W杯を逃したショックを抱えているというサンチェス(左)を慰めながらも、ヴェンゲルはさらなるレベルアップのために発破をかけた。 (C) REUTERS/AFLO

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 百戦錬磨の指揮官は、打ちひしがれる教え子を気遣い、そしてさらなる成長を促した。
 
 現地時間10月12日に催されたプレミアリーグ第8節のワトフォード戦に向けた会見で、アーセナルのアーセン・ヴェンゲル監督は、ワールドカップ出場を逃したチリ代表FWのアレクシス・サンチェスについて言及した。
 
 チリは10日に行なわれたロシア・ワールドカップ南米予選最終節で、ブラジルに0-3と完敗し、予選突破圏外の6位に転落。本大会行きの切符を逃してしまった。
 
 首位ブラジルが相手だったとはいえ、予選突破圏内の3位からまさかの敗退に、チリの主砲であるサンチェスは当然、その責任を問われることだろう。ヴェンゲルは記者会見において、「彼はメンタル面で非常に厳しい状況にある」と明かした。
 
 監督生活36年目を迎えているフランス人指揮官は、これまでに幾人もの選手たちの人生に関わってきた。それゆえにサンチェスが陥ったような精神状態から、一気に凋落した選手も知っているのだろう。会見では、ポジティブなコメントを寄せた。
 
「サンチェスは勝者だ。だからきっと、フットボールの試合に負けてピッチに上がらないということはしないだろう。今以上のトップレベルに上がりたいなら、失望に対処する必要があるんだ」
 
 さらに、教え子を気遣うヴェンゲルの独演は続く。
 
「より大きなキャリアを築き上げたいと思うのなら、ジェットコースターのような道を覚悟しないとね。今は最高の場所にいても、3日後にはどん底にいるかもしれないんだ。ただ、それを手助けするのが我々の仕事だ。常に新たな目標を与えてあげて、集中させられる環境を作るんだ」
 
 そして、国の威信をかけた戦いが選手たちにもたらす影響についてもヴェンゲルは、「代表チームには、そのプレッシャーを半分を請け負うような選手がいる。フランスならジダン、イングランドならベッカム、アルゼンチンならメッシ、チリの場合はサンチェスがそうだ」と持論を展開している。
 
 そのなかでヴェンゲルが引き合いに出したのが、1998年のフランス・ワールドカップ、宿敵アルゼンチンとの一戦で、ディエゴ・シメオネに報復の蹴りを見舞って退場となり、敗戦の責任を背負わされた元イングランド代表のデイビッド・ベッカムだ。
 
 当時、英国中から大バッシングを受けながらも、大スターへと成長していったベッカムについて触れたヴェンゲルは、「彼はあの時、国中から誰かを殺したかのように扱われた。あなた方(メディア)も、そのことは忘れてはいないだろう。だが、彼らのようなトップレベルの選手は、それを乗り越えなくてはいけないんだ」と話した。
 
 恩師からの言葉を受け、サンチェスはいかに振る舞うのか? 14日のワトフォード戦に注目だ。