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●今世紀末、東京都の最高気温は43度に達する可能性
NHKは9月4日、「MEGA CRISIS 巨大危機〜脅威と闘う者たち〜 第1集 加速する異常気象との闘い」と題したNHKスペシャルを放映。地球温暖化が招くさまざまな異常気象の実態と、その危機を未然に防ごうとする人たちの姿を紹介した。

番組内では、8月に日本に大きな被害をもたらした台風10号も地球温暖化との関連性があると指摘。放映後には、私たちの日常生活にすでにさまざまな形で害を与えている地球温暖化の影響を目の当たりにした視聴者から、恐怖に近い声がインターネット上に多くあがっていた。

○発達した台風は大量の水蒸気によるもの

番組では冒頭、8月末に記録的な大雨をもたらし、東北地方の美しい景観に大きな爪痕を残した台風10号の映像を紹介。甚大な被害をもたらしたこの台風にも、実は地球温暖化が関連していると考えられている。気温が上がると海水温度も上昇するが、海水温度が高くなると大量の水蒸気が発生する。水蒸気が多ければ多いほど、台風が発達しやすくなる傾向にあるからだ。

2016年8月中旬の日本近海の海水温度は、平年に比べて1〜5度ほど高い場所が多かったという。そこに台風10号が経路を重ね、気温の高い日本の南の海上で急速に勢力を増し、強い勢力のまま東北の太平洋側に上陸した。そのほか、北海道を襲った台風7号や11号も、大量の水蒸気を取り込んで勢力を維持したまま上陸したと考えられている。

実際、台風の勢力が最も強くなる「最強地点」と呼ばれるエリアは、ここ30年間で150kmも北上しており、徐々に日本に近づいてきているとのこと。温暖化が進むと、さらに北上するとみられている。

○一日あたりの総雨量が300mmになる場所が出てくる?

では、実際にどれぐらいのスピードで地球温暖化は進んでいるのだろうか。世界の平均気温は、2000年ごろから上昇が止まったかにみえたが、2年ほど前から急上昇して2016年に過去最高気温を記録。いったんは停滞しかけたが、気温上昇が再加速した可能性があるとされている。

気象庁の異常気象分析検討会の会長・木本昌秀氏は、「地球温暖化がより本格化するのではないかと考えています。すでにその兆候をわれわれは体験していると言って間違いないと思います」と危機感を抱いている。

木本氏が21世紀末の最悪のケースを想定したシミュレーションを実施したところ、地域ごとのリスクが具体的に判明した。その衝撃は、私たちの予想をはるかに上回るものと言っていいだろう。

産業革命以前に比べ、今世紀末に平均気温が4度上昇したとの仮定でシミュレーションを行ったところ、東京都の最高気温は43・0度と、2016年(現時点まで)よりも5度以上も上昇するとの結果が得られた。大阪府や宮城県(仙台市)でも40度を超え、愛知県(名古屋市)は44・5度に達する恐れもあるという。東京都の最大雨量は1日あたり100mm程度だったのが、310mmまで増加。福岡県でも290mm、北海道(札幌市)で190mmになるという。

45度近い気温の世界では、「炎天下に10分、15分と立っていると命の危険を感じるでしょうね」と木本氏。これだけでも十分な脅威だが、「産業革命以前よりも平均気温が4度上昇」との試算には、ある要因が抜け落ちている。この4度という数字は、化石燃料をこのまま燃やし続けた場合による推定値だが、ある現象がこの推定値を押し上げる可能性があるかもしれないのだ。

●日本人を危険にさらすスーパーセルとは
番組の舞台はアメリカ・アラスカの地へと移る。北極圏で進行している、温暖化を加速させる可能性がある現象とは永久凍土の氷解だ。今、アラスカの各地で永久凍土が溶け出しているという。

研究プロジェクトのメンバーであるアラスカ大学の岩花剛氏は、永久凍土からある物質が溶け出すことを懸念している。それは、温室効果をもたらす気体・メタン。永久凍土内に枯れ葉などが閉じ込められ、長い時間をかけて分解されたメタンが、氷が溶けると共に大気中に放出されることで温暖化が加速する可能性があるのだ。

○氷の中から大気中の1万倍の濃度のメタン

温暖化は、地球が太陽から受けた熱が温室効果ガスによって閉じ込められることで起きる。二酸化炭素など、現在排出されている温室効果ガスのうち、メタンの割合は16%だ。今後この数値がどう変化するかは予測不可能で、永久凍土に含まれるメタンは地球温暖化の予測に含まれてない。

だが、北極圏ではメタンの放出が次々に確認されている。シベリアの大地にぽっかりと大きく穴が開いたクレーターが映し出されたが、これは地下のメタンが一気に噴出した痕跡とされているとのこと。

メタンの温室効果は二酸化炭素の28倍で、永久凍土は北半球のおよそ4分の1を占める。今度どれほどのメタンが放出され、どれだけ温暖化に影響を与えるのか――。その答えの糸口を探るべく、岩花氏は日々、まだ溶けていないアラスカの地下深くの氷の層を調べている。

これまでにアラスカの10カ所以上で氷をチェックしてきたが、中には大気中の1万倍の濃度のメタンを持つ氷の層も見つかっているという。「地球全体の気候変動を予測するにあたってパズルの一部分が欠けている」と話す岩花氏は、今後3年かけて温暖化への影響を見ていくそうで、さらなるサンプル採取に励む。

