オンデマンド化する「未来の賃貸住宅」──ヴェネチアビエンナーレ建築展レポート
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今年のヴェネチアビエンナーレ建築展のイギリス館「Home Economics」の5つのインスタレーションのうちのひとつ、「Months」は称賛に値するものだった。
「Months」が提案するのは、賃料だけでなく、掃除や料理、洗濯、メインテナンス、Wi-Fiなど、すべての費用が含まれた「月単位の賃貸住宅」だ。「手頃な共同住宅をつくりたかったのです」と、ピエール・ヴィットリオ・アウレリは話す。アウレリは、このインスタレーションを手がけたブリュッセルの建築事務所Dogmaのパートナーだ。
部屋の中央にあるのは、青いパネルが貼られたプライヴェートな2階建の“コア”。ここは寝たり洗濯したり、たまに料理をするための場所としてデザインされている。その周りには吹き抜けゾーンがある。部屋の大部分をこのゾーンが占めており、仕事やコミュニケーションのための共有スペースとなっている。住人はそこで、空間だけでなくサーヴィスもシェアする。
アウレリによると、これはかつてアメリカで広く普及し、第二次大戦後に郊外生活の流行に取って代わられた「ボーディングハウス」から着想を得たものだ。昔はニューヨークのChelsea Hotelのようなボーディングハウスがちょうどそのような働きをしていたが、家族の暮らしには不向きだという烙印を押されたのだと彼は付け加えた。
1時間、1日、1年
このインスタレーションは、イギリス館の簡素なヴェネチアンパラッツォ内の、互いにつながった5部屋のうちの1つだ。
「Home Economics」内にあるその他4つのインスタレーションは、「Months」同様に時間の単位にちなんで名付けられ、デザインされている。
例えば「Hours」は、一度に数時間以内しか滞在しない場合の共有住宅環境の在り方を想像している。シンプルで、その構造(ユニット式の寝台兼用長イス)と部屋の機能 (共有タンス)は本質的に一時的なものだ。
「Days」は可搬性がもつポテンシャルを探究している。ここで提案されているのは、風変わりな新しいタイプの個人スペースだ。それはWi-fiがつながった2つの膨らませるタイプの球体で、内部をよじ登ったり、新たな場所へ転がっていったりすることができる。このモデルは、ネット環境さえあれば人はどこでも住むことができるということを示唆している。
「Years」は、最も非建築的なインスタレーションだ。シェル構造になっており、屋根、水道、電気、トイレ、洗面器だけを備えている。いずれも質実剛健なつくりだ。
移動が多い現代人にあった家
「住宅が時間という視点を通して探究されたのは、これが初めてだということにわたしたちは驚きました」とイギリス館の3人のキュレーターの1人であるジャック・セルフは言う。「かつて人々は生涯を通して1つの場所で働き、1つの家で暮らしていました。しかし、高度に流動的で、しばしば雇用が不安定で常に引っ越しをしている一般庶民にとっては、そのようなモデルはもはや役に立ちません」
「Decades」の立案者であるロンドンの建築事務所Hesselbrandは、各インスタレーションの建築とデザインの監督を担当した。「わたしたちのゴールは、アイデアを説明するための没入型の環境をつくることでした」と、空間がいかに多くの複雑な文章よりも雄弁かを指摘しながらHesselbrandの共同創始者マグヌス・カッセルブラントは言った。
この共同空間が、遍在するシェアリングエコノミーを想起させるからといって、これらをAirbnbの模倣版とは思わないでほしい。アウレリは、「Months」を金儲けの方法ではなく、共同住宅の理想主義的な実験だととらえる方が好きだと言う。
「シェアリングエコノミーは、あらゆるものからさらに金を生み出すためのバズワードです」と彼は言う。
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