ペンス氏の演説は「第2の『鉄のカーテン』演説」なのか(写真はハドソン研究所の動画から)

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米国のペンス副大統領が2018年10月4日(米東部時間)に行った演説が、英国のチャーチル元首相が行った「鉄のカーテン」演説を連想させるとして波紋を広げている。

米中の貿易摩擦が激化する中で、ペンス氏の演説は、中国が様々な手段を用いて米国に影響を与えようとしていることや、「米国を西太平洋から追い出し、同盟国支援を妨げようとしている」ことなどを主張し、対立が貿易の分野にとどまらないことを指摘した。中国メディアは「スピーチライターは常識を持つべき」などと反発している。

中間選挙に影響を与えようと...

「鉄のカーテン」演説は、チャーチル氏が首相退任直後の1946年3月に米ミズーリ州フルトンで行った。米ソ冷戦の緊張状態について

「バルト海のシュテッティンからアドリア海のトリエステまで、(ヨーロッパ)大陸を横切る『鉄のカーテン』が降ろされた。中欧、東欧の歴史ある首都は、すべてその向こうだ」

と述べる内容だ。

米メディアは、ペンス氏の演説が、チャーチル氏の演説に重なる部分があるとの見方を伝えている。ペンス氏の演説では、

「中国政府は政府一体となって、政治的、経済的、軍事的な手段やプロパガンダを使って影響力を高め、米国で利益を得ようとしている」

と主張。とりわけ、18年に行われる中間選挙に向けて世論に影響を与えようとしていると中国を非難した。軍事面では、「日本が統治している」尖閣諸島の周辺を中国船が定期的に航行していることを「中国はこれまでにない力の使い方をしている」と指摘しながら、中国との対決姿勢を鮮明にした。

「中国政府は、米国の陸、海、空、宇宙における軍事的優位性を損なわせることを優先させている。中国は、米国を西太平洋から追い出し、同盟国支援を妨げようとしている。しかし、これは失敗するだろう」

ただ、具体的な政策については、「史上最強の軍をさらに強くする」などと述べるにとどめた。

演説のタイトルは「政権の対中政策」。トランプ政権首脳が対中政策に絞って演説するのは初めてで、その強硬な内容に波紋が広がった。

米ニューヨーク・タイムズ紙は10月5日、中国の指導者層の間に、米国が中国との冷戦に乗りだそうとしているとの疑念が広がりかねないとする分析を紹介。政府の意に反する書き込みがたちまち削除される中国のSNSで

「ペンス副大統領のスピーチは、あっと驚く内容だった。これが米国の公式な演説だ。中国人なら全員が全文を読んだ方がいい。これはもうひとつの『鉄のカーテン』のスピーチなのだろうか」

といった書き込みが残っていることを報じた。

ソ連と同じやり方で中国に対応することはできない

中国側からは反発が相次いでいる。中国外務省の華春瑩副報道局長は「根拠なき非難」で「強く反対する」とする談話を発表。国営のテレビ国際放送「CGTN」はウェブサイトで、

「ペンス氏のスピーチライターにはさらに常識が必要だ」

とする論説記事で、ペンス氏の演説が「米中関係に深刻なダメージを与えた」と非難しながら

「第2の『鉄のカーテン』スピーチというよりは、中間選挙に間に合わせようとして急造したウソの理屈、誤解と些末な事柄による粗悪なパッチワークだ」
と酷評。利益団体やロビー団体が政府や議員の政策決定過程に影響を及ぼすのは「米国の政治風景では自然な姿」

だとして、

「ペンス氏のスピーチライターは、米国の民主主義システムに関する常識を欠いている」

とまで言及した。

環球時報は10月7日にウェブサイトに掲載した社説で、

「米国政府からどんなに多くの敵対的演説があろうとも、最も中国の発展に大きな影響を与える米国を、感情的にミスリードされることなく合理的に見なければならない」

として冷静な対応を呼びかけ、

「中国はソ連ではない。米国は、ソ連と同じやり方で中国に対応することはできない」

と主張した。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)