2015年04月13日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)



僕は自他共に認めるAppleファンであり、これまで発売された新製品のほとんどを入手してきた。もちろん中には購入を見送った製品もあるが、それにしても自分の物欲と戦いながら見送ったのであり、欲しくなかったわけではない。たとえばスティーブ・ジョブズの偉大なる失敗作Power Mac G4 Cubeも買わなかったものの、いまだにあの極めて美しい製品を生み出したAppleへの感嘆を忘れることができない。

ところが、その僕にして、どうしても買う気が起きない――もしくはその価値を見出せない製品が出てしまった。それがApple Watchだ。

2015年4月24日から発売されることになったApple Watchだが、初回ロットはすでに予約でいっぱいになり、次のロットは供給が追いつかず6月以降まで入手できないという。少なくともスタートダッシュは大成功といってよい。

時間を知る道具――つまり時計としては、Apple Watchはベストなガジェットだが、唯一の存在ではない。正確な時間を教えてくれるという意味では、世の中のデジタルウォッチはすでに最高性能に達している。身につけるスマートフォンとして考えれば、既存のスマートウォッチのどれと比べても高機能だしエレガントだ。

ではなぜ欲しくないのか?僕とあろうものが!?

結局のところ、Apple Watchは腕時計であり、手首に着用するものだ。もし、いま腕時計を着用していれば、それを外さなければAppl Watchを着用できない。もう片方の手首に着用するという手もあるが、時計を両手首につけているのは、僕の知る限り本田圭佑くらいである。

つまり僕は、いま使っている腕時計を外してまでApple Watchを着用するモチベーションをもてない、ということだ。それには、以下の3つの理由がある。

1) iPhoneとの連動がなければ単なるデジタルウォッチでしかない
メールを読む、書く。メッセンジャーソフトを使う。SNSを使う。ゲームを楽しむ。そのどの機能を見ても、結局iPhoneがなければApple Watchはさほど意味をもたない。

2) 防水でない
Apple Watchは体に接触しているデバイスであるから、ヘルスケア(フィットネス)のパートナーとしてみると非常に使い勝手がよい。ジムでのワークアウトやプールではとても役立つだろう。と、思っていたら、防水機能がプアなので、プールやシャワールームでは使えない。逆にいえば、防水が完璧でG-Shockなみにタフになれば、フィットネスやスポーツの際に使うハイテク時計としては、購入するモチベーションが生まれるかもしれない(それにしては若干高いのだが)。

3) デザインがハイテクガジェットすぎる
Apple Watchは美しい、とは思う。ただ、Apple Watchは毎日着用しなければ、その良さを享受できないデバイスだ。たまに使う、というものではない。しかし、片腕に毎日着用するとしたら、Apple Watchのデザインは玩具的で飽きる。とはいえ、毎日着用しないとしたら、Apple Watchのデバイスとしての意味が欠けてしまう。

ふだん腕時計を着用しない若者であれば、Apple Watchを毎日使う時計として採用できると思うが、時計好きで、ビジネスタイムでも着用できるアクセサリーのひとつとして腕時計を見ている層からすれば、Apple Watchに乗り換えることは少し難しいだろう。

そして、なにより問題なのは、現代の時計ファンからすれば、腕時計はある意味一生モノであり、高価な腕時計になれば少なくとも数年――あるいは子供や孫の世代にまで使えるプロダクトである。文字通りタイムピースになりえる道具なのだが、Apple Watchは1〜2年で買い換えることを前提としたプロダクトだ。

そのコンセプションギャップを受け入れるかどうかで、Apple Watchを買うかどうか、毎日の相棒として受け入れるかどうかが変わるだろう。

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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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