9月15日、ヤクルトのウラディミール・バレンティン(29歳)が今季56本目となる本塁打を放ち、1964年に王貞治氏(元巨人)が打ち立てたプロ野球のシーズン最多本塁打記録55本を49年ぶりに更新した。

85年のランディ・バース(元阪神)、2001年のタフィ・ローズ(元近鉄)、02年のアレックス・カブレラ(元西武)―今までに3人の外国人選手が“55本超え”に挑戦してきたが、露骨な四球攻めに遭うなどして誰も記録を破ることができなかった。しかし、バレンティンはこの“聖域”をわずか出場113試合で乗り越えてしまったのである。

今回の記録達成には海外の野球ファンも大いに関心を寄せている。

「アメリカの野球ファンの多くは過去の例からして、そう簡単にサダハル・オーの記録を抜くことはできないだろうと見ていました。つまり、55本が特別な数字であるということも知った上で注目していたのです。しかし、今回はあっさり記録更新となりましたよね。そのことに少なからず驚きの声が上がり、『日本の野球も変わった』とさえ言う人が多くいます」

また、「あのバレンティンがやっとここまで……」と大砲の覚醒に目を見張る人も。

「07年当時、彼は在籍していたシアトル・マリナーズで、超一流スラッガーの可能性を持つ若手有望株として将来を嘱望(しょくぼう)されていた。しかし、パワーはあるけど打撃技術は未熟なまま3年を過ごし、いつしかファンにも忘れられていました。その彼が海を渡り、日本記録を達成するまでに覚醒。今やメジャーに復帰すれば、間違いなく活躍できるという意見が圧倒的に多いですね」(福島氏)


続いてお隣の韓国では、まったく別の観点から報じられていた。『ソウル新聞』の東京特派員で元プロ野球担当記者のキム・ミンヒ氏はこう言う。

「アジアの本塁打記録は、03年に韓国リーグでイ・スンヨプが記録した56本でした。なので、バレンティンが51号を放った8月28日あたりから、連日『記録が抜かれる!』といった報道がされ、海外スポーツとしては異例の扱いが続いていました。本人も記録を抜かれて『私の記録は韓国記録でバレンティンは日本記録。舞台が違う』と悔しそうなコメントをしています。ただ、国民は意外と冷静な反応で『日本の野球はやはりレベルが高いなあ』と、むしろうらやんでいる様子です」

そして、バレンティンの故郷・オランダ領キュラソー(カリブ海南部の島)の人々は大喜び。今オフの凱旋パレードに加え、キュラソー政府による“国民栄誉賞”授与も検討されているという。

それでは“本土”ではどうか?

オランダ在住のスポーツライターの中田徹氏はこう漏らす。

「一応、記録を達成した翌日にオランダ最大の発行部数を誇る『デ・テレフラーフ』紙に新記録の記事は掲載されましたが、ほとんど話題にはなりませんでした。残念ながら、『バレンティンって誰?』という人が大半でしょうね。ネットでは、『別の島で生まれ育った野球選手が、われわれオランダ人に誇りを与えた』といった野球ファンの声も一部にはありますが、オランダで野球はあくまでマイナーなスポーツですから。そもそもサッカー欧州チャンピオンズリーグのバルセロナvsアヤックス戦が18日に控えていたので、国民の関心は完全にそちらに向いていました。タイミングも悪かったですね」

今春行なわれた第3回WBCでオランダ代表の4番としてチームの快進撃を支えたというのに、この扱い……。もうちょっと関心持ってあげてよ!

(取材・文/コバタカヒト)