「ダーツの旅」をノベライズする
テキスト系妄想メディア「ワラパッパ (WARAPAPPA )」より
みなさんこんにちは。ワラパッパフレンズの天久です。
前回お伝えしたとおり、このノベライズシリーズが河出書房さまから単行本としてリリースされます。
先日、そのタイトルが決まったのでお知らせします。
『ノベライズ・テレビジョン』
です。
装丁は白根ゆたんぼさんにお願いしました。かわいくおしゃれな装丁になりそうです!
発売は11月18日を予定しています。
Amazon予約などはすでにはじまっています。
よろしくお願いします!
それでは今回のノベライズは『ダーツの旅』。
引き続きお楽しみください。
白根ゆたんぽリンク・http://yuroom.jp/yuroom/top.html
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「ダーツの旅」をノベライズする
所さんの投げたダーツは四国のほぼ中心に突き刺さった。
翌朝、僕らロケ隊は出発した。
メンバーはディレクターの佐々木さん、カメラマンの藤本さん、そして今回はじめて運転手兼ADとして同行する僕の三人だ。
四国までは空路を使い、空港近くのレンタカーで白のライトバンを借りた。
ハンドルを握り、生あくびを噛み殺す僕に気づいた佐々木さんが呆れた声をあげる。
「おいおいしっかりしてくれよ、まだ空港出たばかりだぜ」
「すいません、あんま寝てなくて」
「お? 寝てない自慢か?」
ミラー越しにニヤついた視線をよこす佐々木さんは現場叩き上げのディレクターで、多少皮肉屋なところはあるけれど、僕のような下っ端にも気さくに接してくれる。
「楽しみすぎて寝付けなかったんです。憧れでしたから、ダーツの旅」
その言葉に嘘はない。
小学生の頃から欠かさず観てきた「笑ってコラえて!」
その名物コーナーへの同行が決まったとき、僕は人目もはばからずガッツポーズを決めた。
「よく言うぜ!」
佐々木さんは顔をしかめながらも、満更ではなさそうに背中を後部座席に預けた。
「言っとくけどお前の思ってるようなロケじゃねえよ。なんつっても相手は素人だ。使える
リアクションなんてそうそう撮れるもんじゃねえ」
「え? じゃあ、ひょっとして第一村人ってのも?」
「こっちで決めてんだよ、当然だろ。なあ、フジもっちゃん、この間のR村、本当は第なに
村人だっけ?」
「第四十八村人」
寡黙な藤本さんが、巨体を縮こませぼそりと言った。
いきなり出鼻をくじかれた気分だ。
でもそんなことでヘコむようでは制作会社のADなんて務まらない。逆にどんな状況にあってもあれだけのVを上げてくる佐々木さんたちに映像職人の凄味を感じた。
車は市街地を抜けひたすら国道を進み、やがて急峻な山々が連なる四国山脈へ分け入る。
山間部に入ってからの林道は驚くほど整備されておらず、慎重な運転を余儀なくされた。
予定していた到着時刻は大幅に遅れそうだった。
後ろの席で寝息を立てていたふたりがようやく目を覚ました。
「わっ! もう夕方かよ!」
「いえ、まだ三時過ぎですが」
「じゃあどうしてこんな暗いんだよ」
「陽が遮られてるんですよ、見て下さい窓の外」
鬱蒼とした森林は頭上で林道を覆い、おまけに霧まで出始めたらしく、先程からヘッドライトで照らしているももの、視界は白濁した闇に包まれていた。
「どんだけ山奥なんだよ。まったく所さんも……」
佐々木さんが独りごちているときだった。
ヘッドライトが前方の人影をとらえた。
「あ! 第一村人発見!」
思わず声を上げた後、怖気が走った。
全身白装束の人の形が、濃い霧の中浮かんでいた。
「……お遍路さんだよ」
絶句する車内、ようやく口を開いたのは藤本さんだった。
四国霊場八十八カ所を巡礼する遍路巡り、話には聞いていたが実際目にしたのははじめてだった。
「なんだよ脅かしやがって」
「一応、抑えときますか?」
「いいよ、村人じゃないし。時間のムダ」
驚いた手前ばつが悪いのか、佐々木さんは吐き捨てるように言った。
のろのろと徐行しながら追い抜きざまに盗み見た。
白装束の容貌は菅笠の影で見えなかった。
秋の日はつるべ落としでカーナビが目的地到着を告げた頃、あたりはすっかり暗くなっていた。
