※秋田犬によるストリートビューはGoogle Street Viewで大館市に行くと閲覧できます。写真は大館駅前での光景。

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記念物「秋田犬(あきたいぬ)」が世界中で人気になっています。この人気を受けて、米グーグルは地図検索サービスに「犬目線」の画像を掲載しようと、秋田県大館市で撮影会を実施しました。ただし撮影会当日は荒天で猛吹雪。コラムニストの辛酸なめ子さんによる決死のリポートをお届けします――。

■金メダルのザギトワ選手もグーグルも、秋田犬にぞっこん

長年続いた猫ブームについに強敵が現れたかもしれません。

忠実で黒目がちな瞳と、モフモフの毛がかわいい秋田犬(あきたいぬ)。先日の2018年平昌五輪「フィギュアスケート女子」のザギトワ選手も、獲得した金メダルのご褒美に「秋田犬が欲しい」と言っていて、世界的に注目度が高まっています。

まさかザギトワ選手がそんな発言をすると予見したわけではないでしょうが、先見の明があることで定評のある検索大手のグーグルは、いち早く秋田犬のポテンシャルに目をつけていました。

「『忠犬ハチ公』のふるさと」として知られる秋田県大館市と協力し、世界初のプロジェクト「ドッグビュー」を実施したのです。秋田犬の背中に全方位撮影可能な小型カメラを装着し、「犬目線」での写真を撮影。それを地図検索サービス「Googleストリートビュー」で公開するというものです。2月20日、その撮影風景を見学させていただく機会に恵まれました。

▼犬目線の「Googleストリートビュー」撮影会に密着

「これまでにも、羊の背中にカメラをつけたり、砂漠でラクダの背中にカメラをつけたりしました。でも秋田犬は世界初です」と、有能そうなグーグルの美人社員さん。

「ちなみに猫のご予定は……」
「猫はリードを着けてお散歩する習慣がないので難しいかもしれませんね」

猫好きとしてあきらめきれなくてすみません。今日は、犬の魅力を素直に受け入れようと思います。

■プーチン大統領もヘレン・ケラーも秋田犬が大好き

まず、秋田犬について深く知るために訪れたのは、秋田犬会館。周囲にうずたかく雪が積もる中、会館の入り口脇に1匹の秋田犬が、そして受付にも1匹の秋田犬がいて、出迎えてくれました。猫はここまでホスピタリティ旺盛ではありません……。

受付で出迎えてくれた秋田犬。自分の役割を全うしようという使命感が。この秋田犬会館の展示で知った秋田犬の知識は……。

(1)縄文犬の血を引いていると言われ、人間に忠実な性格のため狩猟のお供をしていた。

(2)明治時代と大正時代の頃は、洋犬とかけあわせて攻撃的な闘犬になっていた時期もありましたが、今では本来の秋田犬の姿に戻りつつあるそうで、現在では国の天然記念物として保護されています。

▼ハリウッド映画にもなった渋谷駅のハチ公も秋田犬

(3)2012年に東日本大震災への支援のお礼としてロシアのプーチン大統領に秋田犬が寄贈されたのは有名ですが、もっと以前にアメリカの社会福祉活動家ヘレン・ケラーも秋田犬を大変気に入って、もらい受けたという歴史がありました。

(4)ハリウッド映画にもなった渋谷駅のハチ公の物語は有名ですが、他にも忠犬の伝説がありました。それは江戸時代、シロという秋田犬のエピソード。マタギの許可証を忘れて猟をしていたら、不審者として捕らえられた主人の定六。シロは家に走って奥さんに鳴いて訴えて許可証を取ってこようとしたのですが、奥さんがなかなか気付かず、結局間に合わなくて主人は処刑されてしまいます。ハチ公以上に切ない伝説です。ほどなくしてシロも亡くなり、哀しみと悔しさで不成仏霊として祟りを発動したシロの魂を慰めるため、山に「老犬神社」が建てられました。犬を祀っている神社は珍しいそうです。

――と、展示物などを見ながら知識を深めていたところ、前出の美人社員さんがおっしゃいました「今日、このあとその神社に行きますよ」。えっ、そんないわく付きのスポットに……。江戸時代の話なので、鎮魂されていることを祈ります。

■外国人客が我先に秋田犬と撮影し、インスタへアップ

途中に寄った大館駅前には「あこ」と「飛鳥」という双子の姉妹の秋田犬(2016年生まれ)がいて、海外の観光客が次々と犬と撮影していました。インスタ映えするIt Dog 秋田犬。外国人に大人気です。

「(秋田犬は)SNSでも有名ですよ」

と大館市の観光課の方は喜んでいました。今回の秋田犬の話は、グーグルが秋田県と協力して観光名所をストリートビューで公開する計画を立てた一環で持ち上がったそうです。

▼地方自治体と巨大IT企業の間を取り持つ、秋田犬

大館市観光課としては、秋田犬のストリートビューの話題が盛り上がることで観光客がさらに増えるなどの相乗効果を期待しています。またグーグルとしても、ストリートビューの認知度がさらに高まるという、双方に利点があるお話。地方の自治体と世界を代表するIT企業の間を取り持つのが、秋田犬。完璧な計画です。

その後、私たちは時々吹雪く荒天の中、「老犬神社」に向かいました。

フワフワの毛並みで寒さに強い秋田犬は大丈夫だとして、問題は人間です。車2台に分乗し、雪の中、老犬神社へ。雪道に慣れた現地の方が運転する車をしっかり追走するグーグルストリートビュー担当の女性のドライブテクに驚かされましたが、窓の外は真っ白で、東京だったら自宅待機する状況。雪国の人は普通に出かけていてすごいです。

神社に行くためには、車を降りて数百メートル歩かなければなりません。でも、あたりは真っ白。かなりの積雪量の上にさらに容赦なく雪が降ってくるのです。ところが、グーグル美人社員さんたちは全く動じず有言実行(計画を推進)しようとします。そのポジティブさや気力に感じ入りました。

■犬越しに見る雪景色は「キレイでかわいい」

雪道を歩くときに助けてくれたのは、リードでグイグイ引っ張ってくれた秋田犬の「あこ」です。猫ではありえない牽引力です。犬登山というのもよいかもしれません。

秋田犬の背中につけられたカメラは、時折「ピュルッ」とシャッター音を響かせ360度の全方位を一度に撮影していました。写真を見ると、犬の頭部と背中、しっぽも写っていて、犬越しに雪景色を見ることができます。かわいいです。

ところで気になったのは、油断すると「あこ」のしっぽが垂れ下がってくることでした。「尻尾を巻いてあげてください」と何度か大館市観光課の方に言われて、尻尾を巻きなおしました。秋田犬はくるっと巻かれたしっぽがチャームポイントですが、警戒心や不安な気持ちがあるとしっぽが下がってくるそうです。もしかしたら、神社から発せられる目に見えない何かの気配を感じていたのでしょうか……。

■人間が見えないものを感知する犬の「能力」を活用

人間よりも見えないものに対する感度が高い犬にカメラを装着すると、耳やしっぽ、背中の毛の状態で土地のエネルギーがわかりそうです。しっぽが垂れるだけでなく、背中の毛が逆立っていたら、かなり危険です。

でも逆に言えば、しっぽが上向きで犬が喜んで歩いているところなら、行っても大丈夫な証拠でしょう。そんなセンサーがわりに犬の能力を活用できるのではないか、ということをこの秋田犬ストリートビュー撮影会で感じたのでした。

 

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(漫画家/コラムニスト 辛酸 なめ子 イラスト・写真=辛酸なめ子)