態は思っていたよりもひどく、やけどの面積は体の16%におよび、そのうち6%が、やけどの中でも最も重傷であるIII度熱傷でした。その後、ステラさんは治療のために1週間入院することになります。
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治療費は1万ドル(約100万円)にものぼり、治療が終わっても傷は完全には癒えず、ステラさんの足にはやけどの痕が残ったそうです。
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やけどに苦しんだステラさんは、マクドナルドに「治療費の返還」と「ホットコーヒーの温度の再確認」を求める文書を送ります。
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しかしながら、ステラさんの娘であるジュディ・アレンさんによると、マクドナルドの返答は「800ドル(約8万円)を支払う」だけだったとのこと。
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マクドナルドの対応に失望したステラさんは、ケン・ワグナー弁護士に相談してマクドナルドを相手取り裁判を起こすことに。ワグナー弁護士は「ステラさんから依頼を受けた後、マクドナルドに行ってホットコーヒーを買いました。ホットコーヒーはかなり熱く、危険と言っても過言ではなかったと思います」と当時の様子を語っています。
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ステラさんは「私はマクドナルドにホットコーヒーの温度を下げて欲しかったのです。私のように苦しい思いを他の人に経験してもらいたくなかっただけなんです」と裁判を起こした理由を説明。
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マクドナルドの方針では「提供するホットコーヒーはカ氏180〜190度(セ氏約82〜88度)」とされています。
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家庭で作るホットコーヒーはカ氏約160度(セ氏約77度)であり、マクドナルドのホットコーヒーは一般的なものよりも少し熱かったとのこと。
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専門家が調査したところ、カ氏180度のお湯を皮膚にこぼしてしまうと、約15秒以内にはIII度熱傷になってしまうことがわかりました。
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また、裁判では、ステラさんと同様の苦情が過去10年間に700件あったことを示す文書を提出。
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原告の訴えに対しマクドナルドは「やけどの苦情は約240万回に1回程度で、統計的にみればかなりまれなケースであるため、ホットコーヒーの温度を下げる必要性は見当たらない」と反論しました。
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さらに、マクドナルドのコーヒーは他のファストフードショップと比べても特別熱くない、と主張。
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マクドナルドの弁護士によれば、マクドナルドのコーヒー評価書には、お客さんの評価として「マクドナルドのホットコーヒーは、とても熱いけど、それがいいんです」と書かれており、ホットコーヒーの温度も、適切な基準に基づいて設定されていたとのこと。
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マクドナルド側は、ステラさんの主張に対し一歩も引く姿勢をみせず、裁判の行方はわかりませんでしたが、原告側がステラさんの痛々しいやけどの写真を公開したことで、裁判の流れは一気にステラさんに有利な展開になります。
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ワグナー弁護士は「ステラさんのやけどの画像を公開したことで、陪審員が我々の主張の正当性を理解してくれたと思います」と裁判の様子を語ります。
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陪審員による評議の結果、マクドナルドに80%、自分でホットコーヒーをこぼしたとしてステラさんに20%の過失があるとされました。その上で、マクドナルドに填補賠償認定額20万ドル(約2000万円)の80%に当たる16万ドル(約1600万円)を本来の填補賠償額としてステラさんへの支払いを命じます。
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さらに、マクドナルドのコーヒー売り上げ高の2日間分に相当する270万ドル(約2億7000万円)を懲罰的損害賠償額としてステラさんに支払う判決が下されました。
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このセンセーショナルな判決は、当然メディアの関心を引きつけることに。地元紙のAlbuquerque Journalの最初の掲載を皮切りに、全国紙へと広がっていきます。
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ワグナー弁護士によると、裁判後は各国さまざまなメディアからインタビューを受け、裁判の影響の大きさに初めて気づいたとのこと。
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ステラさんのニュースはアメリカだけにとどまらず、世界中に広がっていきます。
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その損害賠償額の大きさから、ニュースは大々的に報道されますが、事の経緯を細かく報道するメディアはほとんどいませんでした。
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テレビのニュース番組でも報道されますが、「運転中に膝の間にホットコーヒーを挟んでいて、こぼしてしまった」と事実と少し違った内容で伝えられます。
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アレンさんは「メディアの過剰な報道によって、母の印象はとても悪くなってしまいました。まるでメディアが母をいじめているかのように感じました」と当時の思いを語っています。
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ステラさんの名は「コーヒーをこぼして大金をせしめた人」として知れわたり、報道番組だけではなくコメディ番組でもネタとして扱われるようになってしまうことに。
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しかしながら、最終的に双方の間に和解が成立し、マクドナルドは50万ドル以下(約5000万円)の和解金をステラさんに支払っただけで、ステラさんが数億円の賠償金を受け取ったという事実はありません。
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残念なことに一度広まってしまったステラさんの悪評が覆ることはなく、アメリカの人気テレビアニメシリーズ「フューチャラマ」でも取り上げられたり、マクドナルド・コーヒー事件は定番のネタとしておもしろおかしく扱われることになります。
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ステラさんは2004年に他界。アレンさんは涙ながらに「マクドナルド・コーヒー事件の後、母が過ごした20年間はとても辛いものでした。いつまでこの状態が続くのか、とずっと思っていました」とやりきれない思いを告白します。
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ウェイクフォレスト大学通信学部の教授であるJohn Llewellyn氏は「マクドナルド・コーヒー事件の1番悲しい話は、ステラさんの事件後の人生が、自分の評判と闘うことになってしまったことです」と事件の一部始終を分析しています。
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唯一良かったと言える点として、ステラさんの要望通りマクドナルドはホットコーヒーの温度をカ氏170〜180度(セ氏約77〜82度)に下げることを裁判の後に決定しています。
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なお、事件の真実を伝えようと、マクドナルド・コーヒー事件を扱った「HOT COFFEE」という映画が製作されており、BS1で2012年に放送されています。