とっくに村には入ったはずだが、人の気配はおろか民家さえ見当たらず、かと言って開けた田畑があるわけでもない。さらに道幅の狭まった林道が霧の向こうに消え入るだけだった。
車内はいつの間にか沈黙に浸されていた。
もともと寡黙な藤本さんは別にしても、あの饒舌な佐々木さんまでもが押し黙り、苛立った気を発している。
「おかしいなあ、たしかこの辺りなのに」
重い沈黙に耐えきれず、か細い声を上げてみた。
「おい、停めろ」
佐々木さんに顎で命じられ、僕は路肩に車を停めた。
「どうしましょう……」
「情けない声出すなよ。しょうがねえ、ちょっと降りてみるか。膀胱もパンパンだしな」
ジッパーをつまみおどける佐々木さんに、車内の空気が一瞬なごんだ。
「わっ!」
突然、藤本さんの巨体が跳ね上がった。釣られて僕らも跳ね上がり、藤本さんが指さす車の外へ目をやった。
白装束の人影が、ゆっくりと車を追い抜いていった。
「おい、まさかさっきの……」
「そんなはずないです。だって追い抜いたのはもう二時間以上前……」
いくら徐行運転とはいえ、徒歩でこの距離に追いつくはずはない。
他の巡礼者に違いない。けれどそれらしき人物を追い抜いた覚えはない。
いままで無理矢理抑え込んでいた恐怖が、じわじわと胸奥からせり上がってきた。
「……引き返しましょうか?」
「バカ! なに言ってんだよ!」
微妙に上擦った怒号が車内に響いた。
「俺らは心霊スポット取材に来たわけじゃねえんだ。いいか、これはダーツの旅だ。村人発見するまで帰れるなんて思うなよ!」
尿意の限界なのかただの武者震いか、佐々木さんは震える手で内側のドアハンドルをつかみ、勢いよくライトバンのドアをスライドさせた。
「ギャーーーーーーーーーーッ!」
もんどり打った佐々木さんが、背後の藤本さんに倒れ込んだ。
開いたドアの外には、懐中電灯の明かりに浮かぶ第一村人の顔があった。
見た目五十がらみと思われる第一村人は赤銅色の顔に深い皺を刻み、禿げ上がった頭に汚れたタオルを巻いていた。
えんじ色のハイネックから浮き出た筋肉が僻地に暮らす住民の逞しさを感じさせる。
男は険しい顔で車内を見回した後、仰向けに倒れた佐々木さんに視線を据えた。
「どっから来たん?」
おそらくは地元訛りであろう、奇妙なイントネーションで男が言った。
「あ、あの……僕たち東京のテレビ局から……」
激しい動揺を隠しながらも、佐々木さんの対応はさすがだった。
ダーツの旅のロケでは最初から番組名を明かさない。
村人がそれに気づいたときのリアクションを抑えるためだ。
見れば藤本さんもすでにカメラを構えている。
男は訝しげな顔で腕を組み「……東京……テレビ……」と呟きながら、突如閃いたように目を見開いた。
「ほんだら、所さんのっ!」
素っ頓狂な声と所さんの名前に、僕らはようやく安堵した。
「そうです、そうです、僕たちこの村の良いところを聞いて回ってるんです」
佐々木さんはいつものペースを取り戻し、人懐っこい声で話を振る。
「そうけ、そういうわけだったか……」
男はなにに納得したのか神妙な顔でうなずくと、佐々木さんの腕をつかみ車の外へ引き摺り出した。
「ちょ、ちょっとなにするんですか!」
「ええけん、アンタらに見て欲しいもんがあるんじゃ!」
男はつかんだ腕をなおも引っ張り、僕たちも追いかけるように車外へ出た。
その間際、佐々木さんのズボンの前が濡れてことに気づいたが、見なかったことにした。
草木がしげる獣道を男の先導に従いついていくと、切り立った急斜面にへばりつくような集落が現れた。
村というより隠れ里だった。
これでは見つけられないのも無理はない。
「なんでしょう? 見せたいものって」
「知るかよ。どーせしょぼい瀧とかじゃねえの?」
カメラを担ぐ藤本さんの背中に隠れ、小声でささやき合う。
男は無言で急勾配の坂を上り、遅れがちな僕らを振り返っては手招きする。
集落にはぽつぽつと灯りが見受けられたがしんと静まり返り、不思議と人の気配はない。
息を切らしてようやく追いつくと、男は民家の間をすり抜けて、さらに奥へと僕らを誘った。
さすがに不穏なものを察し、佐々木さんが男に声を掛けようとしたときだった。
狭かった視界が急に開け、すり鉢状の窪地が現れた。
燃えさかる炎が夜空を紅く焦がしている。
おそらくこの集落の住民であろう、松明を持った村人たちが炎の輪をつくっていた。
