ひかりの輪代表役員の上祐史浩氏。17年前、サリン事件を起こした組織の一員だった彼が見た、現代日本の姿とは?

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1995年3月20日、世界でも類を見ない無差別大量殺人テロ「地下鉄サリン事件」が発生した。日本中を恐怖と不安に陥れた事件の首謀者、オウム真理教・麻原彰晃(本名=松本智津夫)は、死刑囚として獄中にある。そして、最後の逃亡犯となった高橋克也も、去る6月15日に逮捕された。

今、呼び起こされる17年前の記憶。それに呼応するかのようにメディアに戻ってきた男が、元オウム真理教外報部長、現ひかりの輪代表役員の上祐史浩(じょうゆう・ふみひろ)氏だ。

6月16日に放送された『たかじんのそこまで言って委員会』(読売テレビ)に出演した際には、賛否両論を含め、大きな反響を呼んだ。

さらに7月2日発売の『週刊プレイボーイ』にも登場。オウム問題を扱った著書『黄泉の犬』(文藝春秋)がある、写真家で文筆家の藤原新也氏を聞き手に、2時間の予定を大幅に超える4時間半にも及ぶロングインタビューを受けている。

ひかりの輪、オウム入信のきっかけ、麻原彰晃という人間。ひとつひとつの事柄に、じっくりと言葉を交わす両者。そして話は、現在の日本へと及んだ。

「3・11以降、国家そのものに対して、普通の家庭の人が信じられないと言っている。でも、例えばオウムが出た頃というのは、普通の人はやっぱり国家を信じていたよ」

日々高まる、国家に対する不信感という問題を語る藤原氏に対し、上祐氏は熱く応える。すべての言葉に耳を傾けることは到底できないが、これが彼の偽らざる声だ。

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   自分が思うのは、もっと何か大きなことが起こったら、国民は初めて「やるしかない」と精神が統一されて変わるだろうけど、3・11現象だけで変われるかというと、わからない。「これほどデモをやってるのに再稼働が止められない、政治が変わらない」という不満も聞きますが、それは、それぐらいしか変えようと思ってないということなのでは。本当に変わるのは維新の志士のように皆が必死になるときではないでしょうか。

 サリン作って、炭疽菌(たんそきん)作って、自分たちも死ぬ思いをして、死ぬ恐怖を抱えて革命しようと思った妄想で狂ってる人間たちから見ると、「なんだよ、まだデモしかやってないんでしょう」って。「それで変われるわけないじゃん」って。もともとデモぐらいの努力で変えられるものだったら、オウムも選挙で勝ってたろうし。

 だから、少なくとも犠牲を覚悟して、「経済なんかどうでもいい。環境が第一だ!」「失業してもいい。オレたちはそれで自殺はしない。だから野田首相ぜひ止めてください」って言えば、野田首相も止めるでしょう。

 だから、「どうしたら今の政治が、国が、変われるのか」という話を聞くと、私は、「本当に皆、変わりたいのかな」と違和感を覚えるのです。そしてもし、その本音が、長い地道な努力の積み重ねではなく、誰かに委ねて楽に変わりたいということならば、それはオウムのように危険だなと。

(取材・文/頓所直人、撮影/グレート ザ・歌舞伎町)

■週刊プレイボーイ29号「上祐史浩 咆哮搏撃の4時間半 前編」より