一世を風靡した感のあるファストファッションですが、前澤社長率いるZOZOTOWNの躍進等もあり、ここに来て若干の閉塞感が漂い始めています。今のところ業績好調のユニクロとGUであっても安泰でいられる保証はない、とするのは店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さん。佐藤さんは今回、自身の無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』で、ファストファッション業界に構造的な問題が生じてきていると分析。その解決の鍵を握っているのは同じ業界のZARAであるとし、同社の「売れる構造」を詳しく紹介しています。

しまむら不振、ユニクロは店舗数頭打ち ファストファッション曲がり角に

ファストファッション各社の業績が精彩を欠いている。現在確認できる各社の直近発表の決算を見てみると、どこも冴えない。暖冬による冬物衣料の不振といった不可抗力的な事由が大きく影響したためだが、その他に構造的な問題も大きく影響を及ぼしており、各社はその問題を克服する必要があり、ファストファッション各社は今、大きな転換点を迎えている。

しまむらの2018年3〜11月期の連結売上高は前年同期比4.0%減の4,099億円だった。ライトオンは、今期から連結決算に移行したため単純比較できないが、18年9〜11月期は前年同期の単独決算との比較で1.8%減の170億円だった。ハニーズホールディングスの18年6〜11月期の連結売上高は7.0%減の247億円だった。3社とも減収となっている。

ギャップは、日本に関しては業績を非公表としているため詳細は不明だが、世界単位の業績は公表しており、それによると世界単位では苦戦が続いていることがわかる。18年8〜10月期の世界のギャップの売上高は前年同期から3%減の12億8,300万ドル(約1,400億円)だった。既存店売上高は7%減と大きく減っている。

ギャップの兄弟ブランドでより低価格のオールドネイビーは世界単位では好調だ。だが、日本では受け入れられず、17年1月末までに撤退に追い込まれている。オールドネイビーは12年7月に日本に初上陸したが、5年もたずに撤退の憂き目にあったかたちだ。

ユニクロとGU(ジーユー)を展開するファーストリテイリングは好調だ。国内ユニクロ事業は、18年9〜11月期こそ暖冬の影響で冬物衣料が苦戦したため業績は不調で、売上高は前年同期比4.3%減(2,461億円)と減収になってしまったが、直近本決算の18年8月期は6.7%増(8,647億円)と大幅な増収を達成している。ジーユー事業は好調で、18年9〜11月期は7.7%増(654億円)と好調を維持している。

ファストファッションの勢いを削いだもの

だが、ユニクロとジーユーといえども安泰でいられる保証はどこにもない。国内のユニクロは店舗数が頭打ちだ。18年8月末時点で827店を展開しているが、長らく横ばいが続き伸びが見られない。大型店の割合を増やしたり商品を強化するなどして底上げを図っているが、限界がある。最近は驚きのある新商品を生み出せておらず、手詰まり感が漂う。ジーユーは成長してはいるが、かつての勢いはない。16年8月期に前期比32.7%の増収を達成したのと比べると見劣りする。

ユニクロとジーユーはカニバリゼーション(食い合い)が今後の課題になりそうだ。ファストリは両者をあえて近接する形で出店することがある。ネームバリューがあるユニクロの力を借りることで知名度が必ずしも高くないジーユーの宣伝ができるほか、近接出店することで両店の間で人材や資材の融通を機動的に行うなどして効率的な運営が実現できる。ただ、これには顧客の奪い合いのリスクをはらむ。

例えば、ギャップは北米で苦戦を強いられているが、一因として兄弟ブランドのオールドネイビーに顧客を奪われている側面があり、ユニクロとジーユーも同じようなかたちで顧客の奪い合いが深刻化し、業績が悪化する懸念がある。

ファストファッションといえば、へネス・アンド・マウリッツ(H&M)とフォーエバー21が欠かせないだろう。H&Mは堅調だが、かつてほどの勢いはない。昨年7月には日本の1号店だった銀座店(東京・中央)の閉店に追い込まれている。採算が合わなかったことが一因とみられる。フォーエバー21はそれより少し前の17年10月に同じく日本1号店の原宿店(東京・渋谷)を閉店している。どちらも出店時に大行列ができるなど一世を風靡した。その両店が閉店したというのは、ファストファッションブームの終焉を感じさせる出来事のようにも思える。

