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●セルラーモデルのインパクト

アップルは9月22日に、Apple Watch Series 3を発売した。第3世代となったAppleのスマートウォッチは、iPhoneと組み合わせる前提はそのままで、GPS搭載と水泳に耐える防水性能を獲得した第2世代とデザインも変わらない。しかし、セルラー対応モデルの登場という、非常に大きなニュースとともに登場したのだ。

○セルラー接続のインパクトとは

Apple Watchは前述のように、iPhoneとのペアリングを前提としている。iPhoneとはBluetoothで接続し、iPhoneへの着信やメッセージなどの通知を受信したり、Watch内のアプリのデータ通信をiPhone経由で行ったりしていた。

Watch内のアプリはペアリングしなくても使えるが、データ通信を伴う作業は、既知のWi-Fiネットワーク下でなければ利用することができなかった。アップルが顧客にアピールする音声アシスタントSiriも、iPhoneとのペアリングか、Wi-Fiがなければ利用できなかった。セルラー接続は、iPhoneやWi-Fiのネット接続に頼らず、単体で携帯電話の電波を拾い通信できることを意味する。

Apple Watch Series 3 GPS+Cellularモデルの登場に合わせて、世界中の通信キャリアは、スマートフォンの契約と同じ電話番号で通話とデータ通信ができるApple Watch向けのプランを用意し始めた。米国では月額10ドルだが、日本では350円から500円と、半額以下で利用できるようになる。

○意味的には大きいが、過度な期待は禁物

Apple Watch Series 3 GPS+Cellularモデルを実際に試してみると、こんな挙動になる。

iPhoneとApple Watchを同時に持ち歩いているときには、これまで通り、Apple WatchはiPhone経由の通信を行う。Wi-Fi環境下ではWi-Fiを使う。しかしiPhoneもWi-Fiもないときに初めて、セルラー通信を利用するのだ。セルラー通信をオフにする機能はあるが、通信経路の切り替えでユーザーが意識することは何もない。

iPhoneからApple Watchが離れれば、iPhoneの電話番号にかかってきた通話はApple Watchに着信するし、SMSもApple Watchに届く。またFaceTime AudioやiMessageなどのデータ通信を利用するコミュニケーションも、Apple Watchのみに届くことになる。そのため、iPhoneが手元にあるかないかは、ユーザーが意識することはほとんどないだろう。

●セルラー対応がもたらすこと

特に米国では、インフラや社会的な問題の解決に、スマートフォンを用いてきた節がある。インフラが充実する日本以上に、スマホがある生活の定着によるインパクトは大きかった。

そのインフラたるスマホから離れる時間を演出し始めること。これがApple Watch Series 3 GPS+Cellularモデルがもたらす意味だ。

例えば米国の都市では交通インフラとなったUberなどのライドシェアサービスは、Apple Watchだけで確実に利用できるようになった。また、Apple Watch単体で、音声アシスタントSiriを利用できる点も、アップルにとって、アプリ開発者にとって、重要な意味を占めることになる。

スマートフォンからスマートウォッチへの移行がすぐに起きるわけではないが、スマホで解決した問題を手首の時計だけで解決できる。そんなシーンが拡がることは、モバイルコンピューティングや我々の日常の生活の中で、デバイスのポジションの変化や、アプリの前提の変化などがもたらされる。

しかし、前述のように、Apple Watchのソフトウェアは、極力セルラー通信を使わない前提で、通信経路の切り替えを行っている。その理由はバッテリーだ。

Apple Watch単体での連続通話は1時間、GPSを利用しながらデータ通信を行う場合は4時間のバッテリー持続時間となる。1日18時間というApple Watchのバッテリー持続時間のコンセプトとはかけ離れているのが現状だ。

そのため、あくまでも、Apple Watchのセルラー利用は一時的な場面、という前提がある。

○いつ、セルラー通信を使うのか

Apple Watch Series 3 GPS+Cellularモデルを実際に使ってみると、アップルの想定と同じように、思った以上にApple Watch単体で行動するシーンは限られている。

家でiPhoneを充電しているときも、Wi-Fiがつながってしまうのでセルラーは使わない。オフィスでも、カバンの中にiPhoneがあっても、つながり続けるか、結局オフィスのWi-FiにApple Watchがつながる。

電池の持続時間から考えればきちんと最適化されている証拠でもあるが、期待した以上にはセルラー通信を実感するチャンスは少なかった。

筆者の日常の中では、ルーティンとなっているジョギングが、数少ないケースとなった。

ジョギングをしている人なら分かるかもしれないが、iPhoneをポケットの中に入れていると、走っているときに弾んでしまって据わりが悪い。そのため、セルラーモデルの登場以前から、iPhoneを家においてApple Watchのみを身につけてジョギングに出かけていた。

Apple Watchがセルラー対応すると、これまで通りiPhoneを家において出かけても、家人からの連絡を受け取ることができるようになるし、Apple Musicなどのストリーミング音楽を楽しむこともできる。

あるいは1時間ほどのウォーキングを楽しむ週末でも、Apple Watchのみで軽快に出かけられるようになった。財布も持たずに出かけても、途中で買い物メモが送られくれば、Apple Payで解決できる。

●メリットが大きくなるのはこれから

○初速は上々

アップルはワイヤレス接続に関して、不具合を認めており、ソフトウェアアップデートでの改善を約束している。

それでも、Apple Watch Series 3 GPS+Cellularモデルは前述の通り9月22日に発売されたが、滑り出しは上々のようだ。

発売日となる9月22日の段階で、Appleのオンラインストアでは各サイズ、各色ともに3〜4週間の納期を表示している。セルラー非対応のモデルが納期1日であることから、セルラーモデルに人気が集中し、高い需要がある状態だ。

前述の通り、多くの人にとって、セルラー通信のメリットをすぐに大きく実感することは難しいのではないか、と推測している。ただし、今後、セルラー通信を前提とするアプリの登場や、Siriの利便性向上など、セルラーモデルならではのメリットは大きくなっていくことが予測できる。

現在は新しい要素が加わった新製品としての需要の高まりかもしれないが、Apple Watch単体でのシーンが増えていくことで、セルラーモデルはもう一段、需要が高まる瞬間を向かえることになるだろう。