3年間で1冊の本を読む“伝説の国語教師”のユニークすぎる授業

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 神戸の名門私立、灘中学に50年在籍した伝説の国語教師がいる。それが橋本武氏だ。今年6月には98歳ながら27年ぶりに教壇に立ったことでも話題になった。
 そんな橋本氏は、ユニークな授業方法を展開していたことで知られている。
 いわゆる「スロー・リーディング」というものだ。
 国語の授業の進め方は基本的に教科書を読み進めていくものだが、橋本氏はなんと3年間で1冊の本を読み解いていくという授業を実践するのである。

 『灘中 奇跡の国語教室』(中央公論新社/刊)は灘中学校出身で現神奈川県知事である黒岩祐治氏が橋本氏の授業を、教え子ならではのエピソードを織り交ぜながら振り返る一冊だ。

 橋本氏が教材に使ったのは中勘助の自伝的小説『銀の匙』だ。そしてこの小説を1年生から3年生まで読んでいく。
 だから授業も非常にユニークなものになる。能動的に『銀の匙』の物語に入り込んでいくために、名前のついていない章ごとに自分なりの表題をつけていく。もちろん正解はなく、名著は自分だけの『銀の匙』に生まれ変わっていく。親しみあふれる自分なりの“作品”に変質していくのだ。

 また、『銀の匙』には百人一首カルタ大会や駄菓子食べ比べをしている一節が出てくるが、同じように百人一首カルタ大会や駄菓子食べ比べを授業の一環として行う。『銀の匙』に描かれた世界の体験を通して、物語を理解していくというのだ。

 他にも様々なエピソードが掲載されているが、本当にそんな授業が可能なのだろうか?と思う人もいるだろう。
 灘校は自由な校風が特徴だといわれているが、黒岩氏は「自由」というのは勝手気ままとは違い、責任がともなうものであり、ルールや規律を守った上に、自分の心に忠実に、とらわれない形で発揮していくのが「自由」だと指摘する。その上で、橋本氏もそんな灘校だったからこそ、自由に自分のやりたい教育をやらせてもらっていたのだろうと言う。

今の時代だったら……PTAからクレームを付けられていたかもしれない。しかし、あの当時、そうしたことを言ってくる親はいなかった(p7より)

 「自由」だからこそできた、本の深い理解。3年に1冊というスピードではなくても、ゆっくりと1冊の本を読み進めていくのも大切なことなのかも知れない。
(新刊JP編集部/金井元貴)



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