こうして見ると、ファストファッション各社は企業によって好不調があるが、全体で見れば力強さを欠いているように思える。ファストファッションは00年代後半に市場を席巻したが、現在は一服感が出ている。曲がり角にきているのではないか。

ファストファッションにかつての勢いがないのは、衣料品通販サイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」の躍進と無縁ではないだろう。

ゾゾタウンの「功罪」

衣料品のネット販売が一般的でなかった04年にスタートトゥデイ(現ZOZO)がゾゾタウンの運営を開始した。衣料品のネット通販は試着ができないという問題を抱えていたが、ゾゾタウンは返品を受け付けたり、カタログ写真の見せ方を工夫したりするなどしてそういった問題を解決していった。そして「ユナイテッドアローズ」や「ナノユニバース」などの人気ブランドを誘致し、若者を中心に支持を集めることができた。こうして衣料品通販サイトにおいて「ゾゾ1強」を確立することに成功している。

ゾゾタウンの躍進で恩恵を受けたのは、どちらかというとファストファッション以外のアパレルブランドの方だろう。ファストファッションは低価格のため、配送にかかるコストやゾゾに支払う手数料などを考えると、ゾゾタウンでは採算が取りにくい。そのため、ゾゾタウンに出店しないファストファッションは少なくない。現在、ユニクロやジーユー、H&M、ZARAは出店していないが、採算性を考慮した上での判断とみられる。こうしてみると、ファストファッションよりも高価格帯のブランドの方が恩恵を受けてきたといえる。

ゾゾタウンはファッションの裾野を広げるという大きな功績を挙げた。これはファストファッションにとっても悪い話ではなかった。ただ、その一方で、ファストファッション以外のブランドの低価格化を招き、それがファストファッションの脅威にもなってしまっている。

ゾゾタウンでは利用者を獲得するために頻繁にセールが行われており、それにより利用者は高価格帯のブランドを手ごろな価格で買えるようになったが、それによりファストファッションとそれ以外のブランドの価格差が縮まってしまい、ファストファッションは特に価格面における競争力を急速に失ってしまっている。

こういった状況のため、ファストファッションは今、大きな転換点を迎えているといえるのではないか。こういった消費環境の変化で構造的な問題が生じてきており、その問題を解決する必要がありそうだ。

ZARAが持つ「売れる構造」とは

解決のヒントはどこにあるのか。その一つが、同じファストファッションZARAにありそうだ。ZARAは現在も成長を続けており、売り上げ規模でユニクロさえも上回り、「世界最大手」の座を維持し続けている。ZARAは売れる“構造”を持っているように思える。

ZARAの強さは自社で物流網を抱えていることが大きい。ZARAは本拠地のスペインにある自社の物流施設から世界各国の店舗に空輸も駆使して48時間以内に配送している。こうして短期間で逐次店舗に新商品を投入し、流行の衣料品が常に店頭に並んでいる状態を作り出している。また、機動的に生産量を調整することで店舗の在庫管理を高いレベルでコントロールできており、過剰在庫を回避して在庫処分のセールを抑制することができている。ZARAには売れる仕組みがあり、効率的な運営も実現できている。

これらを支えているのがZARAの物流網だ。他社に物流業務を委託するアパレル企業が少なくないなか、ZARAは自前で物流網を抱えることで機動的な商品供給を可能にし、それにより高い競争力を実現することができている。

ZARAから学べることは多い。ユニクロの柳井正氏がZARAの強さを学ぶためにZARAの本社に行ったとされることが日本経済新聞によって報じられているが、同様に多くのファストファッション企業もZARAから学ぶことがあるのではないか。いずれにせよ、閉塞感が漂い始めているファストファッション各社は新機軸を打ち出すなどして現状を打破する必要があるのではないだろうか。

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image by: 掬茶 [CC BY-SA 4.0], ウィキメディア・コモンズより

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