北朝鮮国営の朝鮮中央通信は9日、金正恩党委員長が同国最高峰の白頭山に登ったと報じた。日時は明らかにされていない。一方で、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、白頭山のある両江道(リャンガンド)三池淵(サムジヨン)郡の住民の話として、先月29日から今月3日にかけて外部との交通と通信が全面的に遮断され、多くの人が足止めされたと報じた。

氷点下33度

現地の情報筋によると、先月29日から三池淵発着のすべてのバスの運行が停止となった。事前の知らせがまったくなかったため、知らずに旅客バス事業所(バスターミナル)に行き、その場で「当分の間バスは来ない」と知らされた人びとが、関係者に強く抗議する一幕もあった。バスの案内員は「中央の指示による措置」との説明を繰り返したという。

また、三池淵発着の列車の運行も完全に停まり、乗用車の通行も禁止されたため、足止めされた人びとは暖房もない駅舎や旅館で数日待つことを余儀なくされた。

ちなみに朝鮮中央テレビの天気予報によると、三池淵の白頭山密営の1日の最低気温は氷点下33度、最高気温は氷点下18度。3日は寒さが和らぎ、最低気温氷点下8度、最高気温氷点下2度となったが、いずれにせよ極寒であったことには変わりない。

さらに、三池淵に隣接する大紅湍(テホンダン)にある三長(サムジャン)税関周辺には数多くの貿易会社があるが、所属の車両はすべて数日間足止めを食らった。

三池淵から三長税関までは150キロほどの道のりだが、途中で全く動けなくなったというのだ。この地域は人口が希薄で、運良く数少ない村にたどり着いた人以外は、車中で震えながら夜を明かしたことだろう。

金正恩氏がここまで徹底して交通を遮断させるのは、米軍の斬首作戦を恐れているからに他ならない。

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問題は交通だけにとどまらない。現地から電話を何度もかけても「故障中」というアナウンスが流れるだけで、全く繋がらなかったというのだ。急に連絡が取れなくなり、家族や知人はさぞかし心配したことだろう。

交通と通信がもとに戻り、金正恩氏がやって来ていたことが知られるようになったのは今月4日に入ってからだが、まだまだ事情を知らない人も多いという。それもそのはず、金正恩氏の訪問とは関係なく停電が続いているため、テレビを見られないからだ。

別の情報筋は、金正恩氏の滞在日数はわからないが、5日に渡って交通と通信が遮断されたことはいまだかつてなく、電話まで遮断されたのは初めてだと証言した。

これも、金正恩氏がいかに斬首作戦を恐れているかの現れだろうが、彼の心配にも全く根拠がないわけでもない。

2004年に平安北道(ピョンアンブクト)の龍川(リョンチョン)駅で起きた爆発事故は、金正日総書記が乗った列車を狙ったテロだったとの説がある。その犯行には携帯電話が使われたと言われている。

交通と通信が遮断された理由は、おそらくこれだけではない。三池淵は中朝国境に面しており、金正恩氏の動線が中国当局に察知されるのは望ましくないと考えられているのだろう。