「まどか☆マギカ」の、スピンオフではない二次創作コミック、映画前に続々登場中。マミさんが31歳だったり、マミさんとほむらが一緒に暮らしたり、幸せそうな「まどか☆マギカ」でいっぱいです。

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『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語』が今週末から上映されます。
最速深夜0時上映もびっくりするくらい全国で行われます。異例じゃないですかね。
完全に終わったように見える物語からどう展開していくのか、楽しみです。
楽しみというか、ほむらちゃんはどうなるんですか……。

さて『魔法少女まどか☆マギカ』が、哀しみの物語なのは……もう隠さなくてもいいですよね。
魔法少女達の重すぎる宿命を描いた作品です。
それからしばらくたって総集編映画があり、芳文社からは『まんがタイムきらら☆マギカ』という、まどか漫画オンリーの雑誌が創刊されました。
一つのアニメのアンソロジー的なものを、雑誌として刊行するというのは、かなり珍しいこと。続くの!?って思ったけど、続きましたねえ。
アンソロジーと違って「連載ができる」という強みがあるのが、雑誌のいいところ。

映画公開にあわせるように、それがどばー!っと一気に単行本一巻として発売されました。
もーね、「それまどか☆マギカなの?」っていうような作品がぽこじゃか出てくるんですよ。
前回紹介した『ほむらリベンジ!』は割とストーリー寄り。もう一回ほむらがループするというシリアスな話でした。
今回は本編と全く関係ない作品をいくつか紹介します。

●『巴マミの平凡な日常』1巻
マミさんが31歳(独身彼氏なし・派遣社員)の漫画です。もうすごいよね何もかも。
元々は二次創作の同人誌で出されていたものです。2011年当時は、まどかの同人誌に触れていた人なら噂くらいは知っているだろう、ってくらい超有名でした。
それがまさかの公式スポイル。そんな時代になったのねー。

さて、今アラサー独身女子の、ちょっとルーズなだらしないところがかわいいー、って漫画じわーっと増えているんです。2010年以降だと思います。僕も大好きです。
独身女性が普段は気を引き締めていても、部屋に帰るとお酒飲んでずぼら、これが愛しい、っていう作品。まあ愛しくなくても笑える、とか。
20代、30代だと、あるあるだったり、恋愛対象がその年令だったりするので、流行るのはちょーっとわかります。
この謎の「だらしない女性ブーム」にうまくマミさんの一人ライフを重ねたのがこの作品。

周りの友達がまあ、大人化しているのがこう、ぐっとくる。悪い方に。
さやかは恭介と結婚して二児の母。杏子も結婚して一児の母。まどかは婚約したばかり。ほむらはまどかの弟のタツヤと結婚。
マミさんはというと、彼氏がいるってウソをついて、独身ライフ街道まっただ中です。
なんでや! マミさんモテないわけないだろ! ……とか思いますが、これが妙に似合っているから困る。

描かれるのは魔法少女の彼女たちではありません。つか少女じゃないよもう。
マミさんというキャラを使った、独身派遣社員女性の生活です。
なので「まどか☆マギカ」を求めている人には、「設定違うじゃん!」となりかねない作品です。
なんですが、もう一人暮らしマミさんがかわいすぎるのでどうでもよくなります。(結婚しよ)。

個人的に一番好きなのは、ソウルジェムの濁りは重曹で落ちるという設定。主婦の知恵かよ。
同人誌時代からあったネタですが、これがあるおかげで魔女化しないという極めて合理的なオチになってます。
こうやって年取っていくなら、魔法少女なんて町内会の役員程度の重さなので、なっても全然哀しくないねえ。
おばあちゃんになっても彼女達ワイワイやってそうな気がするんですが。
マミさんの一人暮らし、悲哀と笑いに満ちています。でも間違いなく、これは幸せ。

●『見滝原アンチマテリアルズ』1巻
「きらら☆マギカ」シリーズではぼくのイチオシ。
アニメでは「ワルプルギスの夜が来るので、共同戦線をはる」という話があります。
そちらではほむらが杏子と組んでいるのですが、マミさんはほむらを嫌っていました。ドラマCDではマミさんが杏子と組んでいた、というのも明かされています。
で、その世界線とは全くかぶっていません。

こちらは「共闘を申し込みたい」というほむらに対し「なら私の家に一緒に住めばいいんじゃないかしら?」とマミさんがとち狂ったことを言い出します。
とち狂ったというか、本来まどかやさやかがイメージしていた「優しくてステキな先輩のマミさん」がこの漫画のマミさんなんです。
ほむらは原作のまま、ぶっきらぼうでざっくりした性格のまま(5周目)。
かくして、ちょっとテンションが高くて、カタチから入るのが好きで、でもおせっかいながらも優しくて笑顔のステキな「巴マミ」と、マイペースであまり相手のことに干渉しない主義、だったはずがマミのペースにすっかり飲まれて気づいたらマミのことが気になって仕方ない「暁美ほむら」の、楽しすぎる毎日がはじまります。

物語の整合性としては「二週間後の共闘」を申し込んでいますし、ほむらループ設定も生きているようです。
ですが、ぶっちゃけ二週間以上たってます。
何やってんの君たちー! ワルプルギスの夜いっちゃったんじゃないのー!?
でもいいんです。この漫画は共闘をリアルに描く漫画ではなく、ルームシェアものですから。
百合かというと、うーん、読む人によって変わると思います。ただ、ルームシェアをしているマミさんとほむらの凸凹コンビの関係は、本当にニヤニヤします。
さやかとまどかは魔法少女になってなく、杏子は仲良しとして一緒にいる。
ああ、なんて幸せな時間なんだろう。
魔法でテレビ番組争いできるなんて、幸せなことだよ。

どちらの作品も、舞台設定が同じという意味の「スピンオフ」ではありません。「二次創作」「スピンアウト」です。ここは注意。決して、本編と関係ありません。
これらの作品のように、「きらら☆マギカ」の作品群や、まどか二次創作同人誌は、キャラクター達がハッピーに過ごす作品がとても多いです。
この現象に対して、山川賢一は『成熟という檻』の中で、キャラクターに捧げる「鎮魂歌」だと述べました。
2011年当時はその評論を読んでもピンときませんでした。
しかし今、本当に最後の映画版、『[新編]叛逆の物語』を目前に、キャッキャしているマミさんやほむら、いつまでも幸せに暮らしそうな面々を見ていると、感じるんです。
確かにこの幸せが手に入ればよかったのに、入らなかった。幸せな彼女たちを描くのは、その不幸と、少女の喪失に対してのレクイエムなのだ。ジワジワ心に染みてきます。
せめて、二次創作の中でくらいは、彼女達に幸せになってほしい。

鎮魂歌を読んでほっこりしながら、映画版どうなるか、ノーガードで挑もうと思います。

あらたまい 『巴マミの平凡な日常』1巻
みゃま 『見滝原アンチマテリアルズ』1巻

(たまごまご)