晩酌の味方を狙い撃ち!庶民イジメ「第三のビール」増税のゆくえ
■消費者の懐を直撃するビール税制見直し
ビール党に限らず、消費者の懐にも直接響く無関心でいられない話題が年末に向けた来年度税制改正のテーマに浮上してきた。麦芽の比率など原料によって税率が異なるビール系飲料に課せられる酒税について、段階的に税率格差を縮める議論が政府・与党内で本格化してきたからだ。
税率の高いビールの税額を引き下げ、税率が低く低価格の発泡酒、「第三のビール」のそれを引き上げる方向が有力視されている。税率の改定は3ジャンルそれぞれの小売価格に跳ね返り、ビール業界の経営戦略、商品開発ばかりか、消費行動にも影響するだけに、その行方に目は離せない。
ビール系の酒税を巡っては、毎年年末に決まる翌年度の税制改正に絶対的な影響力を持つ自民党税制調査会の野田毅会長が10月26日、「段階的に(税率格差)を是正していくことは必要」と語り、ジャンルにより異なる税率見直しに着手する意向を表明した。
現状のビール系の税額は、最も一般的な350ミリリットル缶でビール(小売価格220円前後)が77円に対し、発泡酒(同165円前後)は47円、第三のビール(同145円)に至ってはビールの3分の1に近い28円と大きな開きがある。その分、小売価格に大きな差を生んでいる。
価格が高いビールの税額が下がれば長期低落傾向に一定の歯止めがかかる可能性がある半面、低価格が売りの発泡酒、第三のビールは増税で売れ行きに影響するのは避けられない。とりわけ2003年に登場した第三のビールは、デフレ下での低価格が消費者の高い支持を受けており、反発が予想される。
■税制に翻弄される消費者とビール業界
一方、全ジャンルの減税を求めているビール業界の税率格差縮小への受け止め方には、企業ごとに温度差もありそうだ。ビール系全体に占めるビールの比率がトップシェア「スーパードライ」を抱えるアサヒビールが約76%に対し、同社と激しいトップ争いを繰り広げてきたキリンビールは約45%で、税率見直しで明暗を分けかねない。消費者にとっては、外食でのビールが値下がり、家のみの第三のビールが値上げとなれば、そこは痛し痒しだ。
ビール系と酒税を巡っては、最近もサッポロビールが第三のビールとして発売した「極ZERO」が国税当局から疑義をかけられ、税率の高い発泡酒として今年7月に再発売するなど、税制に翻弄されてきた歴史がある。ビールに比べ麦芽の比率を抑え低価格を実現した発泡酒、第三のビールも、世界的に極めて高い水準のビールへの税率をにらんでの開発であり、さながらビール各社と国税当局とのイタチごっこの末に生まれた商品だった。
税率格差縮小については、政府・与党には長期的に税率を統一する意向があり、仮に将来的に税率が一本化されれば、ビール系に3ジャンルは不要になる。そもそも、この時期にビール系飲料の酒税見直しの議論が浮上した背景には、主力のビールが税率の低い第三のビールに市場を奪われ、その結果、税収の落ち込みを招いていることへの国税当局の危機感がある。2013年度の酒税収入は約1兆3700億円で、この20年間で約3割も減収した。ビール系はその66%を占め、税率格差縮小によって税収減の長期低落傾向に歯止めをかけたい当局の意図が透けてくる。
自民税調の野田会長は「本来、ビールを飲みたい人が(低税率で割安な)第三のビールを選ぶのは、あるべき姿から言うと、ちょっと違う」と語るのも、ある種もっともな意見だろう。しかし、税制見直しで振り回されるのは、ビール業界と消費者であるのは言うまでもない。