クリスマスサラダ(『主婦之友』昭和6年1月号掲載)の再現。バナナをロウソクに、さくらんぼを炎に見立てていて、インパクト大。山本直味著『温故知新で食べてみた』より。

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主に昭和初期に発売された『主婦之友』に掲載されたレシピを再現した本『温故知新で食べてみた』(主婦の友社)が発売された。著者は山本直味さん。実は山本さんは、昨年『Excite Bit コネタ』に登場。今や、テレビ、ラジオ、新聞等でも活躍中だ。再現した料理が200種類を超えている山本さんに、新たな美味しさを発見した料理についてお話を伺った。

●まずは、山本さんのおすすめの料理を紹介(PCの方は関連写真参照)
※料理名の表記は、レシピの掲載当時のものです。

○芥子(からし)入り魚スープ(『主婦之友』昭和7年7月号附録「お惣菜向きの洋食の作り方三百種」掲載)

※野菜(玉ねぎ、にんじん、キャベツ)を茹でて、軟らかくなったところに魚を入れる。塩、コショウ、芥子を入れてピリっとするくらいの辛さに味をつける。いただく前にパン(できればフランスパンを)を入れる。(詳しい作り方は書籍『温故知新で食べてみた』に掲載)

山本さん「野菜の旨みがたっぷり出ていて、非常に風味の良いスープになりました。パンは麩のような食感でしたが、味がしっかりついているので、噛むと旨みが広がります」

○バナヽのサラダ〜スタッフ・ド・バナヽサラダ(『主婦之友』昭和9年7月号掲載)

※バナナの皮をむいて中身を取り出し、バナナ、りんご、干しぶどう、パイナップル、微塵切りにしたセロリ、お手製のマヨネーズ、砂糖を混ぜて作ったフルーツサラダをバナナの皮に詰めて、クリームまたは缶ミルクを入れる。さくらんぼを飾りとして添える。

山本さん「マヨネーズと砂糖を混ぜているので少し甘いけど、セロリが良い感じで味を締めています。バナナの皮に入れることで、高級感が醸し出されます」

山本さんによると、とろ〜り感を楽しみたい方はクリーム(缶ミルク)を入れなくても美味しいとのこと。

○クルミのベーキ(『主婦之友』大正15年5月号掲載)

※クルミは堅い皮を割って身を取り出す。豆腐はすり鉢にいれ、卵を加えてすりつぶし、塩、コショウで味を整えたらクルミを加える。ごま油を敷いた鉄板にそれを流したら、オーブンまたは天火でキツネ色になるまで焼く。
マカロニをトマトケチャップで和えたものを付け合せに。

山本さん「クルミと豆腐って、食感が全く違いますが、噛めば噛むほどクルミの食感が効いてきて旨みが出てきます。食べごたえもあって、おなかいっぱいになります」

●見た目のインパクトが凄い料理(写真参照)

○クリスマスサラダ(『主婦之友』昭和6年1月号掲載)

※りんごを厚切りにして、芯の部分は皮をむいたバナナが入る大きさにくりぬく。りんごの穴の部分にバナナを立てて、バナナの上にさくらんぼを乗せる。皿にサラダ菜を敷き、バナナを立てたりんごを乗せる。上からお手製のマヨネーズをかける。

写真のインパクトがあまりにも大きいので、あらかじめフォローしておくと(←なんのフォローだ)、「クリスマスサラダ」ということでバナナをロウソクに見立てている。さくらんぼはロウソクの炎を表している。

山本さん「最初に見た時に、あまりの斬新な見た目に目が釘付けになりました。味は想像通りですが、実は当時でいえば節約メニューとされているのです。特にバナナは高価でしたから、高価なものをちょっとずつ使って気の利いたサラダに・・・といったところです。さらに、クリスマスということで、特別な感じを出そうとしたのではないかとも思われます。子どもは大喜びだと思います」

いたって、真面目な料理なのである。
「昭和初期には色々な見た目の料理がありますが、真面目なだけに面白いというのも魅力の一つですね」

次はちょっとかわいい料理。

○桃太郎サラダ(『主婦之友』昭和11年5月号掲載)

※湯切りにして二つ切りしたトマトにうずらを一つ入れたもの。トマトは下まで切り落とさず、芯を少し切り抜く。

山本さん「つるんとしたうずらは、本当に生まれたての桃太郎みたいです。蒸し豚肉や野菜サラダと一緒に盛り付けてもいいです」

※書籍『温故知新で食べてみた』には、それぞれの詳しい調理法が掲載されています。

――なんだか、勉強になりますね。でも、山本さんは料理研究家・・・ではないんですよね?
「そうなんです。漫画家をめざしています」
実は山本さんは料理の先生ではないし、めざしている訳でもない。いうなれば、昭和初期の風俗を探求する温故知新研究家だ。元々漫画家志望で、『ちばてつや賞』『MANGA OPEN賞』などに入賞している。

――昭和初期のレシピを再現しようと思ったきっかけは?
「昭和初期の人々の暮らしに興味があったので、漫画を考える上での参考にしようと、図書館で必要な資料を探していたんです。すると、昭和7年に発行されたレシピ本に出会いまして、ペラペラめくってみたら、見たことがないような料理ばかりで『なんだこれは!』という衝撃を受けました。例えば、カステラを入れた容器に寒天の素を流し入れてバナナを乗せたものとか・・・」

昭和初期の料理にすっかり心を奪われた山本さん。口に合うかどうか分からない未知の料理に、時間と手間をかけて再現することにしたのだ。

●大懸賞は目隠しをして抽選

ところで、山本さんが『温故知新で食べてみた』を執筆するにあたって、大正末期〜昭和初期の頃の『主婦之友』を改めて読んでいると、変わったページがあったという。

「当時から懸賞のコーナーがあって、腕時計などの豪華なプレゼントがあったのですが、抽選する時は山のように届いたハガキを前にして、目隠しをして行っていたようです。ちゃんと、その時の様子を撮った写真も掲載されていました(笑)」

公正に抽選していることを、アピールする目的もあったのかもしれない。

――では、山本さんの今後の目標はなんですか?
「昭和初期の頃の美味しい料理を、皆さんにも味わっていただけるような機会をつくりたいです。あとは、元々漫画家志望なので、SFものや伝承ものの漫画を描きたいです」
――好きな漫画家さんは?
「大友克洋さん、高野文子さん、清原なつのさん、三原順さん、杉浦日向子さん、それに岡崎京子さんですね」
――岡崎京子さん!!
「特に『リバーズ・エッジ』のファンです。漫画を描いていて迷った時に読むと、『私がやっていることは間違いないんだ』って思います」

まさか、昭和初期の料理の話から腕時計300個プレゼントの話、さらには岡崎京子の話になるとは思わなかったが、それと同じくらいの驚きと発見のある本なので、皆さんもぜひ。(取材・文/やきそばかおる)

●『温故知新で食べてみた』山本直味著(主婦の友社)11月14日発売。
昭和初期の台所を温故知新でたずねれば、知って、真似して、工夫したくなる家ごはんの新常識が見つかります! 笑えて、学べて、遊べて、得する新世代主婦の教科書です。(紹介文より)
※『主婦之友』のアーカイブも必読。『主婦之友』は大正6年に創刊。創刊当時の表紙の変遷や、調理器具の進化なども掲載されています。

●山本直味さんのブログ
『温故知新で食べてみた』
http://nawomayo.jugem.jp/