昨日、朝日新聞がおっぱじめた喧嘩を、一場靖弘はどんな思いで眺めているだろうか。

一昨日まで、彼こそは「最後の裏金プロ投手」だった(厳密には2007年に西武から小遣いをもらっていたのが発覚した千葉ロッテ木村雄太がそうなるが)。

当時のマスコミの一場への取材は苛烈を極めた。口が重く、マスコミ対応などできそうもない不器用なタイプの一場にとって、耐え難いできごとだったろう。

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最速154km/hの球速を誇り、シーズン107三振を記録した明治大学の一場は、まさに輝ける存在だった。しかし巨人への逆指名をめぐる金銭授受問題で、一場は一転、ダーティな色に染まってしまう。世間の眉根をひそませたのは、一場が本命の巨人だけでなく、横浜や阪神、そしてわずかながらも広島からも金銭を受け取っていたことがわかったからだ。一場は、二股も三股もかけたしたたかな人物のように見られてしまった。

実際には、朴訥な一場が明確に意思を示さないうちに、各球団が金を押し付けていたということのようだ。

この事件で巨人の渡邊恒雄会長、横浜砂原幸雄オーナー、阪神久万俊二郎オーナーが辞職。球界を揺るがす事件となった。一場の巨人入りもご破算となったが、最終的に楽天に入団した。

楽天では、野村克也監督に「蚤の心臓」と言われながら曲がりなりにもローテーションに入ったが、次第に不振に陥った。

とにかく体が硬そうで、不器用そうな印象。特にコントロールが良くなく、試合を作ることが出来ないようになっていった。

2009年春にはヤクルトに移籍するも、ぱっとしないままに現在に至っている。

一場靖弘はしょせんこの程度の投手だった、巨人や他球団の眼鏡違いだった、という見方もあろう。しかし、入団時のトラウマで萎縮して実力が発揮できていない可能性もある。
一軍でも二軍でも制球力がないのは、実力というより精神的に不安定だとも考えられる。
2004年の騒動が、有望な投手をつぶした可能性もある。

一場は高々数百万円を受け取っただけだが、その前に入った巨人の選手は平均で4.5億円もの裏契約をしながら、平然と野球を続けている。同じ業界にいる人間として、一場もそのことはおおよそ知っていただろうが、どう思っていたのだろうか。

球界関係者にとって、一場は「裏金問題」を一身に背負ったスケープゴートだった。ある意味腫れ物に触れるような扱いを受けていたのかもしれない。

どう考えても健全でないことが、NPBでは行われていた。一場靖弘は、その犠牲者だと言っても良いと思う。
今年こそ、彼はマウンドで8年前の輝きを取り戻してほしいと思う。そして、当時、彼を見殺しにした球界関係者を見返してほしい。