パ・リーグTVが展開する3画面による中継の画面サンプル(写真:パ・リーグTV提供)

今シーズンはインターネットテレビによるプロ野球中継の勢力図が大きく塗り変わる。

スポナビライブがプロ野球のライブ中継サービスを終了する一方で、DAZN(ダ・ゾーン)が中継対象球団を昨年の2球団から11球団に拡大するほか、楽天TVもパ・リーグ6球団の公式戦全試合のライブ配信を開始する。

その中心にいるのが、自らもライブ中継サービスのプレーヤーでありながら、他のプレーヤーにもコンテンツを提供するパ・リーグTVだ。



パ・リーグ6球団の全主催ゲームを視聴できる、インターネットテレビ「パ・リーグTV」がサービスを開始してから今年で6年目だ。前身の時代を含めれば11年の歴史を有する草分け的な存在だ。

パ・リーグでは2004年の球界再編騒動を機に、各球団が集客力を高めるべく球団改革を進め、2007年には6球団の共同出資でパシフィックリーグマーケティングを設立した。

改革の過程で、球団自身が外部の映像制作会社の協力を得て自前の中継画像を制作、それを地上波、CS、BSの各放送局に売り、放送局側は球団から購入した基本映像に、必要に応じて自前の実況、解説や映像をミックスして放送する形が定着した。

各球団が基本映像を制作するようになると、6球団分をまとめて1パックにして販売することが可能になり、誕生したのがパ・リーグTVだ。

読売ジャイアンツ、阪神タイガースとも提携。両チーム主催の交流戦の映像提供を受ける一方、両チームがビジターのパ・リーグ主催の交流戦の映像を提供している。

視聴デバイスは圧倒的にPC

例年、会員数はオープン戦が始まる3月から増え始め、4月から9月まで高原状態が続いて10月に入ると一気に減る。ピーク時の会員数は2012年シーズンの4万2000人から毎年着実に増加が続いており、2017年シーズンは7万人に達した。

会員の構成は男女別では8割が男性で女性は2割。年齢別では20歳代が2割、30歳代と40歳代が27%ずつだ。

「半分近くが20〜30代前半で使用デバイスは平日が圧倒的にPC。休日はスマホの比率が上がるが、それでも平日、休日ともにスマホでの視聴時間は総じて短い」(PLM広報)という。

動画は容量が大きく、スマホは契約回線で視聴するとすぐに速度制限にひっかかってしまう。Wi-Fi環境が整っている場所でなければ試合中の肝心な場面で画像が止まってしまう。

会社のPCで残業をしながらこっそり視聴している、比較的若手のサラリーマンの姿が浮かぶ。

アーカイブがすべてそろっているのが強み

パ・リーグファン対象のサイトなので、パ・リーグ6球団のどこかの有料ファンクラブに入会していれば料金の割引があり、月額1450円(税別、以下同)が950円になるのだが、ファンクラブ会員の比率は66%に留まる。逆に言えば34%が毎月1450円を払って視聴していることになる。


他の競合メディアと比較して、価格に優位性があるとは言えない状況だが、「最大の強味は2012年シーズン以降のアーカイブがパーフェクトにそろっている唯一のサイトであること」(PLM広報)だという。

最大3試合を同時に同一画面上で見られる機能(トップ写真)に加え、今シーズンからはもう一度見たい場面を見たいアングルから再生できるマルチアングル機能も付加される。


マルチアングル機能の画面サンプル(写真:パ・リーグTV提供)

2015年シーズンまでは、視聴者に直接番組を売る“小売り”の立ち位置だったが、2016年シーズンからスポナビライブへの映像提供を開始し、小売りと並行して“卸売り”の立ち位置もとるようになった。

スポナビライブはパ・リーグTVからパ・リーグ6球団の映像を調達する一方、セ・リーグについては各球団と個別交渉し、巨人と広島を除く4球団から映像を調達していた。

昨シーズンは全10球団分を提供していたが、今シーズンはプロ野球のコンテンツは提供せず、その他のコンテンツも全て2018年5月末で終了する。配信事業からわずか2シーズンで撤退するが、阪神、横浜、中日の主催ゲームについて、DAZNにサブライセンスの形で供与するビジネスに転換する。

DAZNにパ・リーグの全試合を提供

今シーズンからは、パ・リーグTVはスポナビライブに代わってDAZNにパ・リーグ6球団分の全試合を提供、楽天TVへの提供も開始する。

DAZNも楽天TVも、そしてスポナビライブも、パ・リーグTVと同じ有料インターネット媒体だ。競合先と言っていい相手にコンテンツを提供するのはなぜなのか。

「PLMがアタッチできていないユーザー層を抱えているから」(PLM広報)だ。スポナビライブもDAZNも、プロ野球以外のスポーツの視聴者を抱えているし、楽天TVはドラマやアニメ、舞台などスポーツ以外の分野の視聴者層をも取り込んでいる。

パ・リーグTVの映像をDAZNや楽天TVで見られれば、パ・リーグTVの会員になる必要はなくなる。パ・リーグTVがコンテンツの卸先を増やしても自らの会員獲得にはつながらないどころか、場合によっては会員数を減らす結果になりかねない。

それでもパ・リーグTVは卸先の拡大を指向する。PLMの事業目的は「プロ野球のファンを増やす」ことにこそあるからだ。