図1 老後住みやすいと思う町ベスト10

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定年後、どんな街に暮らすのが幸せか──。そこには医療、地域コミュニティ、交通利便性などが大きくかかわってくるものだ。東西の不動産のプロたちにお勧めの町を聞いてみた。

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調査概要/関東1都3県、関西2府4県在住で不動産業に携わる人各100人、合計200人を対象にインターネット調査。アイブリッジの協力により、2012年9月20〜25日に実施。

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リタイア後、もっとも住みやすい町はどこなのか。今回、編集部が首都圏・関西圏の不動産関係者200人に対して行ったアンケート調査を見て(図1参照)、さもありなんと納得したことがあります。それは、リタイア後に住みやすい町は現役世代が住みやすい町とほとんど同じということです。

リタイア後の暮らしというと、「現役時代は職住近接で都心に。第二の人生はのんびり郊外で」という図式を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、その図式は実態とかけ離れています。今回のアンケートで上位に入った東京都世田谷区(首都圏1位)や神奈川県横浜市(同2位)、兵庫県西宮市(関西圏3位)、兵庫県芦屋市(同4位)は、現役世代へのアンケートでもよく上位にランクされる町です。一方、自然豊かな田舎暮らしに向きそうな町は上位に入っていません。結局のところ、リタイア後に住む場所として人気を集めるのは、現役世代にも人気の町なのです。

どうして人はリタイア後も、現役時代と変わらない場所を選ぶのか。理由として考えられるのは、人は住む場所に関して非常にコンサバティブであるということでしょう。

私の知人に、リタイア後に海外に移住した人が何人かいます。フィリピン、タイ、ハワイ、イタリア――。みなさん最初は充実した第二の人生を送っていましたが、結局、ハワイに移住した人以外は日本に帰ってきてしまいました。話を聞くと、言葉の壁があることはもちろん、生活習慣の違いになじめなかったこともつらかったといいます。

国内でも同じです。東日本大震災で原発事故が起きた直後、沖縄のマンション業者に数多くの問い合わせが寄せられました。しかし、実際にマンションで売れたのは、ほんの数戸だけと聞いています。結局、人はいまの生活を根本から変えることに大きな抵抗を感じるのです。

■行政サービスの差が老後の生活に直結

そうした傾向は、リタイア後の住む場所選びでも変わりません。田舎暮らしにぼんやり憧れを抱いているかもしれませんが、実際にいままで築いてきた地縁・血縁を切ってまで不便な郊外に移り住む人は少ない。たいていの人は現役時代と変わらない暮らしを望むのです。

生活に必要な基盤は、現役世代とリタイア世代で大きく変わらないことも理由の一つでしょう。リタイア後の暮らしというと、「温泉のあるところがいい」「水がおいしい町がいい」といった付加価値に目がいきがちですが、買い物のしやすさや交通機関など、基本的な生活インフラが整っていないとプラスアルファの付加価値も楽しめません。生活の基盤になるものが快適かつ便利かどうか。そういう視点で住む場所を選ぶと、やはり現役時代と同じく、都心に比較的近くて生活利便性が高い町が選ばれやすいようです。

こういった点を踏まえたうえで、実際に住み替えを考え始めたら、その町の行政についてもぜひチェックしてください。現役時代はあまり気にしていないかもしれませんが、行政サービスは市町村によってかなり差があります。

私の母はアンケートで首都圏2位に選ばれた神奈川県横浜市に住んでいますが、高齢者は市営バスの無料パスがもらえるため、市内の移動に大変重宝しているそうです。一方、規模の小さい自治体は公営バスの本数が極端に少なかったり、規模が大きくても、大阪市のように無料の敬老パスを有料化する自治体もあります。

差があるのは公共交通サービスだけではありません。老後の生活に大いに関係する介護サービスや、ごみの集配のように日々の暮らしに直結する行政サービスも自治体によって違いがあります。

こうした違いを左右するのが自治体の財政状況なのです。簡単にいうと、人や法人が多くて税収の多い自治体ほど手厚い行政サービスを受けられて、逆に人や法人が少ない自治体ほど行政サービスが頼りない。住みやすいのは当然、前者です。自治体の財政状況はHPで公表されているので、事前の確認は必須。恒常的な赤字になっていたり、地方交付税交付金を大量にもらわないとやっていけない自治体は、行政サービスが悪化する可能性があることを認識しておく必要があります。ただし自治体の財政状況がいいからといって、その自治体内ならどこでも住みごこちが同じわけではありません。

たとえば東京都世田谷区は、東急線沿線と小田急線・京王線沿線で雰囲気が違います。東急線の二子玉川や上野毛エリアは住宅街としてのグレードが高めですが、小田急や京王線沿線は庶民的です。また東京都大田区(首都圏7位)でも、田園調布や山王のような高級住宅地と、海側に近い蒲田エリアでは、町の様子が違います。

(東京カンテイ上席主任研究員 中山登志朗 構成=村上 敬 写真=PIXTA)