DeNAとの3連戦で8安打7打点、内角高めを「こなせるようになってきた」

 阪神のドラフト1位ルーキー・高山俊外野手が、再び上昇気流に乗っている。今月23?25日の敵地DeNA戦では、3試合で計13打数8安打7打点と大暴れ。24、24日と2試合連続の3安打で、1998年の坪井智哉(現DeNA打撃コーチ)を抜き、球団新人最多記録となるシーズン12度目の猛打賞をマーク。25日は自身初の満塁ホームランを含む2安打6打点と活躍して、3タテに大きく貢献した。

 高山は今季、鳴り物入りで阪神に入団し、開幕直後は新人離れした活躍を続けた。しかし、プロのバッテリーの攻めに苦しむことも多くなり、徐々に成績が低下。7月上旬にはベンチスタートが続く日々もあった。それでも、後半戦が進むにつれ、調子は再び上昇中。確実にプロの“壁”を乗り越えようとしている。阪神はDeNA戦後に5連敗を喫し、3位と3ゲーム差の5位に転落したものの、クライマックスシリーズ(CS)進出の可能性は十分。この正念場で、高山がキーマンの1人となりそうだ。

 苦しんでいた大物ルーキーは、なぜ一時の不調を乗り越え、再び輝きを取り戻したのか。ヤクルト、日本ハム、阪神、横浜の4球団で捕手としてプレーした野球解説者の野口寿浩氏は「苦手」を克服したことで、状況が変わってきたと指摘する。

「高山は元々(阪神に)入ってきた時から、ミート力というのはちょっと秀でたものを持っていました。遠くに飛ばす力もそれなりに持っています。唯一、苦しんできたのがインコースの速い球。インコースをがんがん攻められて打てなくなった。さらに、落ちる球まで打てなくなってきたわけです。すべてに影響が出てしまっていました。

 ただ、(胸元に)入られていたものを、しっかりこなせるようになってきた。それが出来始めたという自分の中の感覚があるからでしょうけど、他のコースに来るボールも楽に打てるようになってきました。(内角高めが)まだ嫌なのでしょうけど、前と比べたら怖さは減ってきたから、余裕が出てきました。それで、他のところ(コース)にもいい影響が出始めたのかなと。元々持っているものを、また発揮できてきたという感じじゃないでしょうか」

本来は「インコースなんて何年も苦労してもおかしくない」

 元捕手の野口氏は、相手バッテリーの目線で見て、高山の弱点がなくなったと分析する。「ここを攻めておけば…」というポイントが、なくなったというのだ。つまり、高山が相手バッテリーよりも精神的に優位に立ち、“見下ろす”ような状況も生まれてきているという。

「例えば、そこ(内角高め)がどん詰まりのポップフライとか内野ゴロになっていたのが、詰まってもヒットになったりとか、いい当たりでファウルになったりし始めました。相手バッテリーは『あれちょっと待てよ。ちょっと甘く入ったら怖いぞ』と感じるようになったはずです。そうなると、無闇やたらにはいけなくなります。つまり、他の球を投げる。でも、そっちを打つのは元々うまいから、高山のペースになりつつある。少し上から目線じゃないけど、そういう立場で対戦できているように見えます」

 金本監督も入団当初から、高山の打撃の完成度の高さを絶賛していた。それだけ、プロ入り前から技術は高いものを持っていた。ただ、内角高めに弱点があったため、指揮官もそれを何とか克服させようとしてきたようだ。

「金本監督も唯一『インコースの捌き方』というのを言ってきていました。この間も、横浜スタジアムでのバッティング練習の時にちょうど高山が次のバッターという時で、私は片岡打撃コーチと話をしていたのですが、そのすぐ横で金本監督がずっと高山に話をしていました。『インコースはこう(打つん)だ』というようなことを。それで、その試合でヒットを3本打った。1本は久保康のインコース高めをフェンス直撃のツーベースにした先制打です。

 形はどうあれ、ああいうふうに結果を出されちゃうと、相手は考えますよね。しかも、フェンスの真ん中よりも上にぶち当てられてしまっているわけだから。インコースなんて何年も苦労してもおかしくない。いつまでたっても打てないという選手は多いですから、高山の吸収のスピードは驚異的ですよね」

勝負強さは光るが「もう少しホームランの数字が伸びれば」

 一方で、野口氏が高山の能力の割に物足りないと見ているのは、本塁打の数だという。アベレージヒッターでありながら、パンチ力もあるだけに、現時点での5本という数字は確かに少なく映る。だが、勝負強さは新人離れしている。得点圏打率はリーグトップの.379を誇る。

「本人としても金本監督としても、もう少しホームランの数字が伸びれば、という感じだとは思います。金本さんは、20?30発は打てる能力を持っていると思ってるはずですから。ただ、得点圏打率が高いところはすごいですね。ルーキーですから。それだけに、持ってる能力からしたらホームラン5本は少ない。あの安打数から考えても本塁打は少ないですよね。金本監督はそこは不満だろうな、と。当然、トータルで見たら1年間よくなっているよ、という感じだとは思いますけどね」

 持っている能力が高く、それを1年目から見せつけているだけに、周囲の要求も高くなる。新人王も期待される男は、どんな成績でシーズンを終えるのか。チームをCS進出へと押し上げることができるのか。そして、来年以降はホームラン増など更なる進化を遂げられるのか。1つずつ壁を乗り越えながら、スター選手への階段を着実に上がっていってもらいたいところだ。