自分の好きな格好で、好きなように楽しめばいい

年齢を重ねると、昔の服が似合わなくなったり、体型が変わったり、体もさまざまに変化します。そんななか、『おしゃれはほどほどでいい〜「最高の私」は「最少の努力」で作る〜』でおしゃれの楽しみ方を説いたシンガーの野宮真貴氏と、新しいアルバム『野宮真貴、ホリデイ渋谷系を歌う。』で1曲デュエットしたクレイジーケンバンド・横山剣氏という57歳の同い年が、年齢とともにおしゃれを楽しむコツを語り合う対談の後編。

装うことで得られるメリットとは?

野宮 真貴(以下、野宮):おしゃれの効能は、まず自分の気持ちが変わること。わくわくして、楽しくなりますよね。「この靴を履くと自信が持てる」「この服を着ると気分が上がる」。そんな単純な理由でまずは自由に着てしまえばいいと思っています。

横山 剣(以下、横山):好きな服を着ると、フットワークが軽くなって、どこかに出掛けたくなります。

野宮:世の中全体がカジュアルの方向に流れているので、ドレスアップをする機会がなくても、1週間に1度くらいは赤い口紅をつけたり、ハイヒールを履く練習してみたりと、緊張感のあるアイテムをときどき取り入れておいたほうが、若さを保てるんじゃないでしょうか。新しい服に挑戦したときに褒められるのもうれしいですし、おしゃれは簡単に新しい自分を発見させてくれるツールでもあると思います。

横山:モータースポーツの周辺には昔からジャズやソウルがあったんですけど、その文化は今も続いていて。ビンテージカーの世界では年に数回、そういうパーティがあるんですけど、そういうときはやっぱりとっておきの格好ができます。

野宮:そういう人たちって本当におしゃれですよね! 自分の美意識というかスタイルをしっかり持っているからですね。

横山:「どうやったらそんなふうになれるのか?」というくらいおしゃれです。洋服を雑に着倒しているあの感じは、まねしても無理ですね。年齢的には僕くらいで最年少。皆さん、話すことが面白いし、エロティックな話もするし、現役感があって、ものすごく勉強になります。最初は緊張していても、お酒が入ってくると結局男はみんな同じで楽しくなってくる感じがありますね。

野宮:そういうハレの場や、ビジネスの場では、お洋服に力を借りる側面はありますよね。多少高級な服を着ると、自分に自信が持てて、気後れせず、堂々と振る舞える。私もライブをやるときには選曲と同時に「何を着よう?」って考えますからね。お洋服のそういう効果はどんどん利用して、ここぞという場面では服に助けてもらったほうがいいと思います。

横山:TPOですね。勉強になります。男はいろいろとわかっていないところがあるので、女性の言葉に「あ、そうなんだ」と気づかされることばかりです。以前、野宮さんのラジオを聴いていたときに、「グレーのシャツにピンクを合わせるといい」とおっしゃっていて、「よし!」と思って、後日デュエットをするとき、そのスタイルでステージに立ちました。

野宮:こちらのそういう一言を聞いて、「あ、じゃあやってみよう」とやってくださった。しかも私とデュエットするときに取り入れてくださるところが、とてもすてきです。

横山:すてきな女性の意見にはすぐに左右されます(笑)。

野宮:おしゃれかおしゃれじゃないかはさておき、気を使って、ちゃんと装っている人は、好感が持てますよね。たとえば一緒に食事をしましょう、デートをしましょうというときに、その人なりにきちんとしてきてくれると、こちらのことを思ってくれていることが伝わってきて、すごくうれしいです。

老眼問題、薄毛問題は避けて通れない


野宮:剣さんは、ファッションや装いに関して、気をつけていることはありますか?

横山:実践できてはいないんですけど、なるべく清潔感には気をつけたいです。けっこう性格が雑なので、うっかりしがちなんですけど。

野宮:年を取ると、どうしてもお肌がくすんで見えてくるので、清潔感が本当に大事になってきますよね。

横山:加齢臭とか(笑)。

野宮:自分の体もそうですけど、お洋服のメンテナンスも大事になってきます。若い頃は、Tシャツやジーンズが破れていてもパンキッシュでかわいいですけど、大人になると、お洋服のダメージがみすぼらしく見えてしまう。だから本にも書いたんですけど、大人のカジュアルはエレガントカジュアル。Tシャツにもアイロンをかけて着るといいです。

横山:ただのみすぼらしいおじさんになっちゃう(笑)。いろいろと面倒くさいことはあるんですけど、現役でいるためにはやらないといけないので、恥をかくかもしれないですけど、「でもやるんだよ」精神もモットーではあります。仕事であれ、なんであれ。そーそーそーそー。

野宮:老眼問題はどうですか? 老眼鏡って使われます?

