最近、北朝鮮と中国の両国が、国境地帯の警備を強化している。それにより、携帯電話を使って中国・韓国と通話する人や密輸業者からワイロを取り立てるなどしてきた保安員(警察)、保衛員(秘密警察)、国境警備隊員が厳しい生活を強いられている。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、毎年4月の特別警戒週間には国境の警備が強化されるが、今年は中央の命令で例年にも増して警備が厳しかった。新型の電波探知器に加えて赤外線探知機まで導入され、密輸も違法通話もいっそう困難になった。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、会寧(フェリョン)、穏城(オンソン)など道内の中朝国境地域でも、状況は同じだという。

そのせいで、保安員や保衛員は収入がほとんど途絶えてしまった。

彼らの正規の月給はせいぜい5000北朝鮮ウォン(約65円)。驚くべき薄給だが、住宅から食料品に至るまですべてが配給でもらえて、現金がさほど必要なかった1980年代以前の名残である。

現在、平均的な4人家族の1ヶ月の生活費は50万北朝鮮ウォン(約6500円)であり、つまり8年分の給料が1ヶ月で消えてしまう計算となる。そこで彼らは、職権を利用してワイロを受け取り、生活費の足しにしてきたのだ。また、上役から要求される上納金も、これが重要な財源になっていた。これは保安員や保衛員だけの話ではなく、北朝鮮で職権を行使する立場にある人なら誰でもすることだ。

収入の激減に焦った彼らは、密輸業者や脱北者家族にこんな提案をしている。

「国境警備が強化されたが、あくまでも形だけのものだ。外国と連絡を取りたければ、自分たちが保護する。取り締まられることなく存分に話ができる」

もちろん、見返りとしてワイロを要求するのである。ワイロの金額は、両江道のデイリーNK内部情報筋によると、通話相手が中国なら2000元(約3万2000円)、韓国なら5000元(約8万円)が最近の相場だ。

中には、脱北を持ちかける保安員や保衛員もいる。成功させれば大儲けできるからだ。 米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)の昨年6月の報道によると、北朝鮮の保安員、保衛員、国境警備隊員が要求する脱北幇助のワイロは3000ドル(約33万円)だ。

金正恩党委員長は最近、絶大な権力を誇ってきた国家保衛省を抑えつけにかかっている。トップに君臨してきた金元弘(キム・ウォノン)氏を解任し、複数の幹部を処刑した。さらに「職権を乱用して金儲けをするな」、「住民に対する暴行、拷問などの人権侵害をやめよ」などといった指示を出した。

国境統制の強化は、保衛省が持つ国境地帯のワイロ利権を奪い取るためのものと言えよう。しかし、密輸は北部国境地域の経済の柱である。保衛省の利権を奪うためにそれを潰せば、地域経済は深刻な打撃を受け、社会不安に陥る危険性もある。