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おそらく14億 専属デザイナーを4年雇った?

いきなり、下世話な話からで申し訳ない。

初めてこのロールス・ロイス・スウェプテイルを目にして思ったのは、このワンオフモデルは「おいくら?」ということだった。ジャーナリストとしては、その疑問を実際に確かめなくてはならない。

予想通り、ロールス・ロイスはそれに答えてくれなかったが、噂では£10,000,000(14億円)。たしかにすごいと思う。同時に馬鹿げているとも思う。

たとえば、ブガッティ・シロンなら5台、ダチア・サンデロなら1430台買えてしまうのだ。

とはいえ、この一品物のロールスがどんなクルマであるかをよく知れば、その金額があながち奇抜な数字ではないように思えるかもしれない。

「正直言って、個人的にこのクルマは趣味に合わない」

奇抜という言葉以外を用いて形容するのであれば、「法外」「仰々しい」「壮大」「堂々」「荘厳」。要は、並外れてすごいクルマなのだ。

ロールス・ロイスのデザイン・ディレクターであるガイルス・テイラーは、このスウェプテイルを「自動車界のオートクチュール」と表する。

これをオーダーした「ロールス・ロイス通の重要な顧客」は、クルマそのものの出来栄えはもちろん、そこに自己主張を込めることにも大いにこだわったわけだ。

正直言って、個人的にこのクルマは趣味に合わない。

たしかに華やかで、造り込みも精緻だ。ディテールにも驚くほど凝っているし、オーナーのお気に入りだという1970年物のドン・ペリニヨン専用の「収納装置」などという、浮世離れした仕掛けにも驚かされる。

しかし、早い話、自分がどうこう言えるレベルを数段飛び越えている。これは、われわれ、いや少なくとも筆者のような庶民の理解の範疇にあるクルマではない。

超リッチなひとびとの超ゼイタクな生活においてもその贅を極めた、高級ヨットやプライベートジェット、最高級レストランといった世界に属する物件だ。

もはやこれは、単なるワンオフの自動車ではなく、そこに技術やデザイン、ファッション、そして芸術の域までをも取り込んだものとなっている。それは、ロールス・ロイスの将来的な方向性の示唆でもある。

販売台数を追わずに、何を追う?

そう、スウェプテイルは、この名門ブランドが彼らのルーツであるコーチビルドへ回帰しようとする動きを、世に示している。

既存のプラットフォームをもとに、顧客の気まぐれに全て答えようというクルマ造りだ。

単なるクルマを買うにしてはあまりにも高価だが、その支払う金額は、ロールス・ロイスのデザイン・ディレクターを、自分のために4年も働かせて自分のためだけのクルマを造らせる対価なのだ。

そんなサービスに、あなたならいくら支払うだろうか。

日々あくせく働いて口に糊する身では想像だにできない世界だが、その金額を実際に支払えるという顧客が、この世には少なからずいるというのも事実だ。

そう、そんなひとびとは掃いて捨てるほどいるわけではないが、コーチビルドがビジネスとして成立するとロールスが見込む程度には存在するのである。

プレミアムなメーカーでさえ、販売台数の増加で利益を拡大しようという世の中にあって、ロールス・ロイスは違う方向性の戦略を立てようとしている。

その兆しが、今回のスウェプテイルなのだ。

奇抜で派手、そして極端な戦略ではあるが、当然ながら、たった1台のクルマでも、公には語れないほど巨額の資金が動く。

ロールス・ロイスが目指そうというのは、そういう世界なのである。