コンビニおにぎり「セブン」の旨さは“意識高い系”の賜物

写真拡大

■セブンはドラッカーの教えを守れるか?

ピーター・ドラッカーは経営にとっての大きな仕事は「イノベーション」と「マーケティング」だと言います。

「イノベーション」は事業そのものや流通、生産プロセスなどを「革新」することです。

一方、「マーケティング」は、自社の強みを活かせるお客さまを特定し、お客さまが求める商品やサービスを提供することですが、キーポイントは「お客さま第一」ということをどれだけ「徹底」できるかだと私は考えています。

セブン&アイホールディングスは今年に入りトップが交代しましたが、同社の動きを見ていると、この「イノベーション」と「マーケティング」についてとても興味深いことがあります。

まず、「イノベーション」についてですが、こちらは、新聞などでも大きく報道されていますが、思い切った改革を行っています。イトーヨーカ堂を中心とするスーパー部門はこのところ不振ですが、不採算店を大幅に削減することを決めています。また、多くの人を驚かせたのは、やはり不振が続く西武、そごうの百貨店部門で、関西地区の3店舗をライバルの阪神、阪急百貨店を有するH2Oに譲渡するとともに資本提携を結ぶと発表したことです。好調のセブン−イレブンのコンビニ事業でもスクラップ・アンド・ビルトを徹底するとのことです。

そういった点においては、経営者が変わったことで、過去のしがらみを断ち、収益力強化に動いていることは、結果はともあれ、とても評価できることだと思います。

では、「マーケティング」はどうでしょうか。これは、これから新社長の手腕が評価されることとなるでしょう。先にも述べたように、マーケティングの本質は、お客さまが求める商品やサービスを提供することですが、そのためには「お客さま第一」をどこまで徹底できるかにかかっているからです。

■1店舗1日平均売上 セブン65万円vs.他社50万円台

コンビニ業界では、セブン−イレブンがダントツの王者です。セブン&アイのグループ全体での約3500億円の利益の大部分もセブン−イレブンが稼いでいます。それはセブン−イレブンの収益力が同業他社に比べて極めて高いからです。

ご存知の方も多いと思いますが、約1万9000店舗あるセブン−イレブンの1店舗あたり、1日あたりの売上げは65万円程度であるのに対し、ライバルのローソンやファミリーマートは50万円台半ばです。毎日、各店での平均売上げが2割以上違うのです。この状況はもうずいぶん長い間続いています。

コンビニ業界では「品ぞろえ、鮮度、クリーンリネス(店の美しさ)、フレンドリーサービス」がキーポイントだと言われています。各社もそれらに力を入れていますが、その徹底の差がセブン−イレブンと他社とでは違うと私は感じています。

おにぎりひとつのおいしさが微妙ですが違うのです。それは徹底の差です。戦略的にはほぼ同じでも、徹底の差が商品やサービスに表れ、それが大きな収益力の差となっていると私は思っているのです。

その徹底をさせられるかどうかは、意識の問題であることが多いのです。

私は、「コミュニケーション」は「意味」と「意識」の両方が大切だとよく講演などで話しますが、セブン−イレブンの場合、社員やフランチャイジーとの「意識」の共有がやはり他社よりも優れているのではないかと思っています。

同社では、最近まで、毎週、全国からスーパーバイザーを東京の本部に集めて会議をしていたと言います。「○○をして欲しい」「△△という商品を強化する」と言ったような「意味」を伝えるだけなら、メールなどでも伝えることは可能ですが、「意識」を伝えるには、面と向かって話をするのが一番です。

同社では、最近では会議を2週間に1度にしているようですが、膨大な費用と時間をかけて意識の共有を行ってきたのです。

意識の共有には、もうひとつ大切な要素があります。それは、伝達する人の問題です。人に話すことで意識をうまく伝えられる人とそうでない人がいるということです。

鈴木敏文さんというカリスマ経営者が去った今、以前と同じように意識を伝え続けることができるかが焦点です。それには、先に述べた1店舗あたり1日あたりの売上がこのまま他社と大きく差をつけたままで推移するかどうかに注目です。

いずれにしても、大きなイノベーションに踏み出したセブン&アイが、マーケティングに関しても今まで通り徹底できるかにどうか注目ですね。

(経営コンサルタント 小宮一慶=文)