なぜ今アメリカのKickstarterでは「ポテトサラダ」に4万ドルも集まるのか
モラルの問われるKickstarterプロジェクトが増えている
オハイオ州の男性が初めてのポテトサラダ作りのために必要な10ドルを調達しようとクラウドファンディングサイトKickstarterを利用した。すると4万ドルもの資金が集まってしまい、今アメリカはその話題で持ちきりとなっている。
いったいこの国はどうなってしまったのだろうか。アメリカ発の食べ物でもなんでもないただの付け合わせの料理に、なぜこれほどの注目と資金が集まってしまうのだろう。ちなみにアメリカでは定番のアンブロシア・サラダのほうは資金調達に失敗している。そろそろアメリカ人は、いや少なくともインターネット上では、みんなとっとと店をたたんだほうがいいのだろうか。
「これほどまでに集まるとは思ってもいませんでした」このポテトサラダ・プロジェクトをKickstarterに投稿したザック・ブラウンは最近Redditで発言した。「10ドルという目標は保守的だとは思っていました。人々はきっと半分不条理なところに魅力を感じて一丸になっているのかもしれません。ポテトサラダによけいな議論は不要で、それが皆を団結させるのです」
確かにそうかもしれない。しかし本質はサラダではない。アメリカ人は内容が無いことでも結束してしまう。得にポピュラーカルチャーに関するものは、人々の注目を集める力を持っているようだ。例えば、デトロイト再建に実際貢献するかどうか微妙な「デトロイトにロボコップ像を建てよう」プロジェクトなどがそうだ。
このKickstarterプロジェクトが目標としていた5万ドルを集めてから3年が経過したが、デトロイトはまだ多くの支援を必要としている。 … 少なくともロボコップ像など全く必要ではなかったのだ。幸い、この銅像はまだ建設されていないらしい(だが間もなく建設されるようだ)。しかし、これはこのクラウドファンディング・サイトとその使われ方が根本的に変化してきていることの表れでもある。
このような変化はどんなベンチャーにも起こりうる問題でもある。
まだ始まりに過ぎない
アヒル口を世に流行させたアプリ、インスタグラムは今ではForesquareとマフィア抗争が合体したようなアプリになっている。ジャスティン・ビーバーに対する脅迫状や、他に発散する場所のない変わり者たちが横行している状況だ。もともとインスタグラムは違う目的、ポッドキャストの発見をより簡単にするために作られたものだ。かつては自主製作のジャーナリズムやビデオゲームといった試みに対する救済者であったはずのKickstarterも、今では皮肉とノスタルジーだけの金食い虫になってしまっている。
Vergeが指摘するとおり、Kickstarterの最新の利用ガイドラインではくだらないプロジェクトも歓迎しているようだ:
以前Kickstarterは各プロジェクトを事前にきちんと審査していたが、今では無干渉のアプローチを採用している。個々のプロジェクトは会社の承認を得ずに公開されることができ、ただしその後Kickstarterはそれらを強制終了する権利を持っている。
このルールのおかげで問題のポテトサラダのプロジェクトをはじめ、ヴェロニカ・マーズの主演映画、ザック・ブラフの主催する映画、いずれフェイスブックに利益を生むとされるバーチャルリアリティー・ヘッドセットOculus Riftなど、さまざまなプロジェクトが存在する。
アメリカの資本主義が落ち着き経済が成熟するほど、我々アメリカ人はいくらでも自由に自分の稼いだお金を適当なKickstarterに投げ込んでくだらないプロジェクトを応援したり、スターバックスでおいしいハーフ・モカ・ラテでも飲みながら他人がいかに無駄遣いをしたかを嘲笑するコメントをアップルのiPhoneを使って入力できるようになる。
その自由自体に問題はない。しかし、4万ドルもの大金をポテトサラダにつぎ込むのはさすがに馬鹿げている。それこそChrityWatchのような徹底的に研究されもっと高貴な目的のために、それは向けられるべきではないだろうか。つまり多くの意義あるプロジェクトが無視され資金調達に悩んでいる一方でくだらないプロジェクトにお金を入れることに、我々は道徳的責任を感じないのだろうか。特に収入の格差が広っている今のような状況の中で、経済的資源を無駄にしてどうするのだろう。
子供たちに読書の楽しさを伝えるかつての人気テレビ番組「Reading Rainbow」の司会者兼プロデューサー、レヴァー・バートンが最近Kickstarterで同番組の復活資金を募集したところ、12時間以内に100万ドルを突破し記録的な成果を上げた。しかし、これによって多くの人がKickstarterのプロジェクト提案を詳しく読んでいない、ということが分かった(子供の読解力の向上を目指す番組だけにこれは実に皮肉である)。このプロジェクトではReading Rainbowのテレビへの復活ではなく、インターネットでの放送を目指していたのだ。
にもかかわらず、インターネット市民たちは単にレヴァー・バートン(多くの人はSFテレビシリーズ、スタートレックのジョーディ・ラ=フォージとして知っている)とReading Rainbowのテーマ曲を聴いただけで、とっさにこのプロジェクトへの支援を判断したのだろう。
まだポテトサラダのプロジェクトが終了するまで24日もある。ブラウンはクラウドファンディング先駆者たちの批判をものともせず、次なる「チャレンジ目標」を掲げてKickstarterページを無謀に更新し続けている。最近ではポテトサラダを作る工程を生中継で視聴できる権利(1000ドル)や、支援者への感謝を伝えるビデオメッセージ(1200ドル)、さらには巨大ポテトサラダ・パーティーを開くための会場を借りる(3000ドル)目標などがあげられている。
今のところ、このポテトサラダ・プロジェクトにはKickstarterではお約束のTシャツはまだ見当たらない。
残念ながら、今のアメリカにはポテトサラダくらいがお似合いなのかもしれない。
トップ画像提供:NatalieMaynor(Flickrより), CC 2.0
Helen A.S. Popkin
[原文]