このメタンに示されるように、北極海の温暖化は既に後戻りできないところまで来ている。続いて、北極海を覆う氷は温暖化で溶け出しているが、その氷の減少がさらなる悪循環を招いている現状が紹介された。

北極海に浮かぶ白い氷は、太陽光を反射させる役割を持つ。その一部が溶けると、太陽光が反射されずに熱が海に吸収され、海水温度が高くなる。その影響で周辺の気温が上昇し、水蒸気が発生すると次なる異変を生む。それは巨大低気圧だ。

北極海の様子を映したデータでは、風が強まっている場所で氷が減少していることが確認された。巨大低気圧が起こした風で氷が砕かれ、さらに気温が高まりやすくなる。そして高まった気温が次なる巨大低気圧を招く――。まさに負の連鎖と言えるだろう。地球の今後の異常事態を左右するクライシス(危機)は、今この瞬間も北極で起きているのだ。

○都市を水没させるほどの積乱雲

温暖化による影響の視点を、世界から日本に戻そう。深刻な温暖化が日本にもたらす影響として懸念されているのは、巨大積乱雲(スーパーセル)だという。短時間で急速に発達する積乱雲の幅は通常、数キロから十数キロと考えられている。ただ、温暖化で水蒸気が大量に発生すると、その幅が数十キロから100キロまで及ぶスーパーセルになると考えられている。

気象庁 気象研究所室長の加藤輝之氏は、温暖化が進んだ今世紀後半を想定し、スーパーセルの発生頻度を推計。これまでほとんど発生していなかった北海道で3倍、東北で2倍と比較的高い頻度で発生するようになるのではないかと考えている。

スーパーセルによる被害をシミュレーションしたところ、1時間に100mm超の雨が2時間以上続いた場合、マンホールから水が噴出。あふれた水は地下鉄に流れ込むなどし、都市を完全に水没させるという。

●雷が間接的に人の命を奪うことの意味
スーパーセルのもう一つの脅威は雷。温暖化で将来、現在の1・5倍の確率で雷が落ちることになるとも報告されており、実際に日本でも同時多発的に都市部で雷が起きるケースが増えている。中には、4時間で3,000回も確認されたという地域も。雷が増えて今後、同じ建物に何度も落ちるようならば、避雷針で防ぎきれなくなることも考えられると指摘されている。

スーパーセルと雷の組み合わせは、私たちのインフラを破壊するだけではなく、ビジネスにおける生命線にも悪影響を及ぼす可能性がある。その存在とは、パソコンなどの電子機器だ。

雷が落ちると、その周りに強い電磁波が発生。周囲の電気ケーブルに異常な電流が流れる。この電流は「雷サージ」と呼ばれているが、雷サージがデータが保存されているサーバーを破壊、電子機器を使用不能にさせるというのだ。

万一、「雷サージクラッシュ」が病院で発生した場合、モニターやナースコールなどが使用できないケースも想定され、雷が間接的に人の命を奪うことにつながりかねないというわけだ。

○大自然に科学で挑む人間たち

ただ、大自然の脅威を前に、科学の力をもってして立ち向かおうとしている人たちもいる。その一例が、理化学研究所の三好建正氏を中心とした国際プロジェクトチームだ。ピンポイントな予測を用いて、巨大な積乱雲の発生を事前に察知することで防災につなげようと日々励んでいる。

現在の天気予報は1時間に1回、2km四方のエリアごとで行い、そのエリアごとで雨や晴れといった具合に予測する。だが、初期の段階の積乱雲はこの2km四方の中で急速に発達するため、現時点では予測が難しいとされている。

そこで三好氏は、100m四方の小さな範囲におけるより短い間隔での観測に挑戦している。雲の状態を詳細に調べるため、フェーズドアレイレーダーと呼ばれるレーダーを用い、雲全体の様子を一度に把握。詳細な雲データを基に、数十分後にどのように変化するかを計算している。

この手法によって、積乱雲発達前から豪雨を予測できる可能性が出てくる。10年後の実用化を目指している三好氏は、「進んできている温暖化に適応していくことも非常に重要です。局地的な豪雨が起こりやすくなっていることを考えますと、防災のあり方を大きく変えるきっかけになるのでは」と話した。

○いかにして「自分ごと」と認識するか

私たちの日常に、既に台風や局地的豪雨という形で影響を及ぼしつつある地球温暖化。CGや実際の映像でその脅威を目の当たりにしたことで、放映後には「テロよりもこっちの方が恐ろしい」「NHKスペシャルの予測がすさまじい」「現実なのこれ? という感じ」といった視聴者からの恐怖の声がインターネット上に数多く見られた。

一方で、「環境問題に対する認識が低すぎる。もっと資源を大切にしないと」「私たちは本当に待ったなしの状況にいる」などのように、既に温暖化が進んでいる現状を再認識し、その状況を変えていくことの必要性を訴えている意見も多かった。

ともすれば、「地球温暖化」というフレーズは普段の生活から実感しにくく、その影響が及ぶとしても、自分が存在しない数十年後、数百年後というイメージがつきまとうため、「自分には関係ない」と考える人も少なくないだろう。

ただ、実際問題として地球の"破綻"は既に始まっており、危機は今すぐそこにあるのが現実だと言えるだろう。自宅で省エネにするなど、個人レベルで今日から実践できる温暖化対策は少なくない。自分が生きている間、もしくは自分の子が生きている時代にこの「メガクライシス(巨大危機)」がやってくるとしたら、私たちの日常の行動は変革するのだろうか。

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