多くの中小企業経営者は、利益剰余金は多ければ多いほど良いと信じていることがある。銀行からの評価が高まり、経営が安定しているように見えるからだ。決算書に並ぶ数字が厚くなるほど、会社の体力を証明できていると感じる経営者も少なくない。しかし、その常識を鵜呑みにしてよいのだろうか。脱・税理士の菅原氏は、その考え方に一石を投じている。
 
菅原氏はまず、利益剰余金と現金は別物であり、混同してはならないと語った。利益剰余金は貸借対照表の純資産に計上される、創業から積み上げてきた利益の総額にすぎない。実際に手元にある現金がどれだけあるかは、資産の中身次第で大きく変わる。設備投資や在庫の増加、あるいは他の資産への振り替えによって、利益剰余金が増えても現金は目減りしていくことは珍しくないそうだ。数字の厚みだけを見て資金繰りを安心視するのは危ういというわけだ。
 
その上で菅原氏が重視するのが事業承継の視点である。非上場企業の株価は純資産をベースに算定される仕組みがあり、利益剰余金が積み上がるほど株価も上昇していく。後継者に株式を譲る際には、その評価額に応じた重い贈与税や相続税がのしかかることになる。これまでは退任時の退職金によって利益剰余金を圧縮し、株価を引き下げる手法が用いられてきたが、今後の税制改正でこの手法が制限される可能性が浮上してきた。承継の設計そのものを見直す必要に迫られている経営者もいるはずだ。
 
銀行融資の場面では、利益剰余金の厚みが自己資本比率の高さとして評価され、経営の安定性を示す材料になる。その一方で、次の世代へ会社を引き継ぐ局面では、同じ数字がかえって重荷に転じかねない。役員報酬や給与を十分に確保した上での赤字なのか、そうでないのかによっても、銀行の見方は変わってくるようだ。目先の評価と将来の承継、どちらを優先すべきかという問いが横たわっている。
 
利益を抑えながら銀行評価も保ち、後継者の税負担を軽くするには、どのような資金繰りや会計処理の工夫が考えられるのか。菅原氏が語る発想の中に、その糸口がある。会社の将来を見据える経営者にとって、大きなヒントになるはずだ。

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