安倍政権が進める働き方改革は成果をあげられるか?(写真はイメージ)


物価が上昇しない根本的な理由

 安倍内閣が力を入れている政策課題に、働き方改革がある。同一労働同一賃金、正社員だけではなく契約社員にもボーナス支給、過労死の根絶などがその内容となっている。大賛成である。

 日本銀行が異次元の金融緩和を続け、マイナス金利という異常な金利政策を導入しても2%の物価上昇という目標は、まったく見通せなくなっている。

 内閣官房参与としてアベノミクスを理論面から支える経済学者の浜田宏一・エール大名誉教授でさえ次のように語り、事実上、アベノミクスの誤りを認めるまでに至っている。

「私がかつて『デフレは(通貨供給量の少なさに起因する)マネタリーな現象だ』と主張していたのは事実で、学者として以前言っていたことと考えが変わったことは認めなければならない」

「金利がゼロに近くては量的緩和は効かなくなるし、マイナス金利を深掘りすると金融機関のバランスシートを損ねる。今後は減税も含めた財政の拡大が必要だ。もちろん、ただ歳出を増やすのではなく何に使うかは考えないといけない」

 なぜ物価が上昇しないのか、その理由は簡単なはずだ。消費が低迷しているからである。なぜ消費が低迷するのか。昨年、実質賃金は伸びたが、それまでは4年連続でマイナスであった。当然、将来不安もあり、少々上がったとしても財布のひもは簡単には緩まないということだ。

 その背景には、依然として契約社員、派遣労働、アルバイトなど不安定雇用が多いこと、少子高齢化の進展で年金制度への信頼感が失われていることなどもあろう。

ドミノ・ピザ」の大騒動が物語るもの

 昨年のクリスマスイブに、全国展開している宅配ピザ店「ドミノ・ピザ」で大騒動が発生した。私の自宅の近所にも同店があるが、持ち帰りの場合には1枚を無料で進呈するというサービスが常時行われている。

 そのためもあったのだろう。予約が殺到し、店舗によっては1時間も待たされ、その行列の整理のために警察官まで動員するという騒ぎになった。あまりの待ち時間の長さに、客が怒り出し、店員が泣いてしまう店舗もあったという。同社は、「多くのお客様に配達遅延や店頭受け渡し遅延でご迷惑をおかけいたしました。今後よりよいサービスを提供できるように、スタッフ一同で取り組んでまいります。このたびは大変申し訳ございませんでした」というお詫びを出す始末であった。

 このサービスというのは、要するに安売りということだ。それに多くの人が飛びついた。それが同社の想定以上だったということである。同社を責めるつもりはまったくない。それほど誰もが家計を考え、より安いものを欲しているということだ。ピザ店は他にもある。それでも1時間、あるいはそれ以上待って同社のピザを求めたのだ。国民の暮らしの現状がよく表れているのではないか。

契約社員にもボーナスを

 私の知り合いに、契約社員として同じ会社でもう10年も働いている人がいる。働き方は、正社員とまったく変わりがない。各種の社会保険にも加入している。決定的な違いは、ボーナスが支給されないということだ。

 会社勤めの人間にとって、何が一番嬉しいかと言えば、ボーナスである。若い人など、月々の給与はそう高くない。というより、食っていくのが精いっぱいというものだ。それは私がサラリーマンだった半世紀前と同じである。ボーナスがあるからスーツも買えたし、正月に里帰りもできた。

 正社員と同じように働いても、そのボーナスが出ないというのは、あまりにも可哀想である。退職金もない。多くのサラリーマンは、退職金があるからマイホームも購入できるのだ。契約社員だと、マイホームの夢もあきらめなければならない。結婚を考えることもできなくなってしまうだろう。

 そういう契約社員が、全国には約300万人も存在している。パートやアルバイトは、もっと多い。同一労働同一賃金と合わせて、ボーナス支給の範囲を大いに拡大してほしいと願う。

目の前で部下に威張り散らす人

 厚生労働省が12月26日、「『過労死等ゼロ』緊急対策」を打ち出した。電通の新入社員高橋まつりさんが過労自殺した問題を受けての対策である。

 高橋さんの場合、実際の残業時間が100時間を超えていたにもかかわらず、労使協定で定められた上限の月70時間ぎりぎりで自己申告させられていた。上司によるパワハラが自殺の一因になったという指摘もある。

「過労死」という言葉は、1988年、全国の弁護士が連携して、「過労死110番」を立ち上げてから使われるようになった。それからすでに30年近くが経っている。だが過労死が減少するどころか、長時間労働もパワハラもますますひどいものになっている。最近も、飲食店で働くアルバイトの学生が、飲食店の店員に、毎日聞くに堪えないような暴言を浴びせられ、暴力までふるわれていたことが判明し、その店員が逮捕されるという事件もあった。

 違法な長時間労働ももちろん悪質だが、パワハラはそれに劣らず悪質である。高橋まつりさんは、母子家庭で育ち、東京大学を卒業して電通に入社している。「東大卒」というプレッシャーもあっただろうし、そこを嫌味たっぷりについてくる上司もいたのではないか。長時間労働とパワハラによって、心身ともに限界に達していたのだと思う。パワハラをした上司は、自分の息子や娘が同じ目あったらどう思うのかじっくり胸に手を当てて考えてもらいたい。

 私もいろいろな企業の人と付き合いがあるが、私の前で「おい」とか「お前」とかいう上司がいる。正直言って、側にいても嫌な気分になる。だが、これを面白がる人間もいるからやりきれない。

 企業は、有益な人材を生かすためにも、真剣にパワハラ対策に乗り出すべきだし、発見すれば厳罰に処すという企業体質を目指すべきであろう。

ある議員の事務所にいた横暴な秘書

 パワハラは企業だけではない。政治家の事務所でもよくみられる光景である。地元事務所で労基法違反やパワハラを週刊誌に暴露された現役の大臣もいる。自民党だけではない。民主党にもそういう事務所があった。

 現在は落選しているが、以前、民主党の衆議院議員の事務所を訪ねた際、その事務所の実質的な筆頭秘書や議員夫人の横暴さにあきれ果てたことがある。2人が揃いも揃って、政治家秘書になったばかりの若者を馬鹿にするのである。筆頭秘書など、応接室にふんぞり返って煙草をプカプカふかしているだけ。そして、若手の秘書に自分の煙草を買いに行かせるのである。それも「おい! 煙草勝ってこい」という調子なのだ。

 ところが、私が事務所を訪ねていくと、まさに揉み手で「先生、先生」というのである。反吐が出るとは、このことだと思った。“強きにひれ伏し、弱気をいじめる”というのが、こういう人物の特徴である。しかも、こういう輩に限って、私がいなくなれば私の悪口を散々言っているのだろうということも容易に推察できたものだ。

 こんな秘書や夫人を制御できない人物が、次の衆院選挙で落選したのは当然であろう。付け加えれば、その人物は昨年の参院選挙にも出馬したが、見事に落選した。

 ブラック企業などという言葉が生まれたのも、長時間の過酷労働やパワハラが以前よりもさらに横行しているからだ。2017年は、「過労死」という言葉も「ブラック企業」という言葉も死語になるような年になってほしいものである。

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筆者:筆坂 秀世