パートやアルバイトというような非正規雇用が増え続けている現代。いわゆるフリーターと呼ばれているアルバイトやパート以外に、女性に多いのが派遣社員という働き方。「派遣社員」とは、派遣会社が雇用主となり、派遣先に就業に行く契約となり派遣先となる職種や業種もバラバラです。そのため、思ってもいないトラブルも起きがち。

自ら望んで正社員ではなく、非正規雇用を選んでいる場合もありますが、だいたいは正社員の職に就けなかったため仕方なくというケース。しかし、派遣社員のままずるずると30代、40代を迎えている女性も少なくありません。

出られるようで、出られない派遣スパイラル。派遣から正社員へとステップアップできずに、ずるずると職場を渡り歩いている「Tightrope walking(綱渡り)」ならぬ「Tightrope working」と言える派遣女子たち。「どうして正社員になれないのか」「派遣社員を選んでいるのか」を、彼女たちの証言から検証していこうと思います。

☆☆☆

今回は、都内で派遣社員として働いている木村美穂子さん(仮名・27歳)にお話を伺いました。美穂子さんはくせのある髪質を生かしたふんわりとしたショートボブに、マスカラとグロスだけの簡単なメイクでしたが、ぱっちりとした目元が印象的でした。薄い水色の半そでカットソーに、少し色落ちしたボーイフレンドデニムを合わせていました。

「今は、webマーケティングの部署で、簡単なデータの抽出やエクセルファイルの作成、データをもとにパワーポイントを作成したりしています」

オフィス系のソフトは、すべて働きながら覚えていったそうです。今も机の引き出しには、ソフトの教則本を置いています。

「元々は、全然マーケティングにも興味がなくて。今の仕事に就いたのは、派遣会社から紹介されたからですね」

美穂子さんは徳島県で生まれました。実家は家族経営で不動産業を営んでおり、住まいから少しはなれた場所で、父や母や親類が働いていたそうです。

「上に2人、兄がいます。一番上の兄とは10歳離れていて、真ん中とは6歳違いなので、あまり子供の頃に一緒に遊んだ記憶とかはなかったです。父親は女の子が欲しかったらしいんですよ。なので父には可愛がられましたね」

3人兄弟の末っ子だったため、兄2人よりおおらかに育てられた。

「元々、親族も会計事務所を開いていたり、遠縁ですが建築士がいたり。なにかしら資格を持っている人が多かったんですよ。一番上の兄は早い時期から大学受験を意識させられていて、中学から寮制度のある学校に進学しました」

一番上の兄だけ私立へ進学し、真ん中の兄と美穂子さんは、中高と公立に通います。

「真ん中の兄は地元のサッカークラブに通っていたため、友達と別れるのが嫌だって公立中学に進学したんです。兄が実家にいてくれたおかげで、私ものんびりできたというのはありますね」

中高と文芸部に所属し、読書に没頭しました。

「私は兄と違って、運動が苦手で。とにかく、本が好きだったんですよ。夏休みとか、図書室に行きたいがために学校に行ったり。よく、読書したページ数を棒グラフにして塗る課題とか、出るじゃないですか。あれが足りなくなって、紙を足していたら“お前、ズルをしてるんだろ”って、同級生から言われたりしましたね」

真面目なため、勉強が好きなように周りから見られていたが、理数系は苦手だったと言います。

「本が好きだと勉強も得意なように思われるのですが、とくに成績が飛びぬけてよかったというわけではなかったですね。同じ本を何度も読んだりするのは好きなのですが、好きな本も偏っていて。国語の成績は他よりはよかったですが、数学があまりできなかったので文系で行こうって思いました」

太宰治の墓参りに行きたいために上京……

高3で志望校を決める際に、親から反対されます。

「父が、上京をよく思わなかったんです。なので、記念受験だと説得をして東京の私大を受けました。地元の国立大学も受験したのですが、5科目の成績が良くなかったので、そっちの方が記念受験でしたね」

大学はすべて文学部の国文科に絞り、受験しました。

「四国にある私大と、東京の私大の両方に合格をしたのですが、地元に残った真ん中の兄が“好きなことをやらせてみれば”と言って後押ししてくれて、東京の大学に進学しました」

彼女が東京の大学に進学したかったのには理由がありました。

「本当、どうかしていると思うんですけれど、好きな作家が住んでいた街とかに、自分も住んでみたかったんです」

昔の文豪が好きだという美穂子さん。上京して時に、太宰治の遺体が発見された日である6月19日の「桜桃忌」に墓参りができたとき、上京をしてよかったと思った。

「ずっとネットなどで情報を見ていて。実際に、自分が太宰の墓に墓参りに行くことができたときは、感慨無量でした」

今でも、「桜桃忌」の墓参りは欠かさない。

「そこで知り合った知人もいるんですよ。地元の友人とかに話したら、“墓地で出会った知らない人と連絡先とか交換するなんて、信じられない”って驚かれましたが」

とにかく本が好きという彼女、大学時代のバイト先も書店でした。

「大型書店でバイトしていました。書店って、見た目と違ってかなり肉体労働なんですよね。本を常に触っているので、手のひらが傷だらけになったり……。でも働いている間はハンドクリームとか塗ると、商品についてしまうので我慢していました」

就活も行ないましたが、本当は書店員の仕事を続けたかったそうです。

「書店のパート社員になる話があったのですが、せっかく大学まで出してもらったのにフリーターというのは親に悪いなと思って。バイトなら実家に戻ってきなさいって親からも言われて、仕方なく不動産関連の会社に就職しました」

ベストセラーの棚よりも、どういう分類わけがされているのかが気になるそう。

就職先の社風にあわず半年で退社。念願の書店員として働くが、閉店でリストラに…。その2に続きます。