奈良大附vs箕島
坂口大誠（奈良大附）
「近畿大会の準々決勝は選抜がかかった試合なので、力んだところがありました」奈良大附のエース・坂口 大誠（2年）はこの試合の投球をそう振り返った。
今年の近畿大会でも好投手として注目されている坂口。180センチ73キロと手足が長くすらっとした投手体型で、好投手という雰囲気を感じさせる。坂口の魅力は、球速表示以上と感じさせるストレートだ。スピードガンの数字では、130〜135キロぐらいなのだが、130キロ後半は出ていてもおかしくないぐらいの勢い、キレがある。
坂口本人もキレの良いストレートを投げることを意識しており、「ネット裏から観るのと、実際に打席に入るのでは、僕のストレートの見方が違ってくると思います」と自信たっぷりだ。だが今日に限っては本来のストレート、鳥羽戦（試合レポート）ほどの伸びではなかったというが、なかなか手元で伸びのあるストレートを投げている。
投球フォームは独特で、ノーワインドアップから始動し、左足を高々と上げた後、左足をインステップ気味に踏み出す。
投球時に左肩の高さで、その投手は何を重視しているのかが分かる。例えば真っ直ぐ捕手方向へ伸ばす投手は制球力を意識し、高々と上げる投手は角度を意識している投手が多い。左肩を下げる投手は少ないのだが、この場合も角度よく振り下ろすことを意識している投手が多い。
坂口の場合、特にチェックポイントもなく今のフォームになったと話すが、この投手の素晴らしいのは、球持ちが良いこと。指先にしっかりと力を伝え、高回転のストレートを投げることができている。これは大きな素質といえるだろう。
その坂口は直球中心の組み立てで5回まで60球と少ない球数で抑えた。
一方、箕島の先発・中村 光（1年）は左サイドから常時125キロ前後と速くはないが、手元で微妙に動かしており、こちらも5回まで無失点。試合は投手戦となる。
サヨナラを決め喜ぶ奈良大附ナイン
均衡を破ったのは箕島だった。6回表、9番中村が左前安打を放ち、1番富山 海（1年）も中前安打で続き、無死一、二塁のチャンス。2番瀧本 塁貴（1年）に対し、箕島は強攻。
「バントだと思っていて、強攻は全く頭になかった」と坂口が述べるように、坂口の心理をついた強攻策で、無死満塁のチャンスを作る。これで動揺したのか、坂口は3番宮下 琉成（1年）の押し出し四球を与え、箕島が1点を先制する。
なおも満塁の場面で打席には4番井上 翔太（1年）。しかしここは坂口が見逃し三振に抑えまず一死。そして5番岡本 響介（1年）に対し、高めのストレート。岡本は振り抜き、左犠飛。箕島が2点目を奪った。
ランナー三塁の場面で、高めのストレート。犠牲フライになる確率も高く、リスクのある配球だが、それでも投げたのは空振りを奪える自信があったから。よほど自信に持っているということなのだろう。しかし、「今日のストレートでは勝負できないです。ただ冷静な気持ちで投げていたら、今の配球は変わっていたかもしれません」と焦った状況で投げていたことを振り返り反省していた。
7回裏、2点を追う奈良大附は一死一、二塁のチャンスを作り、7番坂口が打席に立つ。この時、投手が右サイドの福居に代わっていた。坂口は「右投手は好きなので、チャンスだと思いました」と前向きな気持ちで入ったこの打席で右前適時打を放ち、1点を返すと、8番の岸本 陸郎（1年）が四球で一死満塁となり、9番高橋 康太朗（2年）のスクイズ犠打で同点に追いつく。
坂口は7回以降、落ち着いた投球で、無失点に抑え、味方の反撃を待つ。そして奈良大附は9回裏二死、1番加藤 和希（1年）が出塁し、2番前田 勇大（2年）が振り抜いた打球がレフトを越え、一塁走者が一気に生還。奈良大附がサヨナラ勝ちで準決勝進出を決めた。
近畿大会準決勝進出にすれば、選抜が確定したわけではないが、出場へ向けて大きく一歩前進する。それを踏まえれば、今まで甲子園出場がない奈良大附にとってはこの試合、重圧がかかるのも当然だろう。だからこそサヨナラで勝ち抜いたのは大きい。
2失点完投勝利の坂口は、「次の準決勝は今日の試合よりも少しだけ楽な心境で投げられると思いますので、しっかりと調子を上げていきたいと思います」とコメント。次は打線に力のある立命館宇治と対戦するが、更なる好投が期待できるか注目をしていきたい。
（文：河嶋 宗一）
