写真=iStock.com/maroke

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「お盆は実家に帰ろう」と提案すると、突然妻の表情が暗くなる。これまで嫁姑トラブルもなかったし、帰ったときには気分よく過ごしていたじゃないか――。なぜこんなにも妻は夫の実家への帰省を嫌がるのか。人工知能の研究者が男女の脳の違いから理由を解説。すぐに使える解決法も伝授する。「プレジデント」(2018年9月3日号)の特集「ぜんぶ解決! 実家の10大問題」より、記事の一部をお届けします――。

■妻の帰省ストレス、最大の原因とは

22歳から50歳までの既婚者を対象にした帰省に関するアンケートでは「義実家に帰省することをどう思うか?」という質問に対して、「正直気が重い」と答えた男性は約7%であるのに対し、女性は約35%にも達する。実に5倍の差がある。

実家への帰省で妻が抱えるストレスの原因は一体何で、どのように対処すればいいのか。人工知能の研究者で、脳機能の性差から、男女関係への提言、企業コンサルティングを行う感性リサーチ代表の黒川伊保子氏に対策を聞いた。

妻が気を使うポイントとしては「義家族との会話」が筆頭に挙げられた。旦那の実家への帰省では必ず会話が発生する。義理の両親やきょうだいがいる空間に行くこと自体、妻にとってはストレスの原因になっているということだ。この根本的な問題を解決し、少しでも妻の気持ちを和らげることはできないのだろうか。

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▼「義実家への帰省」に対する男女の意識の違い
【女性が気を使うポイント】
1位:義家族との会話 60.5%
2位:家事の手伝い 57.9%
3位:手みやげ 36.8%
4位:お風呂・トイレ 34.2%
5位:居場所 31.7%
6位:子供の言動 23.7%
7位:金銭面 18.4%
8位:食事マナー 13.2%
【男性が気を使うポイント】
1位:気を使うことはない 31.0%
1位:手みやげ 31.0%
3位:居場所 20.7%
4位:義家族との会話 17.2%
5位:家事の手伝い 13.8%
6位:金銭面 10.3%
7位:お風呂・トイレ 6.9%
7位:食事マナー 6.9%
※アスカネット「フォト総研」調べ

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黒川氏は「まずは、妻の抱える悩みをわかろうとすること。そして、その悩みを口に出して自分は知っているよとアピールすることです。女性の脳は共感によって相手への愛着を形成します。『君にとっては、僕の実家に行くことが大変なことなんだね』という共感をしっかりと伝えてください。それだけでも、かなり印象は変わるはずです」。

男性は問題解決のための会話をしたがる傾向にあるという。妻に愚痴を言われたときに「何がそんなに不満なんだ? いますぐ言ってくれ! 解決しよう」と言いたくなるのが男性脳。この本能をぐっとこらえる意識がまずは大事になる。

■解決法は「夫が台所へ入ること」

女性が気を使うポイントの2位となったのは、「家事の手伝い」だ。特に台所での料理や片付けは、女性にとって非常に大きなストレスになるという。

「女性は鎖骨を横に動かすことが多いので腕が左右に広く動きます。そのため台所では、1人ですべてを把握し、スムーズに家事ができる配置ができ上がっているもの。しかしほかの人が手伝いに入るとなると、妻はそんな完成された姑の領域に入らなければなりません。これは、お互いにとって苦痛を感じることになる」と黒川氏。台所では、目には見えない嫁姑バトルが繰り広げられていると思って間違いなさそうだ。

この“台所合戦”で妻のストレスを和らげる解決法は「夫が台所へ入ること」だという。実家に帰省したのだからゆっくりしようと無関心な態度ではなく、できる限り2人の緩衝材になるべく、手伝いに入るのがいいという。普段料理をしなかったり、皿洗いをしないのでやりづらいという場合にも、冷蔵庫にビールをとりにいくなどしてみる。少しでも嫁姑2人だけの時間を減らすことで、妻の心理的な負担を軽減できる。

