「暗い道に気をつけなさい」では間違い 、子どもが襲われる本当に危険な場所とは

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「暗い道や人通りの少ない道に気をつけなさい」
「知らない人について行ったらダメよ」
「なにかあったら防犯ブザーを鳴らしてね」

外に出かける子供に当たり前のように言う一言。しかしこれ、『子どもは「この場所」で襲われる』によると、全部間違いなのだそう。いやいや、知らない人も暗い道もダメじゃないの!?


「知っている人」「明るい場所」も危ない


「暗い道や人通りの少ない道に気をつけなさい」は一見正しそうだけど、この言葉を鵜呑みにした子供は「明るい道や人通りの多い道は安全」と思い込む。しかし、子供を狙う犯罪者は、ターゲットを見定めるために暗い場所ではなく明るい場所を、人がいない場所より人通りが多い場所を選ぶ。逆の場合も危険なのだ。

「知らない人について行ったらダメよ」は「知らない人」の定義が曖昧。子供にとっては、公園でちょっと言葉を交わした人はもう「知っている人」になってしまう。事前に当り障りのない会話で知り合いになっておき、後日犯行に及ぶケースがある。

「なにかあったら防犯ブザーを鳴らしてね」と、防犯ブザーに頼ってしまうのも危うい。めったに鳴らさない防犯ブザーは、故障や電池切れに気付きにくい。鳴ったとしても、警報音と受け取られなかったり、いたずらと思われたりする。警報音で犯罪者を刺激してしまい、危害を加えられる可能性だってある。

これらの言葉をよく見ると、子供に「怪しい人」や「危機の対処」を判断させていることに気がつく。例外があることや曖昧なことまで、子供に判断させるのは難しい。確かに、うちの息子なんて何度注意してもソファーで跳びはねてるのに、そんな難しい注意を聞いてくれるとも思えないしなぁ……。

「入りやすく」「見えにくい」場所が危ない


『子どもは「この場所」で襲われる』の著者・小宮信夫はケンブリッジ大学大学院で犯罪学を学んだ防犯のスペシャリスト。犯罪から身を守るには、「危ない人」を見分けるのではなく、「危ない場所」を避けるべきだと説く。交通安全教育では「不審なドライバーに気をつけろ」とは言わない。交通量が多い道路や、過去に事故が起きた交差点など「危ない場所」に注目する。それと同じ。

危ない場所を見分けるキーワードは明確だ。「入りやすく」「見えにくい」場所が危ない。

例えば、木々に囲まれている公園は、犯罪者にとって出入りがしやすく、犯罪が目撃されにくい。反対に、フェンスに囲まれた公園は出入りする場所が決まっており、外からも見えやすいので犯罪が起きにくい。

大型店舗の障害者用トイレや、ガードレールが無い幹線道路も「入りやすく」「見えにくい」場所になる。見通しが良ければいいわけでもない。周囲に民家がない田んぼの中の一本道は、見通しはいいが誰も見てくれない。雑草が伸び放題の空き地や、廃屋になりかけた空き家も、管理の目が行き届いていないと判断され、狙われやすい。

本書では実際に子供が被害者になった例を出しながら、犯罪が起きやすい場所を解説。警鐘を鳴らすだけでなく、正しい防犯パトロールの仕方や、子供たちに「地域安全マップ」を作ってもらう取り組みも紹介してくれる。

不審者」という言葉を使っているのは日本だけ


ちなみに、本書によれば「不審者」という言葉は日本でしか用いられていないそう。欧米では場所に特化した防犯が進んでいるため、人に注目した「不審者」は使う必要がないのだ。不審な人物など外見からは判断できず、誰だって犯罪を犯す可能性がある。ならば、犯罪を犯す機会=場所を無くすしかない。

日本で「不審者」という言葉が使われたのは、文部科学省が2002年に作成した危機管理マニュアルが最初。このマニュアルは、2001年に起きた大阪・池田小学校での無差別児童殺傷事件をきっかけに作られたものだ。通用門から侵入した犯人は、法廷で「校門が閉まっていたら入らなかった」と述べた。「入りやすく」「見えにくい」場所を無くしていたら、新たな犯罪者を生まずに済んだかもしれない。

『子どもは「この場所」で襲われる』を読んでから街を歩くと、危ない場所がわかるようになる。ぜひ冬休み前に親御さんに読んでもらいたい一冊。近所のあの公園、実は危ない場所だったのか……。
(井上マサキ)