「昨日、突然あらわれただ」
僕たちはただ、呆然と立ち尽くすほか無かった。
炎の輪の中心に、見上げるほどの巨大ダーツが突き刺さっていた。
「所さん……」
佐々木さんの震える声が、隣から聞こえた。
松明に照らされた巨大ダーツの影が、踊るように、揺れていた。
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「ダーツの旅」をノベライズする
所さんの投げたダーツは四国のほぼ中心に突き刺さった。
翌朝、僕らロケ隊は出発した。
メンバーはディレクターの佐々木さん、カメラマンの藤本さん、そして今回はじめて運転手兼ADとして同行する僕の三人だ。
四国までは空路を使い、空港近くのレンタカーで白のライトバンを借りた。
ハンドルを握り、生あくびを噛み殺す僕に気づいた佐々木さんが呆れた声をあげる。
「おいおいしっかりしてくれよ、まだ空港出たばかりだぜ」
「すいません、あんま寝てなくて」
「お? 寝てない自慢か?」
ミラー越しにニヤついた視線をよこす佐々木さんは現場叩き上げのディレクターで、多少皮肉屋なところはあるけれど、僕のような下っ端にも気さくに接してくれる。
「楽しみすぎて寝付けなかったんです。憧れでしたから、ダーツの旅」
その言葉に嘘はない。
小学生の頃から欠かさず観てきた「笑ってコラえて!」
その名物コーナーへの同行が決まったとき、僕は人目もはばからずガッツポーズを決めた。
「よく言うぜ!」
佐々木さんは顔をしかめながらも、満更ではなさそうに背中を後部座席に預けた。
「言っとくけどお前の思ってるようなロケじゃねえよ。なんつっても相手は素人だ。使える
リアクションなんてそうそう撮れるもんじゃねえ」
「え? じゃあ、ひょっとして第一村人ってのも?」
「こっちで決めてんだよ、当然だろ。なあ、フジもっちゃん、この間のR村、本当は第なに
村人だっけ?」
「第四十八村人」
寡黙な藤本さんが、巨体を縮こませぼそりと言った。
いきなり出鼻をくじかれた気分だ。
でもそんなことでヘコむようでは制作会社のADなんて務まらない。逆にどんな状況にあってもあれだけのVを上げてくる佐々木さんたちに映像職人の凄味を感じた。
車は市街地を抜けひたすら国道を進み、やがて急峻な山々が連なる四国山脈へ分け入る。
山間部に入ってからの林道は驚くほど整備されておらず、慎重な運転を余儀なくされた。
予定していた到着時刻は大幅に遅れそうだった。
後ろの席で寝息を立てていたふたりがようやく目を覚ました。
「わっ! もう夕方かよ!」
「いえ、まだ三時過ぎですが」
「じゃあどうしてこんな暗いんだよ」
「陽が遮られてるんですよ、見て下さい窓の外」
鬱蒼とした森林は頭上で林道を覆い、おまけに霧まで出始めたらしく、先程からヘッドライトで照らしているももの、視界は白濁した闇に包まれていた。
「どんだけ山奥なんだよ。まったく所さんも……」
佐々木さんが独りごちているときだった。
ヘッドライトが前方の人影をとらえた。
「あ! 第一村人発見!」
思わず声を上げた後、怖気が走った。
全身白装束の人の形が、濃い霧の中浮かんでいた。
「……お遍路さんだよ」
絶句する車内、ようやく口を開いたのは藤本さんだった。
四国霊場八十八カ所を巡礼する遍路巡り、話には聞いていたが実際目にしたのははじめてだった。
「なんだよ脅かしやがって」
「一応、抑えときますか?」
「いいよ、村人じゃないし。時間のムダ」
驚いた手前ばつが悪いのか、佐々木さんは吐き捨てるように言った。
のろのろと徐行しながら追い抜きざまに盗み見た。
白装束の容貌は菅笠の影で見えなかった。
秋の日はつるべ落としでカーナビが目的地到着を告げた頃、あたりはすっかり暗くなっていた。
とっくに村には入ったはずだが、人の気配はおろか民家さえ見当たらず、かと言って開けた田畑があるわけでもない。さらに道幅の狭まった林道が霧の向こうに消え入るだけだった。
車内はいつの間にか沈黙に浸されていた。
もともと寡黙な藤本さんは別にしても、あの饒舌な佐々木さんまでもが押し黙り、苛立った気を発している。
「おかしいなあ、たしかこの辺りなのに」
重い沈黙に耐えきれず、か細い声を上げてみた。
「おい、停めろ」
