いつまでクソ音質を喜んでるんだ? 日本が音楽ダウンロードで勝つ方法

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音楽は自由じゃない。

書くだけでケッタクソ悪くなるコピーをサイトの中央にでかでかと掲げ、著作権法を読み上げる映像を一般から募集してトップを決めるという悪趣味なコンテストを実施する一般社団法人・日本レコード協会を、すこし前に「音楽は自由じゃありません――既得権益守るのに必死なみにくいキャンペーン」(※)というテキストで批判しました。

著作権法や知的財産権を批判したつもりはあまりなくて、私が批判したのは後ろ向きで音楽愛のまるで感じられないキャンペーンそのものだったんですけど、Twitterなどで反応してくださった方の中には、誤解された方もいたみたいです。その点は陳謝いたします。

ただ、上記のテキストでも書きましたが、「情報はフリーになりたがる」のは世の趨勢なんだろうな、とは思っています。

例えば現在、スマートフォンOSの世界シェアはAndroidがトップ、続いてiPhone(iOS)、RIMのBlackberryの順番になっています。

後発のAndroidがなぜトップになり得たかといえば、オープンソースだからです。GoogleはAndroidをハードウェア・メーカーにタダで配布し、しかも改変を許している。Androidが勝ったのは優れていたからじゃない。ハードウェア・メーカーに都合よかったからです。

昨年暮れぐらいから日本でも続々とスマートフォンの新製品がリリースされていますが、ほとんどがAndroidですよね。なぜAndroidかといえば、コスト面での有利さ(タダ)もさりながら、いわゆるガラパゴス機能――ワンセグ視聴とか、赤外線通信とか、おサイフケータイとか――を搭載したスマートフォンを制作できる自由さが好まれているためです。たぶんこの後も、Androidはシェアを伸ばすと思います。

GoogleのAndroid、および今夏リリースが発表されているネットブック用のOSであるChrome OSは、いずれもLinuxをベースに開発され、オープンソース(基本的に無償、改変自由)で配布されました。Microsoftはこれを脅威と認め、これまでは考えられなかった安価でネットブック用のOSを販売しはじめています。

情報はフリーになりたがる。OSにも、その波は押し寄せている。あらゆる場所で、こうしたことは起こっていくんじゃないかと思うんです。


そうした中でとる行動としては、日本レコード協会のキャンペーンはあまりにみにくい。自分たちの商品である音楽にたいする愛も感じられなければ、開催したコンテストにも今後の発展性が見えない。法をかさに着て顧客に気分の悪い思いをさせているだけ(私自身がそうです)。みっともないから早くやめろよ、と私は書きました。

だいいち、このキャンペーンにどれほど効果があるんでしょうか。販売されている音楽ソフトにはコピーは違法ですと書いてある。いわば全員がそれを受け取っているわけで、それ以上に主張して、違法コピーが減るんでしょうか。どうもそうとは思えません。

こんなしょうもないこと考えてるヒマ/やってるヒマがあるなら、べつに利潤を得る手段を考えるべきじゃないかと思います。コストはそっちにかける方がいいよ。

批判するだけなら誰にでもできます。対案を出さなきゃフェアじゃない。有効かどうかはわからないけど、私のアイデアを語ってみたいと思います。

音楽のダウンロード販売は、AppleやAmazonなど、米国企業の独壇場といっていいでしょう。残念ながら日本企業はこのマーケットに参戦できていない。むろん、AppleでもAmazonでも日本人アーティストの商品は売っていますし、日本のレコード業界もそこから利潤を得ているんでしょうけど、プラットフォームを提供しているAppleやAmazonに比べれば、利益も知れたものだと思います。

だったら日本がプラットフォーム作ってダウンロード販売やったらいいじゃないか、というのが私の提案です。後ろ向きなキャンペーンやってるよりよっぽどいいじゃん。

ここまで読んで、これだからシロウトは、と思った方もいるかもしれません。今から日本がダウンロード販売のプラットフォーム作って、受け入れられるはずがない。Appleに、Amazonに、どうやって勝てばいいってんだ。

私だって同じもん売って勝てないぐらいわかります。ちがうもん売りゃいいんじゃないかと思うんです。

AppleにしてもAmazonにしても、売ってるのは圧縮音源ですよね。mp3、AAC、wmaといったところがそれですけど、CDに比べると音質は格段に落ちます。

Appleは先日iCloudを発表して、iTunes Matchという機能を売り出してますけど(日本未対応)、その宣伝文句はこうです。

「iTunesとマッチするすべての曲は、もともと持っていた曲の音質が低くても、すべて256KbpsのiTunes Plusクオリティで再生されます」

いかにも高音質でございますといいたいようですが、同社のiTunesで売ってるものの中では、って話で、所詮は圧縮音源、CDよりセコい音です。みなさん、ダマされないようにね。

どうも、音楽をクラウドで提供という話になると、音質は犠牲にしなきゃいけないというのがコモンセンスになってるみたい。

だったら、イイ音売ったらいいじゃん、というのが私の提案です。

音楽はCDに焼き付ける段階で、元の音より悪くなっています。従来のダウンロード販売は、そこからさらに音質を落としたデータが売られている。でも、「データを売る」のなら、元のデータをまんま売ることだって可能なんです。つまり、CD以上の高音質データを売ることだってできるはずだ。

日本にはソニーや東芝など、優れたハードウェアをクリエイトできる会社があって、レコード会社の多くはそのグループ会社になっています。だったら、ハードウェア/ソフトウエア企業が一丸となってここに取り組むことも可能なのでは?

むろん、技術的障壁はたくさんあるでしょう。ファイルサイズがどれほどでかくなるかわからないし、ダウンロードにどれだけ時間がかかるかもわからない。事故も当然、あるだろうし、越えなきゃいけない壁はほかにもたくさんあると思います。

でも、今市場になくて、しかもそれをほしがる人がいる以上(すくなくとも私はほしい!)、ビジネスになるんじゃないでしょうか。高音質音源のニーズは、世界中にあると思うんです。

今あるものを同じように提供したって勝てるわけがない。だったら、今ないもので勝負に出たらいい!

日本のレコード会社が、世界に先駆けてAppleにもAmazonにもない商品を売る。そこに商機/勝機があるんじゃないでしょうか。

ダウンロード販売のいい点は、市場が日本だけじゃないところです。はじめから世界展開を考えていい。英語だもの、「いつまでそんなクソ音質聴いてるんだ?」って挑戦的コピーで攻めていったっていいんです。

これをやると、CDの売り上げは落ちるかもしれません。ひょっとするとだからやらないのかな、とも思います。

でも、何もしなくたって落ちてるんだし、ここから上がるとも思えないんだから、そこを大事にしなくてもいいのでは?すくなくともケッタクソ悪い後ろ向きのキャンペーンにかけるカネがあるのなら、「今ないサービス」「顧客が喜ぶサービス」を考えたほうがいいと思うんです。

それじゃコピーは禁じられないって?DRM(デジタル著作権管理)もあるし、コピーはほっといても出回るもんなんだから、そういうもんだ、というところからスタートしたほうがいいんじゃないかな。絶滅させるのはムリだし、そこにかかるコストは別のところにかけるべきだよ。

(※) 音楽は自由じゃありません――既得権益守るのに必死なみにくいキャンペーン

http://get.nifty.com/cs/catalog/get_topics/catalog_110601000503_1.htm

「音楽は自由じゃない!」日本レコード協会

http://www.riaj.or.jp/lovemusic_cpn/index.html

(注)イラスト中央の看板をご覧ください。

Apple iCloud

http://www.apple.com/jp/icloud/features/

(草野真一)



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