横山:使います。CDのクレジットをチェックするときとか。字が小さくて見えないから。

野宮:なかなかすてきなデザインの老眼鏡がなかったので、JINSさんでプロデュースさせてもらったんです。かけるとより美人に見える「美人リーディンググラス」。


これは、二十歳の人は使えない、大人のためのファッションアイテムです

横山:それはいいですねえ。すべての人に必要になってくるものですから。

野宮:そう。年齢を重ねることをあまりネガティブに思わずに、新しいファッションアイテムが増えたと思って、おしゃれに楽しむ。だってこれは、二十歳の人は使えない、大人のためのファッションアイテムですから(笑)。

加齢を受け入れて、それを老化でなくて、成熟すると考えてみる。若さはすばらしいけれど、成熟した美しい女性がたくさん増えて、それを男性も褒めてくれるようになったら、すてきな世の中になると思って。そういうメッセージを込めて、本を書いたし、老眼鏡もプロデュースしたんです。

大人はもっともっと遊んだほうがいい


横山 剣(よこやま けん)/1997年に結成した「クレイジーケンバンド」のコンポーザー兼ボーカル&キーボード。「音楽ジャンルからの解放」をモットーとする全方向型音楽で、幅広い年齢層から人気を博す。また、数多くのアーティ ストへ楽曲提供、自叙伝『マイ・スタンダード』の執筆など、活動は多岐にわたる。クレイジーケンバンド全国ツアーや各ディナーショウ等も開催中

横山:すばらしい考え方です。男にとっては、僕もそうですけど、ゲーハーを気にされる方が多くて。

野宮:「ゲーハー」(笑)。

横山:イタリアなんかに行くと、はるかに自分より背の高い女性とデートしてるハゲのおっちゃんとかがいて、すごく格好いいなと思うんです。この感覚は、若い頃にはなかったですね。若いときは、ハゲたら自殺するって思っていたくらいなので(笑)。

野宮:フフフ(笑)。

横山:うちは親子3代ゲーハーなので、どうしようって思ってました。リーゼント、あるいは横分けだったので、特に深刻な問題で。でも50代になったらみんなゲーハーになるものなんだなと受け入れて、それに似合うファッションを楽しむようになりました。

野宮:ゲーハーの格好のいい男性と、エレガントな50代以上の女性が増えるといい、ということですね(笑)。

私の場合は40代、肌や髪のハリやツヤなど、加齢によるうれしくない変化になんとか抗おうとして、プチ整形や髪をアイロンでツヤツヤに伸ばしたりしたけれど、逆にその「若作り」が自分を老けて見せると気づきました。50代になって、あんまり気にしなくなりましたし、解放されました。

『おしゃれはほどほどでいい』を書きながら気づいたのは、若いときにやったことは、今でもできるということ。若い頃は、若気の至りで許されることはなんでもやったほうがいいと思うし、年を重ねた今も、やりたいことはやったほうがいい。大人はもっともっと遊んだほうがいいと思います。若いときに私もやっていたへそ出しルックだって、他人の「見たくない」という気持ちを気にしなければできますし(笑)。

横山:たまにすごい人、いますよね(笑)。

野宮:そう考えると、年を重ねると、逆に楽しみが増えるし、いいことのほうが多い。10代の頃よりも、自分の自由になるおカネもあるし、子育てから解放されれば、自分の時間が持てるようになる。なにより人の目が気にならなくなるので、おしゃれも含め、自由に楽しめるようになりました。そもそも、人ってそんなに他人のことを気にしていないですし。でも、その人のすてきなところを、ちゃんと見てくれている人はいると思います。

横山:うちの場合は子どもが小さいので、まだ手がかかるんですけど、子どもの運動会で若いお父さんに勝ったときは気分がいいです(笑)。さっきも言いましたけど、趣味のモータースポーツの界隈には、自分よりも年上の人が多いんですよ。70代とか。みんなめちゃくちゃ速くて、元気で、年齢関係ないなと思います。

野宮:ある程度、おカネを持ってないとできない趣味ですし。

横山:遊びとしてはぜいたくですけど、僕は酒もゴルフもギャンブルもやらないので、その分をすべてモータースポーツに注ぎ込んでます。

野宮:趣味の世界で、年上の人がいるのっていいですね。私の周りにはあまりいないかもしれない。私が刺激を受ける年上の女性は、歌手の先輩方や、フランスの女性。60代のユーミンや、80歳の雪村いづみさんが、私服で超ミニを履いてらっしゃる姿を見て、私ももうちょっと歳を重ねたら、またミニにチャレンジしようかなと思いました。

横山:僕は60代になったら、もうちょっと体を絞って、プールで堂々と見せられる体にしたいです。サーフィンもしたいし。

野宮:水着問題! なんとなく「もう水着は着ないかなー」と思っていたら、海外のリゾートに行くことになって。いざとなると、50代に似合うおしゃれな水着がなくて困りました。

横山:老眼鏡みたいに、水着もプロデュースしましょう(笑)。

渋谷系のミュージシャンはなぜか見掛けが変わらない

野宮:今はディスコやクラブどころかライブハウスにも行ったことがない人がいるらしいので、そういう人たちのためにも場を作りたいですよね。別におしゃれじゃなくても、自分の好きな格好で、好きなように楽しめばいいんです。


わたしのライブに来てくれる人たちも、みんな、好きな服を着てるだけ。おしゃれもいろいろだし、年齢もいろいろだし、性別もいろいろ。自分が好きな格好をすればテンションが上がりますし、音楽を生で聴くと、すごいすっきりしますよね。

横山:細胞が生き生きして、女性は美しく、男性はワイルドになるんですかね。

野宮:アンチエイジング効果があるかもしれない。特に渋谷系の人たちってすごくないですか?

横山:カジヒデキさんとか年齢不詳ですよね。このあいだ、田島貴男さんと一緒になったんですけど、ぜんぜん変わらない。

野宮:渋谷系を聴けば、老けないということで(笑)。

(構成:須永貴子、撮影:菊岡俊子)