ウルリッヒ・シュティーリケについて知っているのは、彼の経歴だけである。フランツ・ベッケンバウアーを彷彿させるプレースタイルで、現役時代には“レアルの王様”と呼ばれていた。レアル・マドリーで多くのタイトルを獲得したのだ。旧西ドイツ代表でも、リベロとして活躍した。

 当時の面影を口ひげに残す60歳は、昨年10月から韓国代表を率いている。人柄や性格については活字を辿るだけだが、東アジアカップにおける采配には好感を抱く。

 韓国は韓日戦──韓国側からすれば、このような表現になる──で2連敗を喫しており、3連敗となれば史上初のことである。また、過去4試合勝ち星がない(2分け2敗)。5試合連続で日本に勝利できなかったことは、これまで一度もない。

 こうした背景を踏まえて、韓国のメディアは「負けられない一戦」と報じた。昨夏のブラジルW杯で2対4と敗れたアルジェリアの指揮官が、ヴァイッド・ハリルホジッチであることも、韓国には見逃せない事実だった。勝利を絶対とする材料は揃っていたのである。

 8月5日に迎えた韓日戦で、シュティーリケは第1戦から8人の選手を入れ替えた。「選手全員を信頼している。すべての選手に出場機会を与えてチェックする」と話していた彼は、韓日戦という大一番でも大会に臨むスタンスを貫いた。

 結果は1対1に終わった。韓国側には失望も広がったと聞く。だが、シュティーリケにとっては意味のある一戦だったに違いない。

 少なからず重圧を背負うゲームで、誰が力を発揮できるのか。プレッシャーに押し潰されてしまう選手がいるのか。日本戦を通して、ドイツ人指揮官は選手の見極めを進めたからだ。

 ひるがえって日本である。

 ハリルホジッチ監督は、第1戦のメンバーをベースにスタメンを選んだ。北朝鮮戦でAマッチデビューを飾った遠藤航(湘南)が2試合連続で先発し、藤田直之と倉田秋がデビュー戦に挑んだ。フレッシュな戦力は、彼ら3人と永井謙佑にとどまった。

 1トップの興梠も4年ぶりの出場だが、国際Aマッチ出場は2ケタをこえる。GK西川周作と森重真人、槙野智章のCBコンビは、第1戦と同じである。左サイドバックの太田宏介、インサイドハーフで先発した柴崎岳と山口蛍も含めて、代表の常連組が多数を占めた。テストはごく限られたものでしかなかった。

 ならば勝利を求めたかと言うと、これが違うのである。

 第1戦に出場していない選手をベンチに置きながら、ハリルホジッチ監督は連戦による消耗を理由にディフェンス重視で臨んだ。「選手が疲れている」ことをアリバイとして、負けないサッカーを選んだと理解されてもしかたのない采配だった。「得点を取れる選手を探す」と話していた今大会の目的は、忘却の彼方である。
 
 試合後のハリルホジッチ監督は、「大会でもっとも強い相手と引分けた」とささやかな満足感を示した。一方のシュティーリケ監督は、「日本の監督はスペースを与えなかったと話すかもしれないが、90分を通して我々が試合のペースを握っていた」と話した。
 
 引分けという結果は同じでも、韓国は一歩前進した。日本は足踏みをしたままだった。後退に等しい足踏みである。