■J2序盤戦最大のサプライズ・愛媛好調の秘訣は「江口愛実」手法

序盤戦、約3分の1を終え、例年以上の混戦となっているJ2リーグ。その中でも最大のサプライズは愛媛の好調ぶりだ。

宿敵・徳島との四国ダービーを終えた時点では2勝1分3敗で15位とディフェンスラインにおける戦力ダウンがそのまま順位に現れていた彼らだが、MF赤井秀一、FW福田健二、左SB三上卓哉、ボランチ田森大己など昨年の主力に多くのけが人が生じたことから、[4-4-2]から[4-1-4-1]へとシステム変更した以後は一転、5試合負けなしで6勝2分3敗とJ1昇格圏内の3位にまで浮上。

続くアウェイ熊本戦でついに黒星を喫して順位は7位へと後退したものの、栃木を逆転勝ちし、FC東京と引き分け、さらに鳥栖までも下したアウェイ戦に象徴されるバルバリッチ監督のしたたかな試合運びは、右ウイングに入り2試合連続ゴールをマークした石井謙伍や、鳥取戦でプロ初ゴールとなる決勝点、続く鳥栖戦でも1アシストを記録した左SB前野貴徳のような、ポテンシャルの扉を開ける効果までも生み出している。

特に6月12日のホーム鳥取戦は圧巻であった。豪雨でピッチが重くなることを予期し、内田健太、ジョジマールといったパワーを有する攻撃的選手をタイミングよく途中投入したベンチワーク。それは彼らがことごとく活躍し、2点ビハインドをJ2昇格後はじめてひっくり返すという最高の結果につながった。

それは世間の話題に落とし込めば、秋元康プロデューサーに支えられ、各メンバーの魅力的なパーツをCGで組み合わせ、完全無欠のアイドルを生み出したAKB48「江口愛実」と全く同じ手法。チーム内では「シェフ」と呼ばれ、サッカー一筋に打ち込むバルバリッチ監督がAKB48を知っているとはとても思えないが、「我々はつなぐことに固執しなければいけないが、戦術、戦略は常に意識しているし、選手には結果は別にして修正、改善を常に意識するように話をしている」指揮官の敏腕プロデュースが愛媛躍進の大きな要素となっていることは間違いない。

■「大島優子」=「齋藤学」愛媛を牽引する彼の現在地

このように状況に応じた極上の組み合わせを駆使し、勝ち点を積み重ねてきた愛媛。ただし「江口愛美」がそのパーツの大半をエース・大島優子から流用したように、個人能力高き選手の幹なくしては、チームが成果を残せないこともまた然りだ。

そして愛媛で「大島優子」たる牽引車はもちろん、J1・横浜FMから期限付き移籍中の若干20歳の若武者・FW齋藤学である。U-17日本代表でも快速ドリブルを駆使してのスーパーサブ的な存在だったことから、シーズン前から活躍が期待されていた彼だが、ここまで全試合に出場し、チームトップスコアラーのみならずJ2でも5位につける5得点は周囲の期待以上の活躍ぶり。チームゴール数も今季12試合を終えて17得点と、彼の存在は昨シーズン36試合32得点に終わった攻撃力に大きな推進力を与えている。

さらにもう1つの彼の持ち味は「素早さと速さを持っていて、ボールコントロールもいいものがある」とバルバリッチ監督が評し、「プレーもはっきりしているし、裏に抜けておとりにもなってくれる」と前野も感謝する「引き出し」の多さ。

システム変更直後は「FWだったこれまでは自由を与えてもらっていたが、左ウイングになったことで守備に対しての意識を持たなくてはいけない」ことから、やや迷いが見えるプレーもあった齋藤だが、現在はそれも解消。最近では「サイドを崩した後、もし相手が飛び込んできたらシュートを撃とうと思ったが、相手も待ち構えていたし、引いていたジョジマールが走ってくるのが見えたので、走ってくるスペースにボールを置こうと思った」鳥栖戦の決勝アシストに代表されるように、冷静な判断力も身についてきた。