鳥取県に本社がある海産物のきむらやが、もずくに含まれる「高分子もずくフコイダン」の研究で国際的な評価を高めている。フコイダンの研究は、地元の鳥取大学などと共同で実施し、抗がん、抗がん剤の副作用抑制、生活習慣病予防など様々な分野において研究成果を学会発表している。近年では海外からも関心が高まり、米FDA(アメリカ食品医薬品局)に対し、新規機能性成分登録の申請を準備している。海産物のきむらや開発研究室室長の三木康成氏に、同社のフコイダン研究の実績と今後の展望について聞いた。

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 鳥取県に本社がある海産物のきむらやが、もずくに含まれる「高分子もずくフコイダン」の研究で国際的な評価を高めている。フコイダンの研究は、地元の鳥取大学などと共同で実施し、抗がん、抗がん剤の副作用抑制、生活習慣病予防など様々な分野において研究成果を学会発表している。近年では海外からも関心が高まり、米FDA(アメリカ食品医薬品局)に対し、新規機能性成分登録の申請を準備している。海産物のきむらや開発研究室室長の三木康成氏に、同社のフコイダン研究の実績と今後の展望について聞いた。

――もずくなどの海産物を取り扱っている御社が、抗がん剤にも応用されようかという「高分子もずくフコイダン」について、世界的に注目されるような研究をされているということですが、そもそものきっかけは?

 1996年に大阪・堺市の学校給食で起こった「腸管出血性大腸菌O−157」による集団食中毒がきっかけです。当時は約8000人が「O−157」に感染し、3人が死亡するという甚大な被害があったので、徹底的な原因究明がはかられました。

 当社は大阪を拠点とした生協さんに「三杯酢の味付もずく」を納入していた関係から、もずくに「O−157」が誤って混入した場合の安全性評価を、島根大学と共同で研究しました。そこで、味付もずくにO−157を試験的に混入し、その様子を観察したのですが、驚いたことに、味付もずくの中でO−157が死滅していくことがわかりました。

 しかも、O−157が死滅する際、感染者の体内で産生し、重篤な症状をもたらすとされる「ベロ毒素」も産生しないことが判明。このことについて検証を進めた結果、もずくのヌメリに、抗菌作用をもつ成分が含まれていることを確認し、発表しました。当時は、新聞や雑誌、テレビからも取材を受け、反響の大きさに驚きました。

 その後、当社開発研究室と島根大学生物資源科学部の研究チームは、もずくのヌメリに含まれる抗菌性を示した有用成分についての研究を続け、それが、1980年代から抗腫瘍(抗がん)効果があると注目されていた「フコイダン」と同一成分であることを突き止めたのです。

 さらに、当社は島根大学との共同の研究を進め、実験室で抽出した「もずくフコイダン」についても、がん細胞に対する増殖抑制効果を確認。また、この研究の中で偶然にも抗がん剤の副作用抑制効果も発見しました。

――その後、地元の鳥取大学とも共同研究を開始されたのですね?

 鳥取大学とは、当社が2006年に文科省の都市エリア産学官連携促進事業(米子・境港エリア)に参画したことをきっかけに、本格的な共同研究をスタートしました。当社では、2005年に、沖縄県産もずくから「もずくフコイダン」を抽出・量産するための専用工場を立ち上げましたので、そこで抽出したフコイダンを素材として大学の研究チームに提供するなど、鳥取大学との関係を構築していきました。

 文科省の連携促進事業における鳥取大学の研究は、たとえば、ヒト臨床試験として酸性尿の改善効果(痛風の予防につながる効果)、あるいは、培養細胞を用いた血栓予防の研究、動物実験による軟骨生成促進作用の研究や抗腫瘍延命作用などにフコイダンの効果を調べる研究でした。これらの研究を通じて、「フコイダン」の効果が確認できたので、その後も、鳥取大学とは今日に至るまで26件の共同研究を行ってきています。

 鳥取大学との共同研究では、ヒト臨床として初めて末期大腸がんの患者にフコイダンを経口投与したところ、制がん剤治療の倦怠感や吐き気など副作用の抑制に効果があり、その結果、制がん剤処方のサイクル数を2倍に増やすことができ、これにより治療15カ月後の生存率が高くなることを確認するなど、様々な成果を得ています。

 当社では、大学との共同研究の結果によって、これまでに21件の特許を出願し、4件で特許を取得しています。沖縄県産もずくから、もずくフコイダンを抽出・精製し、無保存料、着色料を無添加で製品化して手軽に摂取することができるような技術も開発してきました。

――今後の展望は?

 もずくフコイダンの研究体制は、2010年に分子生物学の専門家を主席研究員に加えるなど、体制を強化しました。主席研究員に迎えた舟越稔は理学博士で、日本学術振興会海外特別研究員として米イェール大学に留学し、留学中の研究で細胞内の不要なタンパク質を分解する仕組みを解明して、研究結果が科学誌「セル」に掲載されるなど、数々の研究実績をあげています。

 今後のフコイダンの研究は、最先端のバイオテクノロジーを用いた再生医療分野への応用をめざして大学との共同研究を進める計画です。すでに、海外からも頻繁に問い合わせがありますが、当社が抽出・精製する「高分子もずくフコイダン」が、米国でFDAに登録された成分になれば、海外展開も一段と進むと期待しています。

 フコイダンに関する学術的な関心は、近年は特に高まってきていて、過去20年間で科学論文の提出数が8倍になったと聞きます。2011年までに約1800論文が発表されるほどに注目度が高い分野です。日本で、企業として研究に取り組んでいるのは当社が1社だけではありません。

 また、フコイダンの様々な効果効能を知っていただくために「高分子もずくフコイダン エビデンス」として、これまでの研究成果について専用のホームページを開設して公表していますが、今後も分かりやすい言葉で、研究結果を発表していきたいと思っています。(編集担当:徳永浩)