帰省前、妻と一緒に映画を見るといい理由

妻が帰省で気を使うものでは3位以降も「手みやげ」「お風呂・トイレの使い方」「義実家での居場所」と続く。たとえば、お風呂については、入る長さ、順番、入浴後のタオルの置き場まで、実家に帰った夫にとっては気にもかけないことが、妻にとっては当たり前のことではない。妻がどこにストレスを感じるのか、改めてストレスの根源を探る「事前取材」が有効になると黒川氏はアドバイスする。

「女性の脳は“察してよ”という感情を働かせます。一方で、“察すること”を苦手にするのが男性脳。そのため、察してほしいのにそうはならない状況に、妻のストレスは日に日に増していきます。そこで、思い切って、帰省前に妻に取材をしてみましょう。『帰省で何か嫌なことある?』と優しく問いかけてあげてください」

そして妻のストレス要因を明らかにしたところで次のステップに入る。

帰省ストレスを激減させるGOODワードとNGワード

「取材結果をもとに、実家に着いたら夫が、『自分がこうしたいんだけどいいかな?』と、妻と話し合ったことを自分のこととして親に伝えてください。たとえば、『お風呂の時間を気にするのが嫌だ』というのなら、『実家の風呂は大きいし、せっかくなら○○○にもゆっくり浸からせてあげたいんだけど、いいかな?』など。あくまで『自分がこう思った』と、主語は『私』で伝えるのです」と黒川氏は言う。さらなるストレスの軽減法として、こう続ける。

「妻への事前取材にしても、親への要望の代弁にしても、大事なのは日頃から『妻がストレスを抱えている』という状態を知っておくこと。そもそもいい夫というのは『妻にときどき腹を立てさせる男』。女性は、日々男性以上に身の回りの細かいことに気を使っています。『夕食はどうしよう、トイレットペーパーが切れていたな、マヨネーズも買わなきゃ』といった具合に次から次へと課題が出てくるのです。それによって、小さなストレスがちょっとずつ溜まっていく。そこで、あるとき、まんまと夫が何か無神経な言動をしてくれると、思いっきり怒りを放出してストレス解消できるのです。でも、それはとてもいいこと。そうやってときどきガス抜きをすることで、また普段の生活をできるようになるのですから」

夫にしてみれば、まったく気にも留めない小さなことで、突然の怒りをぶつけられるように感じるが、それはたまたまリミットに達しただけだということだ。

さらに、「ストレスの蓄積を和らげるのは、涙を出すことです。女性は泣くことでストレスをリセットできますので、実家に帰る前に泣ける映画を一緒に見ておくのも効果がある」という。これで、冒頭のような重い空気を感じずに、実家に向かうこともできるようになるはずだ。

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▼妻の帰省ストレスを激減させるGOODワードとNGワード
GOOD
・母親に「○○○はいつも家事に追われて大変だからいまぐらい休ませてやってくれよ」
・自宅に帰ったときに「やっぱり家が一番いいよ」
NG
帰省の愚痴に対して「そんなこと言ったってしょうがないだろう」
・妻から母親への愚痴に対して「母さんもがんばっているんだよ」

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雑誌「プレジデント」(2018年9月3号)の特集「ぜんぶ解決! 実家の10大問題」では、本企画のほか帰省先の実家で起こるトラブル解決法を各専門家が解説。親の認知症、遺産相続争い、運動不足……少し先に迫る問題への対処の仕方がわかるラインナップとなっています。ぜひ帰省のお供に、手にとっていただければ幸いです。

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黒川伊保子(くろかわ・いほこ)
1959年、長野県生まれ。奈良女子大学理学部物理学科卒業後、富士通でAIなどの研究に携わったのち感性リサーチを設立。著書に『キレる女 懲りない男』(ちくま新書)、『女の機嫌の直し方』(インターナショナル新書)など。
 

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(山崎 哲朗 撮影=研壁秀俊 写真=iStock.com)