佐々木さんに顎で命じられ、僕は路肩に車を停めた。
「どうしましょう……」
「情けない声出すなよ。しょうがねえ、ちょっと降りてみるか。膀胱もパンパンだしな」
ジッパーをつまみおどける佐々木さんに、車内の空気が一瞬なごんだ。
「わっ!」
突然、藤本さんの巨体が跳ね上がった。釣られて僕らも跳ね上がり、藤本さんが指さす車の外へ目をやった。
白装束の人影が、ゆっくりと車を追い抜いていった。
「おい、まさかさっきの……」
「そんなはずないです。だって追い抜いたのはもう二時間以上前……」
いくら徐行運転とはいえ、徒歩でこの距離に追いつくはずはない。
他の巡礼者に違いない。けれどそれらしき人物を追い抜いた覚えはない。
いままで無理矢理抑え込んでいた恐怖が、じわじわと胸奥からせり上がってきた。
「……引き返しましょうか?」
「バカ! なに言ってんだよ!」
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「俺らは心霊スポット取材に来たわけじゃねえんだ。いいか、これはダーツの旅だ。村人発見するまで帰れるなんて思うなよ!」
尿意の限界なのかただの武者震いか、佐々木さんは震える手で内側のドアハンドルをつかみ、勢いよくライトバンのドアをスライドさせた。
「ギャーーーーーーーーーーッ!」
もんどり打った佐々木さんが、背後の藤本さんに倒れ込んだ。
開いたドアの外には、懐中電灯の明かりに浮かぶ第一村人の顔があった。
見た目五十がらみと思われる第一村人は赤銅色の顔に深い皺を刻み、禿げ上がった頭に汚れたタオルを巻いていた。
えんじ色のハイネックから浮き出た筋肉が僻地に暮らす住民の逞しさを感じさせる。
男は険しい顔で車内を見回した後、仰向けに倒れた佐々木さんに視線を据えた。
「どっから来たん?」
おそらくは地元訛りであろう、奇妙なイントネーションで男が言った。
「あ、あの……僕たち東京のテレビ局から……」
激しい動揺を隠しながらも、佐々木さんの対応はさすがだった。
ダーツの旅のロケでは最初から番組名を明かさない。
村人がそれに気づいたときのリアクションを抑えるためだ。
見れば藤本さんもすでにカメラを構えている。
男は訝しげな顔で腕を組み「……東京……テレビ……」と呟きながら、突如閃いたように目を見開いた。
「ほんだら、所さんのっ!」
素っ頓狂な声と所さんの名前に、僕らはようやく安堵した。
「そうです、そうです、僕たちこの村の良いところを聞いて回ってるんです」
佐々木さんはいつものペースを取り戻し、人懐っこい声で話を振る。
「そうけ、そういうわけだったか……」
男はなにに納得したのか神妙な顔でうなずくと、佐々木さんの腕をつかみ車の外へ引き摺り出した。
「ちょ、ちょっとなにするんですか!」
「ええけん、アンタらに見て欲しいもんがあるんじゃ!」
男はつかんだ腕をなおも引っ張り、僕たちも追いかけるように車外へ出た。
その間際、佐々木さんのズボンの前が濡れてことに気づいたが、見なかったことにした。
草木がしげる獣道を男の先導に従いついていくと、切り立った急斜面にへばりつくような集落が現れた。
村というより隠れ里だった。
これでは見つけられないのも無理はない。
「なんでしょう? 見せたいものって」
「知るかよ。どーせしょぼい瀧とかじゃねえの?」
カメラを担ぐ藤本さんの背中に隠れ、小声でささやき合う。
男は無言で急勾配の坂を上り、遅れがちな僕らを振り返っては手招きする。
集落にはぽつぽつと灯りが見受けられたがしんと静まり返り、不思議と人の気配はない。
息を切らしてようやく追いつくと、男は民家の間をすり抜けて、さらに奥へと僕らを誘った。
さすがに不穏なものを察し、佐々木さんが男に声を掛けようとしたときだった。
狭かった視界が急に開け、すり鉢状の窪地が現れた。
燃えさかる炎が夜空を紅く焦がしている。
おそらくこの集落の住民であろう、松明を持った村人たちが炎の輪をつくっていた。
「昨日、突然あらわれただ」
僕たちはただ、呆然と立ち尽くすほか無かった。
炎の輪の中心に、見上げるほどの巨大ダーツが突き刺さっていた。
「所さん……」
佐々木さんの震える声が、隣から聞こえた。
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