埼玉西武ライオンズの観客増が西武鉄道の収益に貢献しそうだ(tarousite / PIXTA)

9月30日、優勝へのマジックナンバーを「1」のまま迎えた、札幌ドームでの対北海道日本ハムファイターズ4連戦の初日。この日、埼玉西武ライオンズは日ハムに1―4で破れたものの、福岡ソフトバンクホークスの敗退により、10年ぶり17度目(前身の西鉄時代を含めると22度目)のリーグ優勝を決めた。

前日のメットライフドームでの対ソフトバンク戦で敗退し本拠地での胴上げは逃したが、札幌ドームでの試合終了後の優勝セレモニーでは、辻発彦監督が宙を舞い、日ハムファンからも温かい拍手が贈られた。


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西武ライオンズ40周年の節目の今年、西武鉄道をはじめとする西武グループが総力を挙げて球団のファン拡大に取り組んでいる。西武ライオンズは、女性向けのイベント「ウーマンフェスタ」(5月11〜13日開催)での女性来場者全員への「レディースユニフォーム」(非売品)の配布など、さまざまな顧客のニーズに沿った営業施策の展開と、チームの好調がかみ合って、観客動員数の増加が実現したと分析する。

2018年シーズンの入場者数は176万3174人(1試合平均2万4833人)で、2017年比5.4%増(同6.9%増)となった。

西武鉄道の運賃収入押し上げ

入場者数増加は、西武鉄道の運賃収入を押し上げる効果をもたらす。西武ライオンズによると、2017年シーズンのメットライフドームでの公式戦試合数(セ・パ交流戦含む)の総入場者数は約159万人で、このうち西武線利用者の割合は6〜7割であった。

割合の平均値として65%と仮定して計算すると、西武線利用者は約103万人となる。所沢駅-西武球場前間のIC運賃174円で往復したのと同程度の収入が西武鉄道に入ってくると想定した場合、約3.6億円の収入となる。

池袋・西武新宿・本川越・国分寺・飯能・西武秩父方面などとの間の運賃収入と、メットライフドーム試合開催日に運行される臨時特急「スタジアムエクスプレス号」の特急料金収入0.2億円を合わせると、2017年度の西武鉄道の収入は4億円超と推計される。

2018年シーズンでは、入場者数176万3174人のうち、地方開催分を除いたメットライフドームの入場者数は約165万人。2017年比約6万人の増加で、少なくとも1400万円以上の運賃収入の上積みがあったと予想される。

実際、ライオンズファン拡大の効果は西武ホールディングスの決算を後押しした。決算短信の「経営成績に関する説明」では、決算が順調だった要因のひとつとして「西武ライオンズでは、各種営業施策の実施や好調なチーム成績を背景に、観客動員数が前年同期比で増加したほか、選手関連グッズの販売が好調に推移」したとの分析結果が記載された。

ライオンズと西武鉄道の連携強化は、ライオンズ主催試合入場者数・グッズ販売数・スタジアム飲食販売の増加などによる球団の収入増と鉄道利用増による運賃収入増の両方の実現につながった。

ライオンズと西武鉄道の例に限らず、プロ野球と鉄道の連携は双方にメリットをもたらす。西武グループと阪神グループの場合、球場入場者数の増加は鉄道利用増と連動する。

非鉄道会社が親会社のプロ野球球団であっても、鉄道との連携は周辺住民に迷惑を及ぼす渋滞を緩和させるメリットや地元プロ野球球団をさらに盛り上げる効果が期待できる。

西武鉄道が持つ独自の強み

西武鉄道の場合は西武球場前駅の目の前にメットライフドームがある利点とともに、保有する特急専用車両を活用して、球場アクセスの有料特急を運行する独自性を有する。

今年は、2015年から毎年運行されている「ヱビスビール特急」がライオンズ主催試合開催日の7月24日、25日、26日に運行され、また8月4日には、歌手の渡辺美里さんのメットライフドーム来場に合わせて、「MISATOトレイン」が1日限定で復活運行されるなど、ライオンズと西武鉄道の連携がさらに強化された。

