■連敗しない勝負強さを発揮した10月の5連戦

J1昇格への生き残りを懸けた10月後半の5連戦を3勝2敗で終えた徳島。京都、東京V、横浜FC、札幌、千葉と、強豪との対戦が続いた5連戦であっただけに、勝ち越した事実はチームに大きな勇気を与えた。特に、負ければ昇格争いから後退となった第33節・千葉戦での勝利は、昇格争いをシーズン最後までやり通す意味でも非常に大きかった。勝敗表を見ると、勝ち負けが交互に来ており、連敗しない勝負強さを発揮したとも言える。

11月に入ってからも、この流れは続いた。第34節・愛媛との四国ダービーでは、後半ロスタイムに2失点して追いつかれる悪夢を見たが、その後の第35節・栃木戦では、内容的には押し込まれながらも1-0で勝ち切る地力を発揮した。流れに乗り切れないとも表現出来るが、しぶとく上位に食らいていることは事実である。チームを率いる美濃部監督も、「ネガティブな要素が出ても、今のチームはそれを引きずらない雰囲気がある。

逆境を跳ね返す力というか、そういったメンタル面での成長は感じられる」と現在のチーム状態を評価している。1試合での敗戦や負のメンタルを次の試合に持ち込まない雰囲気がチーム内にあることは、要所をベテラン勢が占めていることと無関係ではない。ダブルボランチの2人、倉貫と斉藤は過去に複数のクラブでJ1昇格を経験しており、CBの三木やエリゼウ、左サイドバックの西嶋などもJ1昇格経験者である。彼らの一喜一憂しない姿勢、毎試合やるべきことをやり抜く姿勢は、確実にチーム全体に浸透している。

■切羽詰まったような緊迫感は感じられない

チーム内の雰囲気について、もう少し言及すると、良い意味で、切羽詰った緊張感は感じない。“張り詰めすぎていない”と言い換えることも出来る。どこかリラックスしながら日々の練習に取り組めている印象を受ける。「シーズンが始まった頃は、『J1昇格』という目標に向けて、自分自身、切羽詰まる気持ちで選手のお尻を叩いてきたけど、今ここに来て、自分が特別尻を叩く必要もない雰囲気になってきた。一人一人が意識を高くやってくれている」とは美濃部監督の言葉だ。

2008年途中で徳島へ移籍後、右肩上がりのチームの軸として3年半引っ張ってきた倉貫にも、肩肘張った様子は見られない。「最終的にどう転ぶか、ということは誰にも分からない。その中で、とにかく一戦ごとに全力を尽くすだけ。後悔のないように、今出来ることを全力でやりたい」と、熱い想いの中にも自然体で昇格レースに挑んでいる。

名古屋から期限付き移籍2年目のFW津田は、「自分は昇格争いの経験はないけど、このチームには経験者が多いので、先輩たちに引っ張ってもらっています」と語る。目には見えない“経験力”が、終盤に来て非常に大きな力になっている。「今までの経験が生きているかどうか?それは分からないけど、最終的に昇格という成果を勝ち取れば、“経験が生きた”と言えるんじゃないですか?」と三木は笑う。

■ベテランの存在感が昇格争いにプラスとなるか

昇格争いが佳境を迎えた中でのメンタル面については上記の通りだが、ここ数試合のゲームの中身について触れると、今季の特長である、大崩れしない安定感のある守備と、セットプレーを含めた決定力が光っている。第一クールの成績により、積み重ねてきたサッカーが十分にJ1昇格を狙う資格があることは確認出来たが、一方で、第二クール以降は“ゴール前での精度や質の差”が課題として浮き彫りにもなった。

その意味では、“ラスト10”となった10月後半の5連戦以降、DFのエリゼウや西嶋に得点感覚が戻ってきたことは大きなプラス要素であり、第35節の栃木戦で決勝点を挙げた津田も、普段の紅白戦から復調の気配を示している。津田は第36節の湘南戦こそ出場停止だが、その後のラスト2試合でのひと暴れも予感させる。さらに、今季1年をかけて、不動のトップに成長しつつある佐藤の、あとひと踏ん張りにも期待したい。