日本の犬猫は本当に幸せか――海外と“ペット後進国”の大きな差

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こういったネットニュースの記事を書いているからでしょうか、最近、「猫」に関するコンテンツに触れる機会がやたら多い。私のFacebookやインスタグラムには、何かしら猫に関する話題が毎日上がってくる。猫動画や猫写真、猫ブログが友人やキュレーションサイトからシェアされるのです。

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また、猫に関する写真集は他の動物と比べると売り上げ数が多かったり、猫を特集した雑誌が完売したりと、景気の良い話も聞こえてきます。あまりの景気の良さにアベノミクスのみならず「ネコノミクス」といった造語もうまれました。

野良猫ばかりが集まる島などもあり、カメラを抱えて旅行を楽しむ人も多いようです。宮城県の田代島をはじめ、江ノ島(神奈川県)、沖島(滋賀県)、真鍋島(岡山県)、男木島(香川県)などは、「猫の島」として大変な人気となっているよう。野良猫をカメラで撮影してインスタグラムにあげる。私の友人にもいますね。「皆、いつからこんなにも猫が好きだったの?」と驚いているのですが、それは私だけではないはず。

野良犬の数が少ないので猫ほど重宝されていませんが、犬も大変な人気。ペットとして飼われている犬は1000万頭を超える数となっています。実は最近の日本では、ペットを飼う数が増加傾向にあるのです。飼い猫自体も約1000万頭おり、この犬猫を合わせた数は、14歳以下の年少人口よりも多いというデータは、驚きをもって公表されました。少子化が進む中で、ペットを購入する人が増えているのです。

ペットとしても私たちの生活に随分と身近になった犬猫。飼い始める際には、どんな名前にしようか、散歩はどこに行こうか、何か服を買ってあげようかと迷い楽しむもの。わが子のように可愛がっている人も多いでしょう。しかし、こんなにも身近になったペットですが、次第に無視できない問題が浮き彫りになってきたのです。

それは、無責任な「動物との別れ」。

今回は、そんなペットとの別れについて調査してみました。日本の犬猫は大変可愛がられている反面、残酷な最期を迎えることも少なくないのです。いま、日本では年間約19万頭もの犬や猫が自治体施設に収容されていることはご存じでしょうか? もちろん最後まで動物に添い遂げる飼い主がほとんどなのですが、やむを得ない理由で動物との別れや、個人的な事情からペットを手放し、施設に預けるのです。

この収容された動物は、驚くことに13万頭近くが殺処分されています。犬猫の殺処分は近年、問題視されており、耳にしたことある人も多いかと思いますが、確認できているのは施設に収容されたものだけ。いわゆる捨てられたペットはこれにカウントされていません。犬猫の被害数は、実際にはこれ以上でしょう。

書籍『日本の犬猫は幸せか』の著者であるエリザベス・オリバーさんは、日本で動物保護活動を行う「アーク」の代表。長年の日本での活動が認められ、2013年に英国エリザベス女王より大英帝国五等勲爵士を受勲したこともあります。25年も活動を続けるオリバーさんが、日本の動物保護の現状や問題点を自著で指摘しています。

まず、オリバーさんが指摘するのは、日本の遺棄動物には「セカンドチャンス」があまりに少ない点。

自分たちの事情をよく考えずに外出先でペットを購入してしまうのは、日本だけでなく世界共通の問題。また、些細な理由で捨ててしまう人や、やむを得ない理由で手放さざるを得ない人も世界にはいます。

しかし、動物愛護の先進国である米国・英国などでは、犬猫を引き受ける受け皿としてシェルターが数多く存在。そして、ペットを求める人は日本のようにペットショップを訪れるのではなく、このシェルターに足を運びます。

シェルターでペットを購入することが彼らの当たり前。特に英国では保護している犬は「ペットにふさわしい愛すべき犬」というイメージが浸透しており、飼い主もペットも幸せな関係を結んでいます。

同書で取り上げられている英国最大の犬保護団「ドッグズ・トラスト」を紹介しましょう。2015年7月現在、イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドに20のシェルターを運営しており、今も毎年新施設をオープン。700名以上の正規職員と2500名のボランティアがおり、年間収入は8470万ポンド(日本円で約180億円)。その他にも多くのサポーターがこの活動を支えています。

ドッグズ・トラストの取り組みは様々。シェルターの運営以外も、避妊・去勢手術に実施、マイクロチップの登録推進、子どもたちの犬との接し方を教える教育活動など、数え切れないほど多くの活動をしています。こういった活動は多方面で評価されており、エリザベス女王陛下がパトロンにもなっています。

シェルターがあることで、ペットは次なる飼い主と出会うことができ、セカンドチャンスを得ることができるのです。

しかし、日本ではどうでしょう。こういったシェルターが十分に整っておりません。行き場を失った犬猫は、保健所・動物愛護センターに託すor捨てる、の二択になるのです。

日本で保健所・動物愛護センターに収容されると、多くの施設では3〜5日で殺処分が行われます。処分の方法は二酸化炭素ガス。1頭の犬が息絶えるのに20〜30分かかると同書で説明されています。動物らは決して短くない時間を苦しまなければならないのです。

息が絶えたその後は、焼却炉へ。驚くことに近代化が進み、動物が入所してから死に至るまで、スタッフはペットの体に触れることなく全自動で処理することが可能。この間、スタッフの仕事はガス注入のボタンを押すだけ。

こういった処分は耐えられない。そういった考えなのか、施設に預けずに山や河原に犬猫を捨てる人もいます。「自然に還したから」は、人間の勝手な言い分。自然の猛威は我々が想像する以上のものがあり、良い結末を迎える犬猫はごく少数と言えるでしょう。

また、「ペットを手放したい方、引き取りと譲渡先をお世話します」といった怪しい広告からサービスを利用する人も。道ばたや高速道路のサービスエリアなどで、犬猫1匹につき3万円で預けることができるのです。動物を手放すことは誰でも“後ろめたさ”があるもの。その後ろめたさを感じないために、ペットを自然に還した、業者に手渡したという大義名分だけ得て、翌日から何事もなかったかのように生活をするのです。

今や、14歳以下の年少人口を子どもの数よりも多いペット数ですが、軽率な判断で購入してしまうことは要注意。また、ペット先進国にならって「セカンドチャンス」を得られる機会を整える必要があるのです。同書のタイトルのように、「日本の犬猫は本当に幸せなのか」、一度じっくり考えてみてはいかがでしょうか。

<書籍情報>
『日本の犬猫は幸せか』エリザベス・オリバー著(集英社)