今シーズンのライオンズは開幕8連勝を皮切りに首位を一度も陥落しない好調な戦いを繰り広げた。本拠地最終戦の前日の試合で優勝マジックが「1」に減り、最終戦で優勝が決定する可能性を残す形となり、入場者数増加を実現するうえで理想的な展開をたどった。本拠地最終戦(対福岡ソフトバンクホークス戦)の入場者数は3万1577人であった。


札幌ドームでの優勝セレモニーは球場全体が祝福した(筆者撮影)

次の焦点は、クライマックスシリーズ(CS)で勝利を果たし日本シリーズに出場できるかに移った。日本シリーズ出場を果たせば、ライオンズの入場者数と西武鉄道の乗車人員の両方が増加する。

仮にCSで4連勝(アドバンテージ1勝を含む)したとの仮定の下では、1日平均約3万人が入場した場合、CS総入場者数は3日間で約9万人、CSを勝ち抜き日本シリーズが第4戦で終わる場合のライオンズ総入場者数は2日間の場合で約6万人、合計延べ15万人がメットライフドームに来場すると予想される。

この15万人のうちの65%の所沢駅―西武球場前駅間のIC運賃174円で往復するとの前提を置いた場合、ライオンズがBクラスに留まった場合と比べて、西武鉄道は約3393万円の増収を手にすることが可能となる。

今シーズンはすでに西武鉄道に約4億円の運賃収入が入ったと推定されるほか、クライマックスシリーズ進出・日本シリーズ進出でさらに3400万円弱もの収入上積みが期待できる。

また、ライオンズの入場料収入、グッズ販売収入、飲食販売収入も当然増加する。入場チケットを含む平均客単価を3000円としてざっくり計算しても、クライマックスシリーズと日本シリーズを合わせて4億5000万円の収入増となる。ライオンズがクライマックスシリーズ ・日本シリーズに進出することは、西武鉄道、西武ライオンズを含む西武グループ全体の収入を押し上げる効果を創出する。

一方、他球団の運営会社は非鉄道分野であることもあり、鉄道との連携に課題を抱えている事例も見受けられる。鉄道はプロ野球観戦輸送のうえでは基幹的交通機関としての役割を果たすことが期待されるが、球場が駅から離れていたり、鉄道の輸送力が脆弱であったりするなどの理由で、プロ野球観戦輸送において主導的な役割を果たせない路線もある。

現時点で建設着工の正式決定には至っていないが、日ハムの北広島新球場には千歳線の球場新駅の構想がある。しかし、北海道旅客鉄道(JR北海道)は慎重な姿勢を崩していない。この事例を見ても、プロ野球球団と鉄道事業者が別グループである場合、両者の調整は容易ではないこともある。

その点、西武鉄道は子会社として西武ライオンズを保有しているため、連携は容易だ。地下鉄副都心線・東京急行電鉄東横線・横浜高速鉄道みなとみらい線および地下鉄有楽町線沿線と西武球場前駅の間の直通列車増発などの施策によって、都内や他地域からメットライフドームは遠いとのイメージを払拭することも重要となる。

西武鉄道がイニシアチブを取って、他の鉄道事業者との調整を進めたいところだ。

鉄道利用者増やすカギは?

また、現在は6〜7割にとどまっているメットライフドームへの鉄道利用者の割合をさらに増やすカギは、自家用車よりも鉄道での来場のメリットを大きくすることにある。

混雑時の駐車場料金の値上げや、IC乗車券における西武球場前駅の出場履歴確認によるスタジアム飲食の割引サービス、IC乗車券による西武球場前駅利用回数に応じたポイントアップなど、現行の「電車で球場に行こう!」キャンペーンよりもさらに鉄道利用の特典を充実させて利用促進を図りたいところだ。

そして、球場への距離を感じさせない快適な列車や内外装をライオンズ一色に装飾した特急などの乗って楽しい列車、日本一を狙える強いチーム作りが、ライオンズと西武鉄道双方の持続的運営につながる。

一方、チーム成績はシーズンによって当然波動があるのも確かだ。メットライフドームに向かう列車においても、メットライフドームの中においても、ファンを楽しませる絶え間ない仕掛けづくりが、チーム成績に左右されにくい安定した入場者数の確保につながるはずだ。

埼玉県をフランチャイズとするプロ野球球団として地域密着のチーム作りとともに、ステークホルダーとのさらなる協働がライオンズと西武グループのさらなる盛り上げにつながるのである。