オバマ大統領任期最後の日の、ホワイトハウス。(写真=AFLO)

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アメリカ大統領に就任したドナルド・トランプさんについて、引き続きさまざまな意見が交わされている。

確かに、トランプさんの発言は時に危うい。こんなことで大丈夫だろうかと思うこともあるし、アメリカだけでなく、世界の未来は大丈夫だろうかと心配になることもある。一方で、以下のような考え方もできると思う。

すなわち、個人の資質や、その動向で左右されないほどに、現代の文明はシステムとして強靭になっているのだと。

インターネットに象徴される情報ネットワークの発達や、人工知能の進化によって、世界の成り立ちはより安定化している。リーダーの役割は大切だが、それよりも、システムをどう設計するかのほうが重要なのである。

私の友人で、マネジメントや経営者の立場にいる人たちを見ていても、うまくいっている組織ほど、個人の資質では左右されない体制を確立している。その分、トップは自由闊達にものを考えることができるようになっている。

ひとつひとつの経営判断について、トップの決断が影響を与えるような組織は、逆に危ない。むしろ、マネジメントが動かなくてもいわば「自動運転」モードで回っていくようなかたちがなければ、その組織は繁栄しない。

トランプさんは確かにいろいろと問題がある方だが、そのトランプさんでも大統領ができるくらいに国家としてのアメリカというシステムが成熟していると考えれば、そこには興味深い論点が見えてくるように思う。

最近お話しする機会があったある社長さんが、こうおっしゃっていた。イノベーションにはさまざまな側面があるが、最大のイノベーションは、人の働き方にあると。

組織がどのように成り立っていて、その中で人々がどのように働いているかという、いわゆる「組織文化」は、実は真似をしようとしてもなかなかできない。すべてを公開して、この通りですと披露しても、模倣は難しい。

だから、その社長さんは、著書などを通してノウハウを公開されているのだという。会社の業績も右肩上がりで、世間から注目されている存在であるが、言われる通り、その通り模倣することはなかなか難しそうである。

アメリカという国を考えるときに、トランプさんという一人の属性で左右されるほど、システムが脆弱ではないというポイントが重要である。数々のイノベーションを生み出し、多様性のるつぼとも言えるアメリカ。本当に大切なのは、そのようなシステムとしての文化であろう。

一人のリーダーの資質によって組織が変えられると期待するのは現実的ではない。もちろん、リーダーの役割は大切であるが、より肝心なのは、誰がリーダーになっても揺るがないシステムとしての成り立ちであろう。

日本は、システムとして大丈夫か。アメリカと比較して、どこが優れていて、何が足りないのか。そのような冷静な議論が大切であるように思われる。

トランプさんの個人的な資質をあれこれと論じるのは確かに面白いが、かえって問題の本質から目を逸してしまう結果にもなりかねない。

優れたリーダーとは、自分が退任しても大丈夫なように組織文化を育むことができる人だろう。持続可能なシステム思考こそが求められているのである。

(茂木健一郎 写真=AFLO)