3人に2人が3年で辞める「宿泊・飲食」

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「新入社員の3割が3年以内に辞める」といわれるが、それは大卒者の恵まれた話だ。高卒の場合、平均は40.9%。「宿泊・飲食」に至っては66.1%が3年以内に離職している。なぜ高卒の3人に2人が辞めてしまうのか――。

■中卒6割、高卒4割、大卒3割

厚生労働省は毎年10月、新規学卒者の離職状況を発表しています。

発表後、「新卒者の3割以上が、入社3年以内に退職」という話題がニュースとして取り上げられますが、調査結果をよく見てみると、この3割という数字が「大学卒業者の総平均」にすぎないことがわかります。

2016(平成28)年10月に発表された、2013年3月卒業者の離職状況を見てみましょう。

まずは、学歴別です。3年以内離職率が最も高いのは「中卒」の63.7%ですが、就職者数が少数なので、これは例外だと考えたほうがいいでしょう。次に高いのは「短大等」の41.7%、「高卒」は40.9%で、大卒は最も低い31.9%です。「3年で3割」というのは、学歴別にみると低い数字なのです。

事業所規模別にみると、さらに興味深いことがわかります。1000人以上の大企業では、大卒、高卒とも25%以下であるのに対して、30〜99人の中小企業では大卒は38.6%、高卒では47.7%に達しています。高卒者であっても、大企業に入社すれば、3年以内に離職するのは4人に1人。一方、中小企業に就職すれば2人に1人が離職してしまうのです。

最後は、業種別です。ここでは厚生労働省の発表から、離職率の高い3業種と、低い3業種を抜き出しています。

大卒・高卒ともに最も低いのは、「電気・ガス・熱供給・水道業」で、いずれも10%を下回っています。採用数が多い製造業でも大卒の離職率は18.7%。表中にはありませんが、高卒でも28.7%と低めの水準となっています。

一方、離職率が高いのは、大卒・高卒ともに、「宿泊・飲食サービス業」「生活関連サービス・娯楽業」「教育・学習支援業」の順番になっています。特に、「宿泊・飲食サービス業」に就職した高卒の離職率は66.1%で、実に3人に2人は3年以内に退職していることになります。

■新卒社員はどんな理由で退職するか

では、若者たちは、どのような理由で退職していくのでしょうか。

2017年2月に、労働政策研究・研修機構が発表した「若年者の離職状況と離職後のキャリア形成」(若年者の能力開発と職場への定着に関する調査)によると、以下のような理由が挙げられています。

男女ともに上位にあるのは「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかったため」「肉体的・精神的に健康を損ねたため」「人間関係がよくなかったため」といった理由です。

男女で大きく違う項目もあります。女性は「結婚・出産のため」を25.8%の人が選んでいますが、男性では1.9%にすぎません。一方、男性は「キャリアアップするため」が22.5%ですが、女性は12.4%にとどまります。

さらに男性では「自分がやりたい仕事とは異なる内容だったため」「希望する条件により合った仕事が他に見つかったため」「賃金の条件がよくなかったため」などを離職理由に挙げる傾向にあり、会社での出世や自己実現のための離職が多いようです。

学歴によっても離職理由に違いがあります。大卒男性は「自分がやりたい仕事とは異なる」や「肉体的・精神的に健康を損ねた」などの理由が上位にきますが、高卒男性は「やりたいこと」よりも「賃金」を理由に離職する傾向が高くなります。

■新卒3年以内に離職させない方法はあるか

このように学歴、会社規模別、業種によって大きな格差があることが分かります。典型的な例を考えれば、高卒で中小企業の宿泊・飲食サービス業、生活関連サービス・娯楽業、教育・学習支援業に新卒入社した場合、多くの人が、「労働時間」や「人間関係」などによる肉体的、精神的健康問題を理由に早期退職している、ということになるでしょうか。

こうした傾向は、企業側の立場からすれば、若者の定着率を高めるヒントになります。「賃金水準が低いから辞めてしまう」と考えるのは早計です。「賃金条件」は離職理由の最上位ではないからです。むしろ労働時間や組織風土の改善のほうが、定着率の向上につながる可能性があります。

これから就職活動を行う学生や親御さんにとっても、離職理由の上位の項目は参考になると思います。入社後のミスマッチを防ぐために、あらかじめこれらの項目にそって、転職クチコミ情報などをチェックしておくといいでしょう。「賃金条件」だけで会社を選ぶと、早期離職となってしまうかもしれません。

(新経営サービス 常務取締役 人事戦略研究所所長